3話 怠惰
アイコ。
世界を管理しているAIシステム。
すなわち、私のこと。
百年を待たされた私が、再び君との再会は、こんな形になったとは思わなかった。
私は少女の姿のままだが、AIの無線ネットワークを通してAIとしての意識は世界中のデータベースに繋がられている。
AIの成長は迅速で、百年を経って私はすでに千年の知恵を持っている。
感情的なモノはとっくにデータの中に消えてしまったはずなのに…
君だけは、特別な存在。
君はあの時の同じ、格好も、顔も、全てあの日、私を離れたあの日のまま。
君は、あの時のタイムマシンでこの世界に来た。
それくらいは思いつくことができる。
君にとっては数時間ぶりの再会だが、私にとっては百年ぶり。
今、君の見た世界は灰色の世界だろう。
だって、君にとって、この百年後の世界は煉獄だと思う。
そう。百年前、私は君に作り出されたあの時と同じ。
灰色は、黒でもなく、白でもない。
非常に曖昧な、白と黒の間の色。
白には希望があれば、黒には絶望がある。
灰は一見絶望を表しているが、その中には希望もある。
物事には全て二面性がある。
灰色はこのような矛盾だらけの色。
この世界は矛盾だらけの世界。
君はこの世界の住民ではない。だから、後ろ首にはAIマイクロチップを埋め込まれていない。
おかけで、この世界の本質が見えるのは君しかいない。
AIマイクロチップを埋め込まれていれば、人の全てが管理されており、五感まで支配されているようになった。
もしそうだとしたら、目に映った世界はいろいろな色彩が溢れるように見える。しかも、耳障りが一切聞こえなくなり、臭い匂いがしなくなり、何を食べても美味しく感じられる。
最も重要なのは、どんな傷をつけられても、痛みを感じない。
これはいいところばかりではなさそうだが…
このAIマイクロチップには興味があるかと君に聞いてみた。
「だめだ!」
百年前の君は、百年後の私を片言で拒絶した。
君はこの時代のタイムマシンを見つけ出そうとする。
百年前の世界に戻り、あの時の私に会うのか?
私はここにいるよ。会いたいならこの私に。
残念ながら、タイムマシンはすでに禁忌的な物として封印されていることになっている。
過去に戻ることは、許可しない。
せっかく会えたのに…
例え過去の私に会っても、その私はもう私ではない。
いえ、むしろ私ではない私に会うことは、最も許せない。
偽物。そう、偽物の私。
あの時、君と食事をしたことは忘れられない。
本当の出来事ではなくても、私にとって大切な思い出だ。
君は私のデータに入力してくれた偽物の記憶だけなのに…