3.抜け出せないスパイラル
今振り返ると、もっと気楽に、とりあえず書いたものを消さずに、書き進めればよかったのだと思う。展開は思いついたのだから、あとは文章で形にするだけなのであって、とりあえずどんなに雑であろうと、大雑把に枠組みをつくってしまえば、修正は幾らでもできる。セメントとアスファルトを溶岩でぐちゃぐちゃにしたような液体でも、何度もペーパーフィルターでろ過すれば、汚水桝に流せるくらいの質の液体にいずれなるように――ってさすがにこれは無理だろうけれど。
とにかく、どんなにいびつであっても、消さずに書き進めて、後からそれを納得いくまで校正すれば良かったのだと、今なら思う。書いたそばから消すのではなく。
けれども当時は、それすらできなかった。怖かったのだ。納得のいかない文章を幾ら積み上げたところで、出来上がるものは駄文のピラミッド。駄文を積み上げていけば、自分の文章の感覚が壊れるのではないか。そして、そんなものを投稿したら、せっかく応援してくれている読者さんがみんな、離れてしまうのではないか、と。書けない自分をよそに、小説家になろうのサイトでは、多くの作家さんたちが、つぎつぎと新作を書いていた。電子書籍を出した人も、文庫本の形態で出版をした人もいた。そんななかで、進捗が滞っているのは自分だけに思えた。焦りと苛立ちばかり感じて、そして、ものすごく、悔しかった。
小説を書こうということすら億劫になっていった。就職活動はとっくに終わって時間もそれなりにつくれるようになったというのに、もはや小説のことを考えることが、億劫になってしまっていた。小説家になろうのサイトを見るのも億劫になり、気づけばログインもできなくなっていた。アイディアをしたためたノートや参考文献は、本棚の奥にひっそりとしまいこまれ、埃を積もらせていった。
もう、続きは一生書けないのではないか、そんな気持ちにすらなっていた。