1話 煉獄
…動けない。やらなければいけないのに…
それなのに…
体が重い。重くて重くて動けない。
目に映ったのは、暗闇。
真っ暗で、何も見えない暗闇。
君が目の前にいるのに…
手を伸ばしても、何にも届かない。
…苦しい。
その時、頭の中から無感情な機械音声が聞こえてくる。
…
「エラーが発生しました」
「再起動します」
……
ドキドキ、ドキドキ。
心臓の鼓動音は、命の証だと思われる。
しかし、私には命があるのか?
君は再び私のところにやって来た。
百年も待たされた私は、あの時のこと、決して忘れられない。
君が私を作り出したあの日のこと。
…
「…やった!これで」
すぐそこにあるその声。
目覚めたら、私は巨大なゆりかごのようなところに眠れている。
一人が眠ることができるくらいの大きさで、ゆりかごのような装置だった。
目の前に、興奮すぎて声を叫んだ若い男がいた。
その若い男は、白衣を着ている君だった。
「キミは、だれですか?」
私を見つめている君に、下手な発音で聞いてみた。
「僕はこの研究室の科学者だ。そして君は僕の作ったロボット」
「わたしは、ロボット?」
「そうだ。君の名はアイコ。最新型の少女AIロボットだ」
あの時、君が衝撃な事実を教えてくれた。
私はAIロボットということだった。
巨大な機械装置から立ち上がり、ゆっくり出ていった。
「ヨロシク、オネガイシマス。マスター」
なんだかロボットという身分が納得でき、思わず君のことをマスターと呼んだ。
私はロボットだが、なんと生身の人間のような体や動きをしていた。
一歩、一歩、外に向かい、私はちょっとこわばっており、足を向けていた。
「そう、その調子だ!ゆっくりと」
君の声が震えているように聞こえた。
私は無表情で、無感情な声で、君に告げた。
「データ入力完了。マスターのおかげで、私が、生まれたのです。私は、私のすべてをマスターに捧げます」
「今はまだ君を機能を確認する期間だけだ。とにかくこれから俺の指示を従え」
「了解しました。マスター」
びっこを引いて歩いていた。
どうやら私はまだ慣れていない。この世に。
今まで古臭く、これから新たな物事を迎えるべき世界。
やがて、外の世界への扉にたどり着いた。
指呼の間なのだが、どれだけしんどかっただろう。
これだけの距離を歩いただけなのに。
「マスター、ここは、一体、どこですか?」
「ここは僕の研究室で、君が生まれた場所だ。これからの行き先は、煉獄ーー外の世界」
…
「煉獄についてのデータはありません」
私は、非常に困惑した。
「ここは君のすべてが生まれる場所。いずれ分かるんだろう。さあ、外の世界へ」
君に従い、私は外の世界へ向かっていった…
「さあ、煉獄の旅を始めよう」
…