決意 4−10
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「水野!」
「悪い遅くなった」
水野はこちらに振り向くと、俺達の無事を安心するかのような優しい表情を向ける。
「いたた。今度はなにー?」
今の一撃も全く効いていないのか、サクラスは頭を押さえながら瓦礫の山から現れた。
「チッ。しぶといな」
瓦礫のなかから現れたサクラスを見て毒づく水野。だが、とくに驚いている様子はない。
それどころか表情には余裕も伺える。
「隊長! 奴は!」
「知ってるよ。あいつは第四眷族だ」
言いながら、水野はまた一歩俺達の前に出る。
「お前達、ここからは私がやる。手を出すなよ」
あの化物を一人で……。
さすがに一人でサクラスの相手をするのは難しいと判断し、連携して戦うよう水野の背中に声をかけようとするが、俺は目の前の光景に言葉を詰まらせる。
「な、なんだよそれ……」
「ああ、これか。これがクロスの本当の力だよ」
水野のクロスは両手にはめられた黒いグローブ。
これは初任務の際にも見ていたが、はめているグローブは以前と形状と異なっている。いや黒いグローブには変わりないのだが、その周りに赤黒いオーラをまとっていたのだ。
「隊長……」
心配したように声をかける影井。
このなかで影井だけは水野の両手にまとっているオーラの正体を分かっていた。
「心配するな。すぐに終わらせる」
そして、右足に力を込めて地面を蹴った瞬間、先ほどサクラスがやってみせたように水野は相手との距離を一気に詰める。
「うそ!?」
「フッ!」
全く反応出来ていないサクラスの顔目掛けて再度拳を力強く振るう。
サクラスは、そのまま更に後ろの建物へと凄まじい勢いで吹き飛ぶ。
「結構効いたよー、今の」
相手がただの堕人なら確実に死んでいるだろう。だが相手は眷属、今の一撃で倒せるほど甘くはなかった。
「そうかい。だったらもう一発くれてやるよ」
そして水野とサクラスの戦闘が始まった。
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二人の戦いは未だ拮抗状態にあった。
「フッ!」
「おおっと!」
水野の赤黒いオーラをまとった一撃をサクラスが剣で受けきる。その衝撃は計り知れず、サクラスより後ろの建物を衝撃波で吹き飛ばす。
「危ない、危ない。君本当に人間かい? まるで化物だよ」
「そりゃあどうも」
拳を剣で受け止めるサクラスだったが、水野が更に力を加え抑えきれずに後ろへ吹き飛ぶ。
サクラスの言っている通り、どちらが化物か分からなかった。
「影井先輩あれって……」
二人の戦いを眺めつつ、水野の体になにが起こっているのかを問いただす楪。
「あれは……鬼色化だよ……」
「鬼色化……」
効いたこともない言葉だった。
「鬼色化とは一体なんですか?」
「それは……」
言いにくいことなのだろうか。影井は最初こそ言い淀んでいたが、覚悟を決めたように口を開く。
鬼色化とは、『最果ての地』が作り出したクロスに宿るもう一つの力。本来の武器の形状に禍々しい黒いオーラを纏う状態のことを指す。その力を発動している間は常人以上の力を発揮出来ると言われている。『最果ての地』は最初、この能力を使用し奴らと戦おうとしていた。しかし、強すぎる力には必ずそれ相応の代償を伴う。その代償とは——、
「自我の喪失だ」
「自我の喪失……」
そう、クロスに宿ったもう一つの力は使用者の魂を蝕み、やがて鬼へと染まる。故に鬼色化。
自我を喪失した人間は敵味の判別がつかず暴れ狂う。その姿はまるで堕人そのもの。そのため『最果ての地』は鬼色化を禁忌の力として封印した。
「それが鬼色化だよ……」
水野はその封印された力を開放して戦っている。
影井が言うには水野は鬼色化をある程度コントロールすることが出来るらしい。それでも、コントロール出来るとはいえ体にかかる負荷は大きく、確実に体は蝕まれていく。それが分かった上で、能力を使用しなくてはサクラスを倒すことが出来ないのだ。
水野……。
俺は影井の話を聞いて、改めて今もサクラスと戦っている水野を見つめる。
「おっと。さっきより動きが鈍くなっているねー」
「は、冗談はよせ」
サクラスが振り下ろした剣を寸前のところで右に避け、隙だらけの体に強烈な一撃を叩き込もうとする。しかし、飛んでくることは計算の内だったのか、後ろに飛び攻撃を回避する。
水野が鬼色化してそろそろ三分が経過しようとしていた。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
肩で息をする水野。サクラスが言う通り明らかに動きが鈍くなっている。
「三分ってところかな。君のその能力は」
「さあ、それはどうかな」
「強がりを。いいよ。なら次の一撃で終わらせてあげる」
サクラスは自身の剣を水野の心臓に向ける。言葉通り次の一撃で止めをさすようだ。
「本当、人間って馬鹿だよね。敵わないと分かっているのに僕達に挑むなんてさ」
水野に剣を向けたまま、空いた手で自身の頭を抑えるサクラス。よほど人間の取る行動が理解出来ないらしい。
「逆に聞くが。お前達そんなことも分からないのか?」
「はあ?」
「高貴な眷属って話だが、そんなことも分からないようじゃ堕人と大して変わらないな」
サクラスの真似をするかのように水野も頭を押さえながら、皮肉交じりの表情で答える。それは高貴な奴らにとって最も触れてはいけない内容だった。
「……君、もう死にな」
「それはお前が——」
やはり、鬼色化の効果が予想以上に体を蝕んでいたのだろう。両手のグローブからは赤黒いオーラは消え、喋り終える前に水野が倒れかける。その隙をサクラスは見逃さず、水野の心臓目掛けて地面を蹴った。
「水野ッ!」
二人の戦いを見ていた俺は、水野が倒れかけた瞬間に大声を上げて急いで駆け寄ろうとするが、到底間に合う訳がない。
くそ、水野ッ!
それでも諦めきれず必死に手を伸ばす。しかし、サクラスの剣が水野の心臓を捉えることはなかった。
「え!?」
倒れかけた水野は、瞬間的に両手のグローブに赤黒いオーラを纏い、油断しきっていたサクラスの顔を掴み地面へと叩きつける。ここまでは水野の計算だった。
「チッ!」
突然の不意打ちにサクラスは舌打ちをし、その表情からも余裕が感じられなかった。
「さっきの質問だがな、私達がお前達と戦う理由、それは——」
右手に全ての赤黒いオーラが集まる。
「————大切な者を守るためだよ」
右手に集まった赤黒いオーラをサクラス目掛けて叩き込んだ。
その威力は凄まじいもので、辺り一帯の瓦礫を衝撃波で吹き飛ばし、周辺の地形を丸々変えるほどだった。
これをまともに食らえばさすがのサクラスも命はないだろう。俺が倒した訳ではないが、ついに海斗の仇を取ることに成功した。
「やったな!」
先ほどまでの険しい表情から一変し、安堵した様子で水野の下に駆け寄ろうとしたのだが、事態は一変する。
「来るな!」
衝撃波で巻き起こった砂埃の中から唐突に、水野のけたたましい声が飛んできた。
当然、俺は驚き言われた通りにその場で足を止め、砂埃が収まるのを待つ。
一体なにが……。
そして砂埃がゆっくりと収まっていき、その中心には二つのシルエットがはっきりと浮かんでいた。




