決意 4−9
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「こっちは駄目だ。連絡がつかない」
サクラスから逃れた俺達は、先ほど使用していた廃病院まで戻ってきた。
「私も駄目です。繋がりません……」
インカムを操作している楪と影井。
廃病院に着くなり水野との連絡を試みるも全く反応がない。勿論、救難信号も同じように機能していなかった。
「大丈夫か?」
そんな二人を他所に、一人隅の方で座っている俺の下に相馬がやってきた。
「ああ、俺は大丈夫。それよりもお前は?」
「ちょっとしんどいかな」
今までなら嘘でも「大丈夫」と言っていた相馬だが、この時初めて弱音を吐いた。俺には絶対に見せようとはしないあの相馬が。
それくらいサクラスとの戦闘では追い詰められたと言うことだろう。実際、俺も海斗が助けてくれなければ命を落としていた。
これまでも命の危機は何度かあったが、心の何処かでは助かるだろうというと思っていた。しかし、今回サクラスとの戦いではそんな考えには微塵も至らず、本当に『死』を覚悟した。
これが俺達のいる環境……。
一歩間違えれば命を落とす。それが今日かもしれないし、一週間後かもしれない。このなかで命を落とす者も現れる可能性だってある。俺達はそんな状況下で奴らと戦っていたのだ。
「なあ相馬。俺達、あいつらに勝てるのかな?」
廃病院の中に漂う負の空気に当てられ、俺もつい弱音を吐いてしまった。
「——無理だ。このままじゃ」
相馬がはっきりと答える。だが言葉はそれで終わりではなかった。
「だから強くなるぞ。必ずここから生き残って、強く……」
今はあいつらに勝てないかもしれないがいつか必ずと、相馬が力強く答えた。
「私も同じよ」
「僕も強くなる」
俺達の会話をきいていたのか、楪と影井も覚悟を新たにこちらへとやってくる。
「お前ら……」
そうだ。今の俺にはみんながいる。なにも一人で奴らと戦っている訳じゃない。仲間と一緒なら奴らにも……。
「ああ、俺も——」
俺も強くなる。そしてみんなを守り、必ず奴らを倒すと口にしようとしたのだが、車が壁に激突したような重たい音と共に、廃病院の入り口が吹き飛ぶ。
「……ッ!?」
音のする方に目を向けると奴が立っていた。
「——やっほー。みーつけたー」
そう、海斗が足止めしてくれていたはずのサクラスが。
「海斗は! 海斗はどうしたんだよ!」
思わず声を荒げてサクラスに問う。しかし、そんなもの聞かずと分かりきっていた。
「あの化物なら殺したよ。主人に刃向かった罰だ」
「……ッ!」
すぐさまクロスを解放。そのままの勢いでサクラスを斬りかかりたいが、今は歯噛みをしてグッと堪える。
「一ノ瀬!」
「分かってる!」
悔しいが、今はどうあがいてもあいつには勝てない。だから戦うのではなく、今回ばかりは撤退することを第一に行動することを選択した。しかし、まともに突っ込んでもサクラスを避けて、後ろの出口へと向かうことは出来ないだろう。
どうする……。
不安と焦りからクロスを握る手に力が入る。
「みんな、僕が合図したら全力で出口へ走るんだ……」
緊迫した状態のなかで、後ろにいる影井が口を開いた。なにか策があるのだろうか。
「でも目の前にはあいつが……」
俺と楪の意見を代弁するように、相馬が影井に言葉をかける。だが、それでも影井は走る準備だけをするようにとだけ答える。
一体何を……。
訳が分からないといった状況だが、俺は一先ず影井の言う通り足に力を入れいつでも走れる体制をとる。
「作戦会議は終わり? そろそろいいかなー?」
やりとりを見ていたサクラスが、待ちきれないとばかりに声を上げる。
「いいかい。僕が合図をしたら一斉に走るんだ」
サクラスには聞こえないように静かに指示を出す影井。それを俺達も黙って頷き、その時がくるのを待つ。
今は影井先輩を信じるしかない……。
サクラスも黙り、廃病院から音が消える。
「そろそろいいよね」
痺れを切らしたサクラスがこちらに向かってきた。
「——今だ!」
それを合図に影井が大声で指示を出し、俺達は一斉にサクラスの背後にある出口目掛けて走っていく。だが、ただ単に突っ込む訳ではなかった。
「みんな絶対に止まっちゃ駄目だよ!」
掛け声とともに影井はクロスを解放し、手にはこの廃病院を一発で壊しそうな威力を持つロケットランチャーが。
「おいおい、まじかよ」
一瞬足を止めて同様するサクラス。影井は構わずロケットランチャーをサクラスの頭上目掛けて打ち込む。すると、既に老朽化が進んでいた廃病院は一発の銃弾で見る見るうちに崩れていく。
影井が考えた作戦とは、建物の崩壊を利用してサクラスから逃げ出すというものだった。
指示通り、俺達は止まることなく走り続けた。
そして、なんとか外へと逃げ出すことに成功した。一方、サクラスは完全に油断をしていたため逃げることが出来ず、瓦礫の下敷きとなる結果に。
「みんな、今のうちに!」
それでも足を止めることなく走り続けるようにと、最後尾を走る影井から声が飛ぶ。運が良ければサクラスは瓦礫の下敷きとなって命を落としただろう。
危なかった……。
走りながらも一呼吸入れ、緊張の糸がほつれた次の瞬間。
轟音と共に倒壊した廃病院が跡形もなく吹き飛ぶ。そして、その中心には服に埃一つ付いていない状態でサクラスが立っていた。
「ああ、びっくりした」
嘘だろ。あの瓦礫の山を一瞬で……。
絶望的な光景に、俺や楪、相馬は思わず足を止めてしまう。
「足を止めちゃ駄目だ! 出来るだけ遠くに!」
走り続けるよう影井が声を荒げるが、もうそんなことをしても意味はない。最初から気がつくべきだったのだ、サクラスに目をつけられた俺達に逃げ場などないことを。
「もう、鬼ごっこ子は終わりかな?」
一瞬で俺達の目の前に現れるサクラス。その目にははっきりとした殺気を感じる。
くそッ……!
慌ててクロスを構えるも、他の三人は一向にクロスを構えようとはしない。
「おい、どうしたんだよ!」
大声を出しながら三人に問うが、俺も分かっている。もう、俺達四人が助かる道はないことに。海斗の犠牲も、影井の作戦も、サクラスの前では全く意味をなさない。
「さて、誰から殺そうかなー」
人差し指で俺達一人一人を選びながら楽しそうに喋り出すサクラス。そこには一瞬の隙もなく、俺達は蛇に睨まれた蛙のようにその場から動けないでいた。
どうすれば……。
「よし決めた! 最初はメガネ君! 君だ!」
考えても答えが出ることはなく、その間にもサクラスは最初の標的を決めゆっくりと腰に下げている剣を抜く。
「影井先輩!」
後ろを振り向き影井にクロスを構えるよう声を飛ばすが、全てを諦めたかのようにピクリとも動かない。
「チッ。——させるかよ!」
なんとかクロスを解放して影井を守るように楪と相馬が前に立つも、その切っ先は恐怖から震えていた。
「そんな怖い顔をしないでも大丈夫。痛みなんて感じる前に殺してあげるから」
奴を見ろ。奴の剣を見ろ。集中するんだ。奴から目を話すな。今みんなを守れるのは俺だけだ。
三人の盾になるようにサクラスと対峙する。
「一ノ瀬……」
相馬の息が漏れたような声で俺の名前を呼ぶ。
「————俺が仲間を守る」
そう、海斗と、俺自身の心に誓ったんだ。こんなところで誰も死なせたりはしない。
「ああ、なんて素晴らしい友情なんだ。僕は感動したよ。その代わりに——」
目を離すまいと眼前にいるサクラスに集中していたのだが、一瞬姿を消したあと、いきなり目の前で剣を振りかざした状態で現れたのだ。
「最初に君から殺してあげる」
ちくしょう! 海斗を殺したこいつを、みんなを、俺は守ることが出来ないのか……。
間に合わないと分かっているが、俺は諦めたくはない一心でサクラスの攻撃を受け止めようとする。
「まずは一人目」
サクラスは不敵に微笑みながら剣を振り下ろす。
くそッ…………。
直後、無音の静けさを破る鈍い音と共に、近くの建物が倒壊。そして、サクラスの剣が俺に届くことはなかった。
一体なにが……。
恐る恐る目を開けるとそこには、全身黒を基調とした制服。肩に掛かるダークグーリンの髪。
「——一ノ瀬。よく頑張ったな」
俺達の隊長、水野が立っていた。




