決意 4−7
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「一ノ瀬君……」
海斗を倒すことに成功した俺は、みんなに背を向け一人佇んでいた。
「……」
考えるのは勿論海斗のこと。
久しぶりの再会を果たした俺と海斗。しかし、その再会は劇的なものではなく悲劇的なものだった。
何故、海斗があんなにも変わり果てた姿になってしまったのだろうか。
海斗……。
考えても今の俺には到底分かる訳もない。
——お前の意思、確かに俺が引き継いだからな。
うつむきながら握っていたクロスに力を込め、これから迷わず進んでいけそうだと海斗に思いを伝える。
ありがとう、海斗……。
最後、もう一度倒れている海斗に別れを告げ、影井達がいる場所へと背を向け歩いていく。
「大丈夫か、相馬?」
「ああ、これくらい問題ねえ……」
口では強く言っているものの、地面に腰を下ろして息を整えている相馬。連戦で体はボロボロ、体力は限界を超えていた。
「みんなお疲れ。一先ず水野隊長に連絡をして、合流を——」
言いながら、影井がインカムに手をかけたその時——、
「————あららー、もう終わっちゃったかー」
「……ッ!?」
いきなり、倒れている海斗の目の前に人型の吸血鬼が現れる。
「せっかくの暇つぶしがー」
後悔しているような口調だが、表情から全くそんなことは伺えず、むしろ楽しそうに笑っていた。死んでも別に構わない。興味がない。そんな顔を。
「…………お前……」
突然現れたそいつを一目見て、俺の表情が変わる。怒りのこもった表情へと。
俺は、目の前に突然現れたそいつを知っている。あいつは——。
『おぉ、そっちになにかいたのかー』
————あの時、俺達の目の前に現れ、海斗の命を奪った奴だった。
「テメエエエエエエエエ!」
次の瞬間体は勝手に動き、海斗の目の前に立っているそいつに向かっていた。
勢いよく振りかざす一撃。
奴も全く反応が出来ていなかったので、初撃で終わらせることが出来るだろうと思っていたが、俺の考えは脆くも崩れ去る。
「なっ!」
嘘だろ……。
「なになに、? いきなりどうしたんだよ」
完全に隙をついたはずだった。だが、奴は後出しで俺の攻撃を左腰にぶら下げている剣で受けきったのだ。
「クッ……!」
「これで終わり? なら次は僕の番だね」
思った時には既に遅く、奴は「ほい」と声を出しながら俺のクロスを簡単に弾いてみせる。
やばい! 反撃がくる!
当然クロスを弾かれた俺は、その反動で後ろへ仰け反り隙だらけの状態。
いきなり飛び出して行ったので、仲間の援護も期待出来ない。完全に追い詰められる展開となった。
「ばいばい」
最後に奴が一言喋ったあと、人差し指で額を小突かれそのまま後ろの瓦礫へと吹き飛ぶ。
「……ガハッ!」
ぶつかった衝撃により瓦礫が崩れ落ちてくる。
「一ノ瀬君!」
慌てて影井が俺の下まで駆け寄る。
「こ、これくらい大丈夫です……。それよりも……」
クロスを杖替わりにして起き上がり、奴を見据えた。
「お、まだ立つ?」
「当たり前だ。よくも、よくも海斗を……」
小突いただけでこの威力かよ……。
痛む体に鞭を打ち、俺は再びクロスを握り奴へと向かっていく。
その際、俺を呼ぶ声が聞こえたが耳には届かない。今は、海斗を殺した目の前の敵しか見えていなかった。
「海斗? ああ、君はこいつの知り合いかー」
喋りながらも再度俺の攻撃を受け止める。
「お前だけはぜってえ許さねえ!」
「そんな怖い顔するなよー。ほら、頭に血が上ってると」
赤子の手をひねるように、再び俺のクロスを弾いて見せた。
くそッ! また……。
「死んじゃうよー」
奴は笑っているが、その目は確実に俺を仕留めようとしている。その証拠に、奴の右手は腰に下げている剣を握っている。
くるッ……!
「——ハァッ!」
「——退きやがれ!」
だが、寸前のところで楪と相馬の援護に助けられる。
俺達はそのまま後退した。
「くっそッ!」
「一ノ瀬君!」
みたび奴の下へと駆け出そうとする俺を、影井が制す。
「離してくれ! 俺は奴を! 海斗を殺した奴を許さねえ!
「落ち着くんだ! あれは悪鬼だ! それも眷族クラス……。今まで戦ってきた奴等とは次元が違う!」
肩を握る力から、奴がどれほど危険な存在かでるか伝わってくる。
「……分かりました」
影井の言葉により、徐々にではあるが冷静さを取り戻してく。
確かにこのまま無策に突っ込んでも奴に殺されるだけだろう。
「お、僕のこと知ってるの? 嬉しいなー。では、改めて自己紹介を。僕は第四眷族のサクラス。以後お見知り置きを」
サクラスと名乗る悪鬼は、身長二メートル前後。目にかかる白髪に全身白を基調とした服。左腰には剣を携えている。
そして、こいつが海斗を殺した張本人。
よくも、よくも海斗を……。
落ち着くようにと言われたが、海斗を殺した奴を目の前に冷静でいられる方がおかしい。ついクロスを握る手に力が入ってしまう。
「まあ、自己紹介をしても意味ないけどねー。だって——」
喋っている途中で姿を消したサクラス。気がつくと、一瞬で俺達の間に入り込んでいた。
「みんな死んじゃうから」
「お前ら! 避けろ!」
サクラスの攻撃を避けるよう指示を出す相馬だったが、勿論誰も反応することは出来ず、四方に散らばるように吹き飛ぶ。
「おお、みんなやるねー」
不敵に微笑むサクラス。
攻撃を完全に避けることは出来なかったが、自身の持っているクロスでとっさにガードすることには成功。幸い、誰も命を落とすことはなかった。
「みんな、大丈夫……?」
影井の呼びかけに他の三人は過労時で答える。
早すぎてなにも見えなかった……。
先ほどからろくに休んでいない体では、サクラスに攻撃を与えることはおろか、今のように防ぐこともままならない状況だった。
「影井先輩。俺なら行けますよ……」
痛む体を引きずりながら俺達は一箇所に集まり、影井からの指示を待つ。
「……」
「影井先輩……」
楪からも似たような表情が伺える。
二人共立っているのもやっとなはずだが、まだ戦えると言っていた。
「影井先輩。俺も大丈夫だ。行かせてくれ」
一人ではサクラスに太刀打ち出来ないが、先ほど海斗と戦ったように連携を取りながら戦えば勝機はあるかもしれない。
「分かった。でもこの一撃が駄目ならすぐに撤退するよ」
「ああ、一撃で終わらせる」
僕達はサクラスと戦うことを決意し、クロスを構えた。




