鍛冶師
僕の父は偏屈な鍛冶師だ。
包丁から鎌や鉈、果ては剣まで、刃物と呼ばれるものならなんでも打つ。
そのくせ、気に入らない相手には絶対になにも売らない。相手が貴族だろうがおかまいなしだ。
試し切りもできねぇといけねぇからと、剣もそこそこに使えて、自警団の指南役なんてものもたまにしている。
腕に覚えのある新入りをぼろぼろにするのが楽しみらしい。いい性格をしているといえば、お前ほどじゃねぇよ、謙遜するなと返される。
同じ理由から、獣の解体も料理も畑仕事も、結構なんでもできる。厳つくごつい外見からは想像もつかないほど器用だ。
だから母がいなくなってからも、僕と妹を取り立て不自由なく育ててくれた。
妙なこだわりはあるが、頭は固くない。柔軟な考えも持っている。
僕が術士になりたいと言い出した時も反対しなかったし、妹が後を継いで鍛治師になると言い出した時も止めなかった。
なりたいってんなら、やってみりゃいいと、伝手を頼って僕を都の術士院に送り出してくれたし、妹には鍛冶場への出入りを許してくれた。文句を言うやつは黙らせた。
なんとか僕が術士になり多少稼げるようになって、都から家に送った金はそのまんま壺の中に貯めていた。故郷の結界師の職を得て帰郷した時に、自分で使えと壺ごと渡された。肩が抜けそうになった。
恩人に頼まれたとかで、父が長期間、留守にしてる間にその金で実家を建て替えたら、余計なことすんじゃねえと殴られた。
隠れて泣いてやがったよと後で妹が笑いながら教えてくれた。
父は、最近、ようやく半人前になったといわれている妹と一緒に、少し広くなった鍛冶場で毎日カンコン音を立てながら働いている。時々、怒鳴り合いも聴こえてくる。父の血管が切れるんじゃないか心配になるが、兄貴に鍛えられているから大丈夫だろと妹は笑い飛ばす。妹の言動がどんどん父親に似てくるのが心配だ。
研ぎに関しては妹の方が才能があるらしく、妹が客から指名されると悔しがってみせるが、実は唇の端が緩んでいることを僕も妹も知っている。
婚約を報告した晩、父は母の眠る墓の前でひとり酒を飲んで酔いつぶれていた。家に連れ帰ろうにも重くて諦めたら、妹が回収してきた。少しは体を鍛えようと思った。
翌日から客が訪れるたびに息子が嫁をもらうんだといいふらしていた。ついでに、妹の婿になれそうな男はいないかと尋ねては妹に殴られていた。
しばらく浮かれていたようだが、その間に打った剣は出来栄えが素晴らしかったらしく、騎士たちの間で争奪戦になったらしい。
僕の父は尊敬できる、とても腕のいい鍛治師だ。