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第7話「用済み」

「このダ女神が!」


「いったあああああああい」


 俺のヘッドバットをモロに受け、デコを抑えてうずくまりゴロゴロと転げまわるダ女神。

 思った以上の石頭で、正直俺も同じように転げ回りたい気分だがグッと堪える。

 その様子を見ていた魔王と少女は、目を見開き驚きの表情で固まっていた。もはや展開についていけてない様子だな。当たり前か。


「そもそも魔王」


「な、なんだよ」


 いまだにゴロゴロと転げまわるダ女神は一旦放置して、まずはコイツだ。

 いきなりヒロイン殺すっておかしくね? コイツの言い分もわかるけど、それにしてはいきなりすぎる。

 同じ苦しみを味合わせるという動機はわかるけど、まだ話し合いの最中だよ?


「お前何でいきなり彼女を殺してるんだよ。おかしいだろ? まだ話し合いの最中だったから手を組んで国と戦うという選択肢もあっただろ?」

 

「確かに、言われてみればそうだが……」


 予想外の反応だった。もっとこう「うるせぇ! 殺したいから殺したんだ」みたいな反応を想像してたのに。何か煮え切らないな。


「あっ、それ私! 私! 毎晩魔王の夢枕に立って、魔王と同じ姿になって『お前が殺されたら勇者は少女と思いを遂げるだろうな。お前はそれで良いのか? 同じ苦しみを味合わせたくないのか?』って語りかけてたのよ。最初はコイツも否定してたけど、いやー1ヵ月以上粘った甲斐があったわ」


 やってる事が完全に悪魔か邪神じゃねぇかよ!

 とは言え、そんなのに屈したコイツもコイツだな。魔王名乗ってるんだからしっかりしろよ。

 目を細めて魔王の奴をジーっと見つめると「な、なんだよ」とバツが悪そうな顔をしている。


「この魔だ王が」


「魔だ王ってなんだよ……」


 まるでダメな己の意思も貫けないウザキャラ、略して魔だ王だ。

 もう完全に戦意喪失してる魔王とやらは放置で良いな。次はコイツだ。


「なんでお前はいつもいつも、良い所でテンプレを外すんだよ!」


 腕を組みドヤ顔をしている女神のデコを人差し指でグリグリしながら、耳元で叫んでやった。


「何言ってるの? 愛する少女を目の前で失い魔王を倒す。そして本当の敵は国だとわかり次は国を相手にする。完璧なテンプレ展開じゃない!」


 俺の言葉に、ドヤ顔を崩すことなく胸を張って反論するダ女神。


「ちげぇし! だから貴様はダ女神なのだ!」


「そもそもさっきから『ダ女神』『ダ女神』って何よ!」 


「駄作の女神でダ女神だ! わかったら返事しろダ女神!」


 何か反論をしようとしているが、上手く言い返す言葉が見つからないのか顔を真っ赤にしながら目に涙を溜め始めた。

 この口喧嘩の勝ちを確信し、口角をあげた俺を見て、女神がニタァといった感じで物凄く気味の悪い笑みを浮かべだした。


「ふふふ、あはははは。アーッハッハッハッハッハ」


 あれ。もしかして、言い過ぎちゃった?

 どう声をかけようか悩んでる俺に対し、厨2病でよく見る顔を斜め上に向けながら右手で抑えるポーズを決め始めた。


「その程度で勝ったつもりとか、無様ね。良いわ、私がここに来た理由を教えてあげる。アンタはもう用済みよ!」


 女神の口から出てくるセリフは、どう聞いても悪役のセリフだった。

 物語のラストの方で出てくる邪神とかが言いそうだな。


「ほう。用済みか、ならどうする? 殺すのか?」


 チート能力はダ女神から貰ったものだから多分奪い返されるだろう。

 その後に殺されるのだろうか? コイツは生き返らせる事も出来るから、死んだらすぐに生き返らせてという永遠の苦痛を与えると言い出すかもしれない。

 正直怖い。ただここまで啖呵を切って置いて「ごめんなさい」なんて真似は出来ない。

 緊張で喉が渇いていくのがわかる。俺はごくりと生唾を飲んだ。


「殺す? そんな勿体ない事しないわ。だってまだ1作目ですもの、アンタにはまだまだ働いてもらうわ」


 殺される可能性は無いようだ。

 内心ホッとしつつも、顔に出さないように必死に女神に睨み付ける。まだ助かったと決まったわけでもないからだ。


「ただアンタには躾が必要ね。二度と歯向かえないようにしてやるわ!」


 躾、一体何をされるんだ!?

 必死に身構える俺に対し、女神が右手を掲げると、いつのまにかその手にはバレーボール位の大きさの水晶のようなものが握られていた。

 水晶を持った手を前に出し、左手の人差し指を下げた。

 左手の動作に合わせたように部屋の中が暗くなっていく。


 暗くなった部屋で水晶だけが謎の輝きを放っている。

 すると水晶が壁に向けて光を放ち。壁には何やら映像が浮かんでくる。この水晶はプロジェクターみたいなものか。……これは俺の部屋?

 そしてそこには、俺が映っていた。


「ふ~ん、くるるんちゃん本か」


 魔王の奴がボソっと言ったのを、俺は聞き逃さなかった。

 魔法少女くるりんちゃんは深夜アニメなのに、それがわかるって。もしかしてこいつも俺と同じオタクなのか?


 映像の中の俺は本棚から一冊の本を取り出していた。それは俺の愛蔵書魔法少女みらくるくるりんちゃんの薄い本だ。

 今回は映像付きで俺がオ●ニーしてる所を公開してやろうという魂胆か。

 だが甘いな。この程度予想していなかったわけではない。今の俺なら耐えられる!


「この程度で、俺がまた動じるとでも思ったか?」


 フッと笑い、余裕の表情を女神に見せてやる。正直両足は生まれた子牛のようにガクガクしているが。


「そう、私がこの程度で済ませると思った? その余裕がいつまで持つか見ものだわ」

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