決意 4−8
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「おお、もう作戦会議は終了?」
今から自分を殺しにくる相手が目の前にいるというのに、余裕の表情で構えるサクラス。すでに剣は鞘へと納め、両手は丸腰の状態。攻めるなら今しかなかった。
「ねえ、僕の話を——」
油断をしているうちに、楪と相馬は勢いよく地面を蹴りサクラスとの距離を詰める。
「おお、早い!」
「呑気なこと言っている場合じゃあねえぞ!」
剣に手をかけるよりも早く、相馬は横からの一振りでサクラスの首を落としにかかる。だが、行動を先読みしていたかのような無駄のない動きで後方へと回避し、剣に手をかけた。
「させない!」
剣を抜かせないために、楪がクロスを突き立て追撃を行う。
「おっと、危ない」
言葉と対照的にまだまだ余裕のサクラス。楪の攻撃も瞬時に判断して横へと飛ぶ。
「残念でしたー。いい連携だったけどねー」
疲弊した状態での連続攻撃は、サクラスには一つも届くことはなかった。しかし、ここまでは計算通り。全てが思惑通りに進み、楪と相馬の表情には若干の笑みが生まれる。
「おい。そっちに飛んでいいのか? ——そこは射程圏内だせ」
「ああ?」
そう、相馬が言った通り、サクラスが飛んだ方向にはスナイパーライフルを構える影井。
「あらら」
気づいた時には遅く、サクラスが地面に着地するよりも前に影井が引き金を引いた。直後響き渡る一発の銃声。完全に避けることが出来ない一撃だった。
「これはまずいね」
サクラスは先ほど同様顔色一つ変えず、腰に下げていた剣に手をかけ、目にも止まらぬ速さで飛んでくる銃弾を真二つに粉砕してしまう。
「ふう。今の一撃は本当にまずかったよ。僕はあの化物達とは違うんだから一発当たるだけで重症だよ。そこのところちゃんと分かってる?」
地面へと着地したサクラスが口を開くが、影井は気にせず銃弾を撃ち込む。
「危ない、危ない」
最初の一発を剣で叩き斬ったあとは、こちらをあざ笑うかのように銃弾を避けていく。
普通の人間ではまず不可能だろう。だが、サクラスは笑いながら最も容易くやってみせる。やはり、身なりは人間とたいして変わらないが基本的なステータスが全く違った。
「おっと、挟まれた」
影井の銃弾に注意が向いている間に、楪と相馬が挟むようにサクラスの下へと突っ込む。
「背後は行き止まり。正面からは狙撃。左右からは斬撃。まいったねー」
これ以上は逃げられないと判断したサクラスは、向かってくる全てを迎え撃つため剣を構える。
だが、これこそが俺達の作戦だった。
「言ったろ。————射程圏内だって」
サクラスはまだ気がついていない。正面、左右以外からも狙われていることに。
「おい、まじかよ」
ようやく、それに気がついたようだがもう遅い。
「うおおおおおおおお!」
頭上からクロスを構えた俺が迫る。
そう、全てはここにサクラスをおびき寄せる作戦。
攻撃としては海斗に行ったものと同じだが、今は一人じゃない。正面、左右からもサクラスを狙うためにそれぞれ一撃必殺の準備をしている。さすがに全てを同時に防ぐことは物理的に不可能だった。
サクラスもそれを理解したのか、先ほどのようなふざけた表情は消え、集中してタイミングを伺っている。しかし、俺達は同時に攻撃を仕掛けたため隙など何処にもなかった。
「くたばりやがれ!」
俺の掛け声とともに楪、相馬が一斉に斬りかかる。
海斗。仇とったぜ。
そう確信したその時だった。
「——はあ、つまらないなー」
「えっ……!?」
一瞬。本当に一瞬の出来事だった。気ついた時には俺は片足で踏みつけられ、楪と相馬は首を締め付けられていると、一瞬にして形成が逆転していた。
「みんな!」
唯一遠距離でサクラスに近づいていなかった影井が俺達三人に声を飛ばしながら、クロスを構える。
「おっと。そんな物騒なものを向けるのはよしてくれー、じゃないと」
「がああああああ」
「ぬぁッ……」
「くっ……」
わざと力を入れ、俺達が苦しむ様を影井に見せつけるサクラス。
「今打つと、誰かに当たっちゃうよー」
「や、やめろ!」
三人は必死に抵抗しようとするが、徐々にその力も抜け意識が遠のいていく。
「まあ、心配しないでもこの三人を殺ったら次は君の番だよ」
「クッ……」
歯噛みをする影井。
銃弾から逃れるように楪と影井を盾にしているので狙撃することも出来ない。
その間も、徐々に三人の体力は奪われていく。
くそ、このままじゃ……。
サクラスの言葉通り、このままでは俺達は全滅してしまう。
「せめてもの計らいで三人同時にあの世へと送ってあげる。カウントダウン開始」
この状況を楽しむかのように、サクラスは当然カウントダウンを始める。
「——五」
なんとか、なんとか二人だけでも……。
必死に足掻こうとするが踏みつける力は強く、起き上がることも許されない。
「——四」
諦めるか、まだ負けた訳じゃない……。
「——三」
俺はみんなを守ると、奴らを倒す誓ったんだ……。
「——二」
こんなところで……。
カウントダウンが二秒に差し掛かり、意識が朦朧とし始めたまさにその瞬間————、
「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!」
サクラスの背後にあった建物の壁を壊し、海斗が現れたのだ。
海斗……。
当然、背後の建物が壊されたことでサクラスは俺達から手を離し、安全な場所へと避難する。
「みんな!」
慌てて影井が駆け寄る。三人共意識ははっきりとあった。
「おいおい、主人に逆らう気かよ」
「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛」
俺達が与えた傷跡から黒い液体を流しながら、海斗はサクラスと対峙をする。その後ろ姿は、紛れもなく俺の知っているいつもの海斗そのものだった。
「海斗、お前……」
変わり果てた姿になっても俺を助けてくれるのか……?
『——逃げろ』
……え?
多分、ここにいる誰もが叫んでいるようにしか聞こえないだろう。だが、俺にははっきりと海斗の声が聞こえる。
『——ここは俺に任せろ』
でも、それじゃあ海斗は……。
『——任せろ。裕太は俺が守るよ』
海斗……。
「——みんな! 今のうちに撤退しよう! 僕達じゃあまだあいつには勝てない!」
影井の言葉で他の二人も体を起こし、撤退を決意する。
「行くぞ、一ノ瀬!」
海斗の背中を眺めている俺の肩を相馬が掴んだ。確かに影井の言う通り、サクラスから逃げ出すには今しかない。ないのだが。
また俺のせいで……。
無力な自分を悔やみ、唇を強く噛みしめていると再度海斗から声がかかる。
『——裕太、みんなを守れよ』
それが、海斗から聞こえてきた最後の言葉だった。
「一ノ瀬!」
「…………ああ、分かった」
この場に海斗を残して逃げ出す決意をする。
海斗……。
「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!」
最後に大きな唸り声を上げ、サクラス目掛けて進んで行く。俺達を逃すため。化物になりながらも俺を守るために。
…………海斗、ありがとう。…………そして、さようなら。
立ち向かう背中に想いを伝えながら、俺達は安全な場所まで走り出した。




