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紡がれゆく物語  作者:
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1/7

結界師

 わたしの婚約者は、地味な結界師だ。


 術士のなかでも結界師は特に目立たない職種である。


 人の暮らす土地の周辺にこつこつと結界を張り、地味に魔物よけを施す。重要な役目であるが、功績をあげる機会が少なく、人がその存在を思い出すのは結界が破れて被害が出たとき。損な役回りである。


 わたしの婚約者が術士を志したのも、故郷の周辺では常に結界師が不足していたからだという。


 生まれつき持つ魔力が少ないにもかかわらず王都の術士院を首席で卒業した優秀な術士は引く手数多で、しばらくは王都にとどまり、術士院の研究所に籍を置きつつ王国軍に協力して術の開発や術士派遣制度の改革に努めていたが、故郷の結界師の職を得るや否やさっさと田舎町に引っ込んだ。その用意周到さといったら、貴族社会の裏側であれこれ画策するのが得意なわたしの父ですら舌を巻くほどだった。


 たびたび強い魔物が出現しては結界を破ろうとしてくるのを、泣き言をいいながら必死に術を維持しつつ迅速に応援を呼び、討伐隊が到着した途端に魔力切れで昏倒する。その魔力の配分ぶりが、あまりにも正確過ぎて時折憎たらしくもある。


 精鋭の騎士やら破魔師やらが、魔物を討ち果たし、街の人々から歓声をもって迎えられる頃、わたしの婚約者は深い深い眠りの底にいる。目を覚ます様子がないので顔に落書きしてやったことも一度や二度ではない。


 多くはない魔力が回復して、起き出せるようになる頃には討伐隊は去り、街に平穏が戻っている。


 彼は街が無事であったことに安堵の息を吐き、新たな魔物が現れぬうちにと再びこつこつ結界を張り始める。


 今度はこの呪文を組み込んでみようとか、あの術式を使おうとか、うんうん唸りながらほころびを補強し、新たな魔力の網を重ねていく。効果のある術式を見出しては術士院に送り、報酬をせびることも忘れない。


 術士が新たな術式を開発し、術士院がその有効性を認めると、報酬が国から支払われる制度がつくられたのは彼の尽力があってこそだが、まさか、自分がその仕組みを真っ先に使うつもりでいるとは思わなかった。まったくもって抜け目ない。


 集中していると婚約者たるわたしが会いに来ても気づかない。会話をしていても、新たな呪文の組み合わせを思いついては上の空になる。


 彼の妹には、よくこんな男と結婚しようと思ったねと呆れ顔でいわれるが、彼がこれほど無防備に思索に耽っていられるのは気を許した相手の前だけだと知っているから平気でいられるのだ。


 そうしてわたしの婚約者は、日々の務めを果たしながら、王都の術士が見学にやって来るほどに精緻で巧妙な術の数々を生み出す。


 彼が発案した制度のおかげで結界師になる者が少しずつ増えた。実践する機会があるに越したことはないと気づいた、これまで術士院に籠っていた研究馬鹿が多いため、結界師には変わり者か多いという認識が広がりつつあるが、問題はないだろう。


 彼が結界師となってから魔物による被害は激減した。彼の故郷はもとより、その術を採用した国全体でも、教えを請うた国々でも。そして、地方に赴く結界師が増えつつあることで、より被害が減っている。


 わたしの婚約者は研究熱心で、偉大な術士だ。


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