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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

白夜 極夜

Tシャツ

作者: 山目 広介

 私は今年の春から工場に勤め始めた。


 人見知りで人付き合いも苦手だった。だから接客業なんてとても無理だった。

 事務仕事なんかも書類の処理はいいとしても電話の対応とかそういうのが出来そうになかったため、引き籠れそうな仕事を探して、工場に行きついた。




 従姉のお姉ちゃんに言われたことがある。

 人見知りだからと言って挨拶は疎かにしてはいけない、と。




 朝、早くに仕事場へ行く。

 守衛さんに挨拶をして、休憩室で皆が来るのを待つ。

 人が少ないときに挨拶するからか、守衛さんたちにはすぐに顔を覚えてもらったらしく、ほとんど顔パスになっていた。今日は門を通る際、他の人と何かやり取りをしていたが、気付くと手を上げてくれる。会釈で私は通り過ぎる。

 守衛の仕事として、それで本当に大丈夫なのかが、ちょっと心配になる。


「おはようございます」

「おはよう、(しょう)ちゃん。いつも早いわね」


 先にいた、山田のおばちゃんに挨拶するとすぐに返事が返ってくる。

 私の一つ前の工程を担当していた。シングルマザーで息子さんがいるらしい。

 

「おはようございます」

「おはよーさん。今日はカエルか」


 村田のおじさんもやってきた。

 私の後工程の人だ。娘を溺愛していることで皆に知られている。


「おはようございます」

「おっはよー。けろっ!」


 脇田さん。いつもやかま……、いや、騒々し、いやいや、元気な人だ。


「おはようございます」

「おはよう、シャケ?」


 ―― パシッ ――


「よく見なさいよ、これは虫偏でしょ! カエルよカエル。魚偏でしょ、シャケは!」

「ちょ、脇田さん! どっから出したの、そのハリセン!」

「こんなこともあろうかと、昨日余ってゴミになる厚紙で許可貰って作ったわけ。まさかソッコーで役に立つとは思わなかったけどー」


 ゴミ箱の後ろにあったハリセンはこのためだったんだ。その先見の明にちょっと感心してしまった。

 脇田さんは左手でハリセンを握り、右掌にパシパシとしながら仁王立ちをしていた。

 叩かれた相手である、森崎君は頭を擦りながら文句を垂れていた。

 くすくす。

 いいなー。ホント仲が良い。他の人も笑っている。




 因みにこの騒動の原因は私のTシャツだ。

 Tシャツに「蛙」と漢字で書かれ、「けろ」っと平仮名が書かれていた。絵はない。


 このTシャツにはとても感謝している。従姉のお姉ちゃん、ありがとう。


 従姉のお姉ちゃんが着ないTシャツを私のタンスに入れていく。というか一つは丸々Tシャツだけだ。

 いろんなTシャツがあるため、口下手な私が皆の話題に通常は入れなかったが、これをただ着てくるだけで話題になり、学校のように ただいるだけの背景に陥らなくても済むようになったのだ。

 いろんなTシャツ、例えば映画の蜘蛛ヒーローだったり、舌出しの有名な科学者だったり、なぜか北海道の地図だったり。


 そんなこんなで始業時間が迫っていた。体操が義務付けられている。

 そして体操が終わると朝礼が始まる。始業だ。


 ◇◆◇


 それは春先の事。

 面接は別の場所だったため、工場の中は初めてだった。

 きょろきょろとしていると不審に思われたのか、男女に二人組がやって来る。


「どうしたの? 新しい人? どこ行きたいの?」


 一度に幾つも尋ねられて、動揺してパニックになってしまう。


「そんなに一度に訊くもんじゃないよ。えっと、まずは挨拶だよな。おはよう」

「えっと、おはようございます」


 挨拶をされて、少し落ち着く。


「どこ行きたいの?」

「えっと……」


 それが森崎君と脇田さんに会った最初のことだった。

 そしてそれが一目惚れでもあった。


 ◇◆◇


 終業時間。皆と別れ、工場を出る。

 帰り道。東の空に浮かぶ雲は夕日に照らされて、背景の色の濃くなった群青の空に良く映えて綺麗だった。

 そんなことを思うのも空の千変万化の色彩が奇麗と教えてもらったからだ。

 

 ◇◆◇


 休憩中での会話で興味のあることを教えてもらった。


 流石興味があること。話が途切れない。

 話を聞いてしまう、好きな人のことは何でも知っていたいから。


 北欧に行ってみたいと。

 気象光学現象がいろいろ見られるらしい。

 特にグリーンフラッシュが目的だそうだ。

 朝日か夕日か。但し日の入りの方が素人には狙いやすいという。どちらかで見れる可能性があるらしい。 可能性、つまり常に見れるわけではないということだ。

 他には小笠原諸島とかでも見れるらしい。しかし見れても1、2秒とのこと。

 しかし高緯度ならば日の入りや日の出の瞬間の時間―― 時刻 ――ではなく、太陽が完全に隠れる時間などが角度によって長くなるために、長い間、観測できることもあると聞いたことがあるようで、それを体験したいらしい。

 また、極めて条件が厳しいらしいけども、ブルーフラッシュというものも見れるかも知れないからこそ北欧に行ってみたいらしい。


 グリーンフラッシュ自体極めて珍しいそうだ。

 水平線や地平線などに太陽が隠れるかどうか、というギリギリで目撃される。

 もちろん雲などがあっても当然見れない。

 しかも空気が澄んでないといけないらしい。澄む、透明度が高いということ。


 天体の撮影とかもしているらしい。

 そしてその撮影時における大気による色ズレが起こるそうだ。




 相槌だけでは聞いてるとは思われないかも知れないため、質問もしてみた。


「てんたい?」

「ああ、天体って簡単に星の事さ」




 星の撮影で天辺付近の方が青っぽく、地上に近い方が赤っぽく、一つの星の端が色付くそうです。

 真上以外では、大気という光を屈折させるもの――水やガラスのように――によって斜めに光が入ってきているために、波長――光の色――によって屈折率が違うから色が分かれる――分光する――そうだ。


 そのことがグリーンフラッシュでも同様のことがあるらしい。

 ただ、この場合、太陽が朝焼け夕焼けのように赤く染まっている理由の一つとして、光が届く道中にレイリー散乱をすることがより観測を困難にしているらしい。


 レイリー散乱、光の波長より小さい粒子による散乱で、光の振動数の4乗に比例するらしい。

 それによって散乱されるため、日中の空が青いそうだ。




 でもその原理だとより振動数の高い――つまり波長のより短い――紫では?

 そんな疑問も、紫、振動数が高い方が個々の光子――光の粒子――のエネルギーが高く数が少ないという理由と、人の目の感度の問題で紫よりも青の方が感度が高いからだ、と答えてくれる。




 それで大気中を進む間に青い光が散らされ、夕日や朝日が赤く見えるようになるそうだ。


 例えば、黄砂が大量にやってくると午後の早い時間から陽が黄色く色付いていたりもするらしい。

 うん、気にしていないから、分かりません。言わないですが。


 そして色ズレの効果は地平線、水平線に近いほど大きい。

 どれほどか。大気がないと比べると太陽一つ分浮き上がっているそうだ。

 色だけによってはそこまで差はないけども、差があるために、こういった現象が見れるらしい。


 大気の透明度が高いと散乱されずに残った光が見えるらしい。散乱されやすい青や緑の光にも拘らず。




 高気圧なら天気はいい。だが気圧が高い、つまり密度が高くレイリー散乱されやすくなることでもある。

 低気圧ならいいか? そんなわけもなく、天候が悪くなるし、屈折率も落ちてしまう。屈折率が落ちると分散、大気の色ズレが弱くなるそうで、それだと条件が良くない。

 気温によっても変わるのだろう。




 そんな条件が厳しく珍しい現象だからこそ、ぜひ見てみたい、という。




 ◇◆◇


 近道の公園にて長く伸びる影法師を眺める。

 私もそんな夢を持ちたいと思う。

 それでも今もそんな回想をしながら幸せに浸れる。

 充分に幸せなひと時だった。




「白夜」という作品のアキラの過去 名前が晶しょう ハンドルがアキラ

性別不詳 想い人不明 片思いの理由の謎

白夜での北欧への推薦者


キャラを先に作ったため物語が予定通りに進まなかった。

片思いが強すぎた。

初期は起承転結を

初恋/片思い/失恋/成就

と想定。

しかし失恋しなかった。

想い人に恋人が出来て失恋する予定が片思い続行。

計画が崩れた。

従姉の姉ちゃんで場を引っ掻き回したり、シングルの息子や娘を出したり。何とかしようとしたがダメだった。

仕方がないため、バッサリカット。

「白夜」でのアキラの理由として、性別不詳に修正。また想い人不明に。

腐った理由に見えるように。

片思いの理由をそうとも取れるように。


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