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陰陽雷


まるで筆でも持つかのように、山南の指先が刀の柄に触れる。

ぱちりと、鯉口が切られた。

それを見た友山の顔に、不敵な笑みが浮かんだ。


「やってみよ!」

 

かぁん!

 

 友山の口から雷声の如く気合が迸る。

 同時に、脇に置かれていた独鈷杵を掴むと、それを山南めがけて投じた。

 眼前に迫る独鈷杵を山南は、抜き放った剣で弾いた。


 だが。

 ぞくり――その瞬間、山南の背筋を冷たいものが奔りぬける。

 

 のうもくざまんだぼたなん――


 真言の(りつ)に合わせ、友山の内に高密度の氣が凝っていく。

 友山が手にした別の法具――三鈷杵が、友山より溢れた氣の光を帯びる。

その光が三鈷杵の中心の突起に集まり、二尺ばかりの蒼白い光の刃を形成していく。


降魔の利剣(ごうまのりけん)か!」

 

 咄嗟に、山南が懐から、五芒星の描かれた呪符を取り出す。


 ――ばさらだんかん!


 それよりも一瞬早く、友山が剣の如く変じた三鈷杵を放った。

 青白い光の帯を引きながら、降魔の利剣は山南めがけて宙を裂く。

 降魔の利剣が、山南の手にした呪符を突き破る。


 だが、間一髪。

 瞬間、身を転じた山南に、刃は届かなかった。


 おん!


 しかし、降魔の利剣より伸びる光の帯の端は、友山の手の内にあった。

 友山がしゃくる様に腕を振ると、光の帯に操られた降魔の利剣が、その軌道を変じた。


「なにっ!」


 あろうことか、投じられた剣が鞭のように先端を震わせると、山南を追った。

 思いもよらぬ攻撃を、頬の皮一枚で、剣で捌く。

 それでも、降魔の利剣は尚も執拗に山南を襲う。

 友山の込めた氣によって形成された降魔の利剣。それは、友山の手より伸びる氣の帯により、手足の如く自在に宙を奔る。

 その剣の軌道は、宙を舞う蜂の如く奔放であり、疾風の如く迅い。

 人の放つ剣技とは、あまりにかけ離れたその攻撃に、次第に山南が追い込まれていく。

 だが、一瞬の隙を突いて、山南が懐より呪符を放った。

 四枚の呪符の変じた、四羽の鴉が友山に襲い掛かる。


「矢張り術師崩れか――」


 慌てる素振りも無く、友山が氣の帯を手繰り寄せると、降魔の利剣が一瞬で全ての鴉を薙ぎ払った。

 紙片と化した呪符が、花吹雪の如く視界に広がる。

 その向こうで、山南が床に手を着くのが見えた。


「――急々如律令!迅雷(はやいかずち)


 その瞬間、弾けるようにして、床の上に雷が生じた。

 雷は一直線に、友山に向かい(ほとばし)った。

 

 いんだらやそばか!


 だが、伸ばした中指に人差し指を絡め、友山が床を叩くと、同じように雷が迸った。

 山南の放った雷と、友山の放った雷が、ふたりの中間で火花を上げてぶつかる。


 ぴきぃ――んぃ――


 ぎやまんを引き裂くような音をたて、空気が震えた。

 白煙が上がり、鼻を突くすえた臭いが立ち込める。

 その白煙を切裂いて、山南が友山の眼前に飛び出した。


「ちぃぃぃぃ――」


 友山が降魔の利剣を引き戻す。

 それより一瞬早く、山南の氣を帯びた刃が、友山と降魔の利剣を繋ぐ氣の帯を断ち斬った。

 制御を失った三鈷杵が、足元の床に突き刺さる。


「御免――」


 ――山南は刃を返すと、剣の峰で友山の肩口に振り下ろした。


 ぎゅぃぃん!


 だが、その山南の剣が弾かれた。

 何者かが、山南と友山の間に割って入った。

 向けられた切っ先に、山南が間合いを取る。


「何奴?」


 そこには、友山を背に隠すようにして、黒い頭巾で顔を覆った剣士が立っていた。





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