第3話「違う、そうじゃない」
外に出てから1時間は歩いただろうか、そこで初めてモンスターと遭遇した。
相手はゴブリンと呼ばれた子供位の大きさの、キモイ人型のモンスター4匹だ。
「やべぇぜ、相手はゴブリンだ。兄ちゃん、戦闘は出来るかい?」
斥候のおっさんが「やべぇ」と言っておきながらも全く悲壮感が感じない。モンスターが弱すぎるからふざけているのだろう。
戦士も魔法使いも同じように「あぁ、ここで俺達は全滅してしまうのか。おぉ神よ」等と言っている。そういうノリ、嫌いじゃないよ。
「一人一殺、生きて又ここで会おうぜ!」
同じようなノリで親指を立てる俺に、おっさん達もニヤリと笑みを浮かべて親指を立てる。そして各自それぞれがゴブリンの元へ走り出した。
戦闘に関してどんなチートを持っているかわからない、だからここで試しておくべきか。彼らの反応を見る限り、このゴブリンは相当の雑魚なのだろう。
一体どんなチートを貰えたんだろうか、もしかしてワンパンで何でも倒せちゃう能力とか? 流石にそこまで行ったらやりすぎな気がするけど。
ニヤニヤと笑みを浮かべてゴブリンに殴りかかった俺だったが、ゴブリンのカウンターパンチがもろにみぞおちに入り、そのまま腹を抑えて蹲ってしまう。
何これ……ゴブリンのパンチ速すぎるんだけど。
ゴブリンが殴ってくる瞬間が見えなかった。
他の3人を見ると、目にも止まらぬ速さのゴブリンパンチを涼しい顔で避けている。戦士や斥候は前衛職だからまだわかるとして、魔法使いのおっさんまでもふざけたポーズを取りながら避けている。
3人には俺がふざけているように見えたのだろう、誰も助けに来てはくれない。必死に助けを求めようとするが上手く息が出来ず「たしゅ……け……」とまともに助けを求める声すらあげられない。
しばらくして、あまりに殴られ過ぎてる俺を見て「これはやばい」という事にやっと気づいて助けてくれた。
「その……すまんな」
「いえ、こちらこそ戦力外で申し訳ありません」
困った顔で頬をポリポリと掻きながら、謝罪する戦士のおっさん。
魔術師のおっさんに優しく治療魔法をかけてもらいながら「いえ、こちらこそご迷惑をおかけしました」と謝っておいた。
「兄ちゃん。戦闘は俺らに任せて後ろで応援しててくれや」
「……わかりました」
☆ ☆ ☆
遺跡に近づくに従い、モンスターは強力なものになって行く。
「でりゃああああああああ!」
緑色の肌に2mを軽く超える長身のオーク。
戦士のおっさんが自分よりも遥かに大きいオークを剣で一刀両断していく。
「流石戦士さん、カッケーっす!」
俺の応援に気を良くした戦士のおっさんが、こちらを振り返り笑顔で親指を立てる。いやいや、戦闘に集中しろよ。
こちらを振り向いたおっさんの後ろには、まだオークが10体以上残っている。
「ファイヤブラスト」
魔術師のおっさんによる、広範囲に爆発を起こす火属性魔法ファイヤブラスト。戦士のおっさんに襲い掛かろうとしていたオーク達を爆発が襲う。
ファイラブラストにより10体以上居たオークは、ほとんどが体から煙を上げ倒れている。
こちらをドヤ顔で見てくる魔術師のおっさん。あぁ、褒めてくれって事か。
「ま、魔術師さんの魔法の前ではオークなんて無力っすね!」
俺の応援にドヤ顔でポーズを決めている。満足してくれたようだ。
黒煙から数匹のオークがこちらに向かい走って来るのが見える。どうやらファイヤブラストで仕留め損ねたオークのようだ。
あの威力の魔法でも全滅させるには至らなかったようだが、オーク達はどれも死屍累々と言った感じで、中には歩く事すらやっとのモノもいる。
そんなオーク達に、すかさずトドメをさして行く斥候のおっさん。
「斥候さんの早業に俺の心が痺れるっす!」
あっという間にオークの群れも全滅させたおっさん達。正直めちゃくちゃ強い。
うん、だけどそうじゃない。そうじゃないんだ!
「女神さん? 聞いてますか女神さん? ちょっと出て来てもらえますか?」
突然叫び出した俺に、おっさん達が「えっ」といった感じで見てくるがこの際無視だ。
女神さん、違うんだよ、そうじゃないんだよ。これじゃダメなんだ。
「おう、兄ちゃん。急に叫び出してどうしっ」
「もう、何よ? いきなり呼び出して」
俺の呼びかけに女神が来てくれた。ちゃんと俺を見ていたようだ。