第6話「テイク2」
俺の名は多田野貞道。歳は18だ。
剣道で全国大会を制覇した帰りにトラックと衝突。気づけば森の中に立ち尽くしていた。
森の中で悲鳴を上げる少女の声。それは野盗に襲われている少女が助けを求める声だった。
危ない所を助けた俺に、少女が語ったのは辛い過去だった。
ここはどうやら異世界で、魔王が君臨し悪さをしているそうだ。
つい最近魔王軍の一部が彼女の住む街を襲い、その際に彼女の両親が魔王軍に殺されてしまった。
遠い親戚を頼るために乗り合いの馬車で移動している際に野盗に襲われたのだとか。
「こんな事を初対面のあなたにお願いするような事じゃないのはわかっています。でも、お願いです、魔王を倒してください。パパとママの仇を」
彼女はチートで簡単に野盗を倒す俺の腕前を見て、必死の懇願をした。
「私に出来る事なら何でもします、だから」
泣きじゃくり必死な少女。俺はその少女の頭を撫で、笑顔を見せる。
「わかった、その魔王とやらを倒してやるよ。弱き者を助ける、それは剣士として、男として当然の務めだからな。だから泣き止んでくれないか?」
俺はその少女の願いに応えるため、魔王を倒すための旅が始まった。
女神にしては意外とテンプレな旅が出来た。
街の人達を困らせるドラゴンを退治したり。
妖精王から勇者の祝福を受けたり。
そして伝説の勇者が残したという武具を探しだし、ついには聖剣を手に入れた。
勿論そんなシリアスなイベントだけでは終わらない。
たまたま彼女が着替え中に部屋に入ってしまったり。
倒れた際に偶然のキス。
その他色々なラッキースケベなイベントもキッチリ抑えてある。
そして魔王城に向かう途中で、彼女が魔王に攫われてしまった。
これもまぁテンプレに近いな。大事な人を取り戻すという熱い展開ではあるし。
次々と現れる魔王の四天王とやらを倒し、ついに魔王が待つ玉座までたどり着いた。
「フハハハハ、ついにここまで来たか異世界から呼ばれた勇者よ」
魔王城の奥にあるだだっ広い空間、その奥には無駄に大きいイスが置いてある。魔王はそこに座っていた。
漆黒の鎧を身に纏い、黒髪に黒目と完全な黒一色。驚くことに魔王の顔立ちはどう見ても俺と同じ日本人だった。
その魔王の横に、十字架に張り付けられた少女が「勇者様、私は良いから魔王を、パパとママの仇をお願いします」と叫んでいる。
「フッ、勇者様か」
「何がおかしい!」
「笑わずにはおられぬだろう。何故ならオレもかつてはこの世界の召喚され、勇者と呼ばれていたのだからな」
何だと?
こいつもかつては勇者だった?
「俺にも大切な女性が居た。だが国の奴らは魔王を倒した俺を恐れ、事もあろうか俺を彼女もろとも始末しようとしてきたのだ」
魔王の過去話が始まった。かつては国に召喚され勇者として崇められた彼が、魔王討伐を果たすと今度は手のひらを返したように国や仲間達は彼を裏切り、彼の命を狙ったというテンプレ展開か。
「一つ聞かせてほしい、それでは何故彼女の街を襲った? 国に対して復讐するのは仕方ないにしても、無関係の街を襲うのはやりすぎだ!」
「違う! それは俺じゃない。俺はまだ人間を襲うような指示を出してなんていない!」
魔王の遺憾だと言わんばかりの表情を見ると多分ウソではないのだろう。
となると彼女の街を襲った犯人は誰か? 暴走した魔王軍の配下の可能性もあるけど、多分彼女の住む国が犯人なんだろうな。
世界を救った彼の悪い噂をいくら流したとしても、救って貰った事のある人達が素直にそれを信じるとは思い難い。彼を匿う可能性もあるし、場合によっては革命だって起こり得る。
ならば彼の名を騙り、魔王軍としていくつか街を襲う方が効果的だ。まさか国がやっていたなんて思う者は少ないだろう。
魔王となった彼には悪いが、ラノベとして書くにはこの上ないシチェーションが揃っている。
1.展開としては魔王である彼をここで倒してから、彼女のために国に復讐をする。
話し合いの結果次第だけど、もし国の王とかに復讐しただけじゃ飽き足らないと言うなら、ここで彼を倒すしかない。
2.魔王とと手を組み国に復讐する。
勇者と魔王が手を組む熱い展開だ。
四天王の皆さんは殺してないから、まぁ多分セーフだろう。
どちらにせよ、話し合いをして魔王の処遇を決めるか。
それで国に復讐してざまぁ展開は確定したようなものだ。どの程度人気が出てるか分からないが、女神がケチつけに来ないという事はそれなりに評価は貰っていると思う。それならざまぁ展開でタグも付ければ一定の人気が得られるはず。完璧だ。
「まぁいい。お前にも味合わせてやるよ、俺の苦しみを」
ニヤニヤと展開を考えていたせいで反応が遅れた。
魔王が近くにあった槍を引き抜くと、それを少女めがけて投げつけた。そしてその槍は少女の左胸に深く突き刺さった。
口から血を吐き、俺に笑顔で「魔王をお願いします」と言って絶命する彼女。
いやいやいやいや、ちょっとまって!?
「おいダ女神! さっさと出て来いや!」
「ハッハッハ。どうした勇者、現実がうけと」
「うるせぇ! お前はちょっと黙ってろ!」
少しムッとした顔で黙る魔王をよそに、俺はダ女神を呼び続けた。
「もう。せっかく良い展開なのに呼び出して、なによ!」
「うぉっ!?」
急に出て来たダ女神に驚く魔王だが今は無視だ。お前の処遇については後で決めてやる。
今すぐこの自称女神をぶん殴りたい衝動を抑え、出来る限り冷静に努める。
「彼女を生き返らせる事は出来るか?」
「当然じゃない。私を誰だと思ってるの」
ダ女神だ。
「なら生き返らせろ。今すぐにだ!」
俺の剣幕に押され、一瞬ビクッとして「もう何なのよ」とブツブツ小言を呟きながら少女の元に向かうダ女神。
「ささやき~いのり~えいしょう~ねんじろ!」
おい。それ失敗したら灰になるヤツじゃねぇよな!?
不安とは裏腹に、彼女のキズが塞がっていく。
目を開けた彼女を見て、一安心してホッと一息つく。
「どうよ!」
生き返ったのを確認し、俺の元へ来てドヤ顔で胸を張る女神。
俺は女神の両肩に手を置いた。
「な、なによ。そんな別にお礼にチューとかしなくても良いわよ」
少し照れたように頬を赤らめる女神に向かって、俺はヘッドバットをお見舞いした。