03
感想ありがとうございます。いつも楽しく見ています。
きちんと連載を完結させることでお返事とさせてください!
また、日間異世界恋愛で2位に入ることができました。
重ねてお礼申し上げます。
リルムが再び目を覚ました場所はふかふかの寝具の上だった。手触りからして上等であることがわかる。そして、いつも感じていた饐えたような、自分の死の匂いが消えていることがわかった。
(…死ねなかったのね)
知らない場所では安易に動けない。
それでなくても、ここ最近立ったこともない。きっと動くにしても這いずるしかできないだろう。
目を開けて、周囲を確認することも怖くてできない。もし、目を開けたときに目の前に父親がいれば、今度こそ目を潰されかねないからだ。
生を諦めた身でも、痛い思いはしたくない。それ以上に、目を開かないことが習慣として身についてしまっていた。
(誰かいるような気配はない…?
気を失う前に、凄く良い香りのする人がいたのは覚えているけれど)
最後に感じたぬくもりと芳しい匂いを思い出す。
あれが最期の記憶になれば、どれほど幸せだったろうか。でも、現実はそう甘くないらしい。このあと自分はどうなるのだろうか。
せめて痛い思いをしないといい、などと考えているとドアの外から気配がした。
慌てて身を起こす。
「!? 起きて大丈夫なのか?」
「はい、ありが…とう、ございます」
心配するような台詞が聞こえたため、反射的に礼を言う。
けれど、どうにか絞り出した声はガラガラだった。みっともないと殴られるかもしれない。いつ振るわれるか分からない拳に怯え、反射的に身を固くする。
だがいつまで経っても痛みは来なかった。
それどころか、更に気遣わしげな声が重ねられる。
「無理はするな。その…俺はあなたを決して害したりはしない」
言っている意味がわからなくて、リルムは反応に困ってしまう。
その様子が伝わったのか、慌てている気配がする。それから、あのいい香りもする。それだけで何故か安心してしまった。ほんの少しだけ緊張をほどく。
「その…色々話を聞きたいのだが、まずその前に」
真剣な声音だ。自分なんかに誠実に話そうとしてくれる様子が窺えて、リルムは少し変な気分になる。こんな風に優しい感情を持って接して貰うのはいつぶりだろうか。
例え利用されるのでも構わない。自分も誠実に話そう、と身構えていると、とんでもない言葉が降ってきた。
「俺は君の番だ。多分、君も同じように芳しい匂いのような何かを感じているのではないかと思う。
良ければ、結婚を前提に付き合ってほしい」
「けっ…こん?」
意味が分からなくて問い返してしまう。
「お前何言ってんだ」
バシン、と軽く叩く音がした。それだけで体が強ばる。
どうやら他にも人が居たらしい。聞いたことのない声なことだけはわかった。
「シン…彼女が怯える」
「っと、そうか。そんな状況じゃこういう音がするだけでもトラウマ刺激しちまうのか。
すまないな、お嬢さん。
でも、ラスティンもアホ過ぎやしないか?
保護とかいう言葉はどこいったよ」
「それは…だな」
「いやほんと、番って怖いわー…。
俺絶対会いたくない」
結婚や番といった未知の言葉が飛び交う。
ただ、リルムに優しく話しかけてくれた、良い匂いのする方がラスティン。後から入ってきた方がシンという名前であることはわかった。
色々と聞きたいことはあるが、どう尋ねていいかわからない。そもそも、喋ろうにも声が酷くて殴られるかもしれないのだ。
「あぁ、すまない。
まだ体調が本調子ではないのに分からない話を延々としてしまったな。
まずは体力の回復に専念してほしい。ここには君を害する者は一人もいない」
「あ、それは俺も保証するぜ。
ガズムって国わかるかな? 俺そこの第二王子なんだこれでも。で、コイツは幼なじみ兼将来のお目付役予定」
記憶の彼方から、祖母に教えられた知識を引っ張り出す。
ガズムとはこの国の隣にある大国で、その気になればこの国など一昼夜で滅ぼされる、と聞いた気がする。その国の、王子。
リルムの血の気がサーっと引いた。
「も、申し訳ありませんでした!!」
痛む体を無理矢理動かし、どうにかして平伏する。
彼の言葉を信じるのであれば、失礼にも程がある状況だ。
よく考えればそれほどの力がある人でなければ、弱小国の公爵家に押し入ることなど出来やしない。たぶん、本当のコトなのだ。
だからこそ、この状況はまずい。無礼打ちされても仕方がない。
「えーーー!? こういう反応になっちゃう?
っていうか、どこにそんな体力あったの!?」
「無茶をするな。絶対安静なんだぞ!」
「で、ですが…」
「あ、そうか。命令したら安静に寝てくれるかな?
そっちの方がいい?」
命令と言われると、どうしていいかわからなくなる。
オロオロとしながら必死で考えを巡らせていると、ラスティンの声が聞こえた。
「頼む、安静にして欲しい。
コレも俺も確かに祖国ではそれなりの身分ではあるが、ここでは一留学生なんだ。
何より、俺もコイツも絶対安静の女の子に平伏されて喜ぶほど落ちぶれちゃいない」
懇願するような声音に、おずおずと顔を上げる。
すると、ほっとした雰囲気が流れた。
「すまんが、触れるぞ」
ラスティンに優しく抱き上げられ、もう一度寝かせられる。
彼の腕の中は何故だか酷く安心して、離れてしまうのが少し寂しかった。
「ここに居る人間は、絶対に君に危害を加えない。それはシンもそうだし、俺もだ。
だから、まずは自分の身を大切にしてほしい」
手を握られ、懇願するように言われる。触れられた手が熱い。
自分よりも大きく骨張って強そうな手。それから、ただの人間ではあり得ない長い爪の感触。けれどそれらは不思議とリルムに安心感をもたらした。
「がんばり、ます」
ガラガラの声。
自分を大切に、というのは正直よくわからないけれど。
きっとラスティンは本当のことを言っているのだと思えた。このいい匂いがもたらす錯覚なのかもしれないけれど。
「ありがとう。
今はそれで十分だ」
優しい声音。
芳しい匂い。
ラスティンの傍は生まれて初めて感じる心地よさをリルムに与えてくれた。
心地よさと安心感からリルムは眠気に襲われる。
「眠いか? それも当然だ。
ゆっくり眠って、きちんと食べて、早く元気になってくれ」
「体調が万全じゃないと手ぇ出しづらいもんねー。
あいたっ! トラウマ刺激するようなコトすんなよ」
「どう考えてもお前が悪い」
賑やかな二人の声をBGMに、リルムは眠りに落ちた。
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