第8話「俺vs女神」
映像の中の俺は魔法少女くるりんちゃんに出てくるサブキャラ、くるるんちゃんの薄い本でナニをしている。
腕を組み余裕な表情を見せつつも、内心は叫び出したい気分だった。
「ゆ、勇者様も男性ですから、私はこの程度気にしませんよ」
明らかにドン引きしつつも、必死な笑顔を貼り付けて俺を励ます少女。その優しさが余計にツライ。
「まぁ、男だしな。仕方ない」
魔王のぶっきらぼうな言葉にグサっときた。まぁさっきまで俺も「魔だ王」とか言ってたから当たり前か。
どうせ勝ち誇った顔でニヤニヤ俺を見てるんだろ? そう思いチラリと魔王を見たが、魔王は俺とは反対方向を見ている。もしかして映像を見ないようにしてくれてるのか?
「コラコラ魔王さん、ちゃぁんとみないとダメじゃないですかぁ」
「お、おい。何をする、何だこの力は」
そっぽを向く魔王に対し、女神が何か力を使ったのだろう。
必死にそっぽを向こうとする魔王の顔がギギギといった感じで回され、無理矢理映像を見るようにされた。
「……すまん」
「いや、気にしないでくれ」
わざわざ謝って来る魔王。実はコイツ良い奴なんじゃないか?
「別にもう見られても気にしないし。むしろ見られて本望だぜハッハッハッハ」
俺が出来る必死の強がりだ。
魔王も少女も映像の中の俺を見て蔑んだりしない。ここで俺をバカにするのは女神だけだ。
この女神が俺をバカにしても効果が無いと分かれば飽きてやめるだろう。
「ふぅん。そっか」
俺の反応に女神がツマラナイと言った様子だ。そしてそこで映像の再生を止めてくれた。
俺は何とか耐えきることが出来た。
「見られても気にしないなんて、流石勇者様ですねぇ」
語尾にハートマークでも付きそうな甘い声で女神は言った。
愛らしくもどこかいやらしい、下品な笑みを浮かべながら。
「ほらほら、見られてるけど良いんですか?」
「あっ……」
女神の言葉の意味が俺にはわからなかった。ソレに気付いたのは魔王だった。
驚きの声をあげた魔王を見ると、魔王の視線は映像の中の俺より少し上にある。
魔王の視線の先に目を向けてやっと俺も気づいた。
「か、母さん!?」
俺の部屋の扉がちょこっと開いているのだ。そして開いた扉の隙間から母親が俺を覗いていたのだ。
「あああああああああああ!!!!!!!!!」
俺は叫んだ。
膝を落とし。頭を抱え亀のように自分の体を丸め、甲羅に隠れるが如く小さくなりながら叫んだ。
女神を名乗る悪魔の声が聞こえないように。
『脳内に直接語りかけれるってば」
「あああああああああああ!!!!!!!!!」
それでも叫び続けた。
脳内に直接語りかけられようが、映像が見えなければ良い。
必死に目を瞑り叫び続ける。
『脳内に映像を映す事も出来まぁす』
「あ、悪魔。お前は女神なんかじゃない、悪魔だ」
「そーゆー事言っちゃうんだ。そんな悪い勇者様には追加のお仕置きをプレゼントしないといけないわね」
えっ、追加ってまだ何かあるの?
映像に目を向けると、静止状態だった画像が早送りされている。
映像の中の俺が制服に着替えて部屋を出た後から通常再生になった。
「えっ、ちょっ。待って」
俺が居なくなった後の部屋のドアが開かれる。
開けた主は母だ。掃除機を持っているので部屋の片づけに入っているのだろう。
部屋に入り片づけをしようとした母親が一冊の本に気付いた。俺がナニをするのに使ったくるるんちゃんの薄い本だ。ちなみに内容はレ●プ物だ。
幼い魔法少女をレ●プする薄い本、手に取って内容を確認した母さんが片手で口を押え、涙を流している。
そりゃあ自分の息子が、漫画とはいえ少女をレ●プする本読んでナニをしてるの知ったら泣くよね。泣きたいのは俺の方だよ!
そのまま掃除機片手に、部屋を出て行った。本を元の場所に戻して。
映像は続いていく。今度は居間の映像になっていた。
『ただいま』
『おかえりなさい。今日はみー君の好きな唐揚げ作っといたわよ。もう少ししたら晩御飯出来るからね』
『部屋に戻るから、出来たら呼んでよ』
『はいはい、わかりました』
そう言って部屋に戻ろうとする俺を母親が「その前にちょっと良い?」と呼び止める。
この時の俺は成績があまり良くなくて母親に小言を言われることが多かった。明らかにうんざりしたような顔で「なんだよ」と返事していた。
『最近テレビや新聞で若い子の犯罪が取り上げられてるでしょ? みー君はそんな事したりしてない?』
『んなのしてねぇし』
『本当に?』
『やってないって』
『そう、それなら母さん安心したわ』
『それじゃあ俺部屋に戻るから』
そう言って部屋に戻る俺を、物悲しそうな笑みを浮かべて見送る母さん。
「ああああああああああああああああああああ」
「ねぇねぇどんな気分? 今どんな気分?」
地面に膝を着き泣き叫ぶ俺。
そんな俺に女神が嬉しそうに心境を聞いて来るが、そんなのに答える余裕なんてあるわけがない。
「それで、私にいう事はないの?」
屈みこみ、俺に目線の高さを合わせ顔を覗き込んでくる。
鼻が触れそうな程の至近距離まで顔を近づけてくる。普段の俺なら女の子の顔がこんなにも近づけば動揺の一つや二つはするが、今はそんな状況ではない。
「もちろん。まだ歯向かうなら他にもあるけどどうする?」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
心を無にし、土下座をしてごめんなさいを繰り返した。
折れた、俺の心はもう完全に折れてしまった。
「私に忠誠を誓うっていうなら、別にアンタを許してあげても良いんだけど」
俺はこの女神に完全に敗北した。
もう女神に歯向かわない。忠誠を誓おう。
そう思って顔を上げると、目の前に居た女神が居ない。
代わりに魔王が俺を女神から隠すように立ちはだかっていた。
「いきなり斬りつけるなんて危ないじゃない!」
「次は俺が相手になってやろう」




