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ブラッドアッシュ I  作者: KeNta
第一章
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決意 4−12

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「イチノセ!」


しかし、寸前のところで誰かに名前を呼ばれたような気がした。


一体誰が……。


「一ノ瀬!」


その声は次第に大きくなっていく。まるで俺を暗い海の底から引きずり上げるかのように。そして、声に導かれるように俺ははっきりと目を覚ます。そこには武器を弾かれ動揺しているサクラスがいた。


一体これは……。


数秒前の出来事をやり直しているような光景。俺はまだ生きていた。


どうして? 俺は確かにこいつの一撃を……。


考えが巡り、絶好のチャンスだというのに動きが止まってしまう。


「一ノ瀬! なにをしている! 早く止めを!」


戸惑っている俺の背中に水野の怒鳴るような声が飛ぶ。


そうだ、今は考えている場合じゃない! 


「くそッ……!」


剣を弾かれ隙を生んでしまったサクラスには、俺の攻撃を防ぐ手立てはない。


——俺は生きている。だったらやることは一つしかない!


「うおおおおおおおお!」


踏み込んだ足を地面に突き立て、今俺が出せる全ての力をサクラスに叩き込んだ。


————————————————————————————————————————————


「ハァ……ハァ……ハァ……」


視界は霞み、呼吸は乱れ、立っているのがやっとの状態。


「…………やってくれたね……」


完全に捉えたはずの一撃だったが、サクラスは寸前で横に飛び致命傷を避ける。だが、完璧に回避することは出来ず右腕を失っていた。傷口から俺達人間のように流れ落ちる鮮血。表情には先ほどまでの余裕が戻っている。


くそ……。捉えきれなかったか……。


対照的に、俺にはもう一歩も動く体力が残っておらず、水野達の援護も望めない状況だった。


「しょうがない。僕も本気を出そう」


いつの間にかに弾いた剣を拾い上げ、俺を、その後ろにいる水野達までも一撃で捉えるように剣先をこちらに向ける。


駄目だ! 踏ん張れ! ここで俺が倒れるわけには……。


思いとは裏腹に、体はいうことを聞いてはくれない。


くそ……!


「さようなら。愚かな人間達」


言って、サクラスが地面を蹴るため足に力を入れた瞬間——、


「そこまでだ!」


絶体絶命の状況のなか、戦場に勇ましい掛け声が響き渡る。

突然の出来事にサクラスも攻撃を止め、声がした後方へと振り向く。


「……はっ、やっと来たか」


痛む体をおさえ、水野は駆けつけた者達を見てわざとらしい笑みを浮かべる。


「誰、君達?」


サクラスは睨め付けるように瓦礫の上に立つ者達を見据えていた。


「——そこでへばってる仲間を助けに来たんだよ」


俺達と同じ制服に身を包み、タバコを咥えていた三十過ぎの男性が煙をはきながら答える。

そう、瓦礫の上には『最果ての地』のメンバーが立っていたのだ。


知之……。華耶……。


同じ関東地区に配属された同期の朝霧班や柊班と、俺達の仲間が立っていた。


「よお水野。随分と派手にやられたな」


タバコの煙をはきながら朝霧は水野に言葉を投げる。


「まだまだ余裕だね」


水野は笑いながら答えているが全くそんなことはないだろう。だが、仲間達の登場に先ほどまでの険しい表情は消えていた。


「まあ、あとは俺達に任せろ」

「吸血鬼。これより我々がお前の相手をする」


柊の掛け声と共に、仲間達は一斉にクロスを解放して戦闘準備に入る。

どうやら水野が俺達の下へと駆け付ける前に、増援要請を出していたようだ。それが、間一髪のところで間に合ったというところだろう。


みんな……。


「知之と華耶はあいつらの手当てを、残った奴らであいつを仕留めるぞ」


各位に指示を出した朝霧はタバコの火を地面で消し、戦闘態勢に入る。


「はあ、いいよ。まとめて相手をしてあげる」


片腕を失ってもまだ余裕があるのか、サクラスの表情からは焦りや危機感を感じない。それどころかこの状況を楽しんでいるようにも見えた。


「すぐにもう一本の腕も切り落としてやるよ。行くぞ!」

「——と、言いたいところだけど。今日は止めておくよ」


今にも先陣を切って斬りかかろうとした朝霧だったが、サクラスの言葉に足を止める。


「さすがにこれだけの数を相手にするのは疲れるからね」


言葉通り、既にサクラスには戦う意思もなく、手にしていた剣を鞘へと戻してしまう。どうやら本当にこれ以上は戦う意思はないようだ。


「逃げるのか?」

「まあね。今日はおとなしく帰るよ。それに——面白いものを見つけたことだし」

「面白いものだと?」


まさかの撤退に俺達は驚いていたが、柊だけはサクラスから一歩も目を離さず、クロスを構えながらいつでも応戦出来る体制をとっている。


「そう、面白いもの。君の相手はまた今度してあげるよ。じゃあね」


立っているのもやっとな俺には、後半二人の会話を聞き取ることは出来なかった。

だが、最後にサクラスが消える間際、こちらを向き「見つけた」と言っていたのははっきりと聞こえた。


「一ノ瀬!」


そして、サクラスが消えると同時に、俺の意識もそこで途絶えた。

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