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紡がれゆく物語  作者:
3/7

騎士

 俺の年下の幼馴染は間抜けな騎士だ。


 幼いころから、体も大きく力も強いくせに、おとなしくいじめられているくらいには間抜けだった。


 町外れの野っ原で年下の子どもたちと一緒になって遊んでいるところを魔獣に襲われたときも、ひとり逃げずに残って魔獣に食われかけるくらいには間抜けだった。


 びゃーびゃー泣く末の弟から話を聞いて、研いでいる途中の鎌を手に慌てて駆けつけてみれば、ダラダラ血を流しながら棍棒片手に魔獣と睨み合っていた。


 こういう時はさっさと逃げてこいと殴っても、俺は足が遅いからと言いやがる。そのあと、やつは三日三晩寝込んだ。それ以来、やつをいじめようとするガキはいなくなった。その代わり、まとわりつくガキが増えて煩わしそうだったが、奴は文句をいうこともなく面倒をみていた。


 遠い親戚筋のもとで騎士見習いになって街を離れるとき、仕える相手が嫌なやつならさっさと逃げてこいと声をかけると笑っていた。


 騎士に叙任されたとお袋さんのところに報告に帰ってきたとき、貸してやるから絶対に死なずに四十年後に返しに来いと長剣を押し付ければ泣いていた。


 騎士になって十年以上過ぎてから、ようやくもらった嫁さんに、浮気したらこれでちょん切ってやれよと渾身の切れ味の鋏を贈った時も泣いた。嫁さんは喜んで、小型の刃物一式を特注してきた。幼馴染の行く末を心配したが、嫁さんは治癒師で、治療に使うと聞いて胸をなでおろした。


 面倒くさい仕事ばかり押し付けられていたが、逃げるという器用さがなく、しぶとく死なないために、気がつけばやつはかなり出世していた。


 息子が術士になりたいと言い始めたので、見習いに雇ってくれるよう知り合いの術士に口きいてくれと頼んだら、うちから通えばいいからと都にある術士院の入学手続きをしてくれた。


 田舎者の俺たちは知らなかったが、術士院はやんごとない身分の、高等な教育をうけた方々ばかりが通う場所だった。


 周りのやつらと日常会話が通じないと嘆く息子からの手紙で初めて知った。それでも、萎縮するような可愛い性格をしていない息子はのびのびと学生生活を送っているらしく、幼馴染からは安心してほしいと手紙がきた。


 いじめられた息子がのびのびと、えげつない報復をして幼馴染に迷惑をかけるんじゃないかと危ぶんだが、無用な心配だった。


 どうやら、幼馴染はお貴族さまのなかに放り込まれた田舎者の小倅に手出しできないくらいに睨みをきかせられる存在らしかった。


 息子が後ろ盾を遠慮なく活用するときも、やつの奥方と組んで禁術扱いされるような呪いを開発したときも、貴族のお偉いさんたちの懇願を振り切って故郷に戻ってきたときも、幼馴染は頼もしいと笑い飛ばしていた。


 俺の幼馴染は、器のでかい頼りになる騎士だ。


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