ある老婆の最後のラーメン
腹ごしらえの為に馴染みの店に来た。
俺の事務所がある雑居ビルの目の前にある万腹亭という店。ここの店主は齢100を超える老婆であり料理一筋80年超えの凄い人である。
今も現役で1人で店を切り盛りしている。
「いらっしゃい、探偵の坊主。何にするんだい?」
「ラーメンの持ち帰りをお願いしたく・・・。」
「持ち帰えるって、うちには岡持ちとかないよ?幾ら何でも、事務所が目の前だからってそれは無茶だろう?ここで食べりゃいいだろ?」
老婆に正論を突きつけられた。
「岡持ちなら持ってきました。」
「アンタがそれでいいってなら構わないさ。ラーメンは何ラーメンだい?」
「味噌ラーメンを2つお願いします。」
「ゆで卵、もやしを入れて一人前450円で良いかい?」
「それでお願いします。」
言い忘れていたが、この店は変わった店でメニューや品書きと言ったものはなく、客が料理名を言うと店主が値段を提示し、確認を取り料理を作る。
料理の腕は確かで、かなり美味い。
この老婆、驚く事に調理師免許を持っていない。
資格は食品衛生責任者と防火管理者との事。
気になったで老婆に聞いた尋ねた事があるのだが、食材は全て早朝、市場に行き仕入れる。河豚は知り合いの調理師が免許を持っているのでそこから仕入れているらしい。
「ちょっと待ってな。」
老婆は厨房の方へと行き料理をし始めた。
「お待たせ。」
20分が過ぎた頃に老婆はラーメンを盆に乗せ、戻ってきた。
岡持ちの機能は駄女神曰く収納と同様のものらしいので、できたのラーメンをすぐに入れた。
「どんぶりは返さなくて良いよ。もうそろそろ引退しようかと思ってね。」
老婆は遠くを見ながら俺に語った。
「最近食事ができなくなってね。入院するのさ。」
・・・。
「そうですか・・・。それは残念です。」
幼少の頃から通っていた馴染みの店が無くなってしまうのは寂しいと感じた。
事務所でラーメンを食べ終えて、再び資料に目を通す。
次の依頼のプランをどうするか考える。
こうして俺の1日は終わる。
後で人伝てで聞いた話だが、数日後、元号が変わった日の未明に老婆は息を引き取ったらしい。
・・・食の女神様にこの最後のラーメンを届けたいと思った。




