2.2種類のスランプ
ひとくちに「スランプ」と言っても、その種類は大雑把に2種類に分けられるのでは、と私は考えている。「話の展開が全く思いつかない」タイプのスランプと、展開は思いついても「文章が書けない」タイプのスランプの2種類だ。
今回、私が経験したスランプは、幸せなことに、この両方だった。といっても、二つ同時に陥ったわけではない。最初に「展開が思いつかなく」なって、次に「文章がかけなく」なったのだ。
展開が思いつかない、そんな事態に陥りそうな前兆は、実はそれまでにも何度かあった。当時私が書いていたのは推理小説だったのだが、殺人トリックのアイディアが、枯渇しつつあったのだ。ものすごく物騒な表現で言い換えれば、「これ以上、犯人はどうやって相手を殺してどうやってそれをごまかせばいいんだ!」と悩んでいたのだ。
前兆を予期するたび、刑事ドラマをみたり、小説を読んだりを繰り返してなんとか乗り切っていた。それこそ、その時やっていたドラマだけでなく、もう何年も前――小学生くらいのときに見たドラマをもう一度みたり、手当たり次第に小説やマンガも読んだ。物語の人物を実際の役者さんに当てはめてみたりもした。しかしやがて、何を観ても、何を読んでも、どうやっても、乗り切れないときがやってきた。
アイディアが思いつかなくなって1ヵ月が経ち、2ヶ月が経たった。そして3ヶ月が経とうとするころ――なんとか思いついた。このときは「ついにきた!」と喜んだ。それはもう、「やっぱ私、やればできるやつだわ!」と、小躍りするほどに。しかし、そんなに世の中は甘くなかった。今度は思い描いた展開を、文章にすることができなかったのだ。
パソコンを立ち上げ、真っ白いワード原稿に向き合う。カタカタとキーボードを叩いてみるも、出来上がった文章は、全く納得のいく文章ではない。美しくない。こんな、まるでセメントとアスファルトを溶岩でぐちゃぐちゃにしたような乱暴な展開は、みやびで華やかな物語の世界観に全く合わない。バックスペースキーを押しては、すこしカタカタし、またバックスペースキー、気づけば2時間、3時間が経つ日々が続いた。
そうしているうちに、就職試験の追い込み期になり、気づけば私は小説を書くことから、ますます距離を置くようになっていた。