決意 4−6
※最新情報を発信するためツイッターを始めました。
ご気軽に@k_atneフォローお願いします。
※アクセスして頂きありがとうございます。
もしよろしければ、感想、ブックマーク登録の方頂けたら幸いです。
「一ノ瀬。今回はお前に美味しいところをくれてやる」
「本当は立ってるのもやっとなんだろ、無理するなって」
先陣を切ったのは相馬。そのあとに俺が続く。
海斗も俺達が向かってきていることに気がつき、迎え撃つように大きな体を揺らして近づいてくる。だが不思議と先ほどより恐怖を感じない。それは単に鋭く尖った三本の爪がないからだろうか。いや違う。きっと、今の俺には頼もしい仲間がいるからだろう。
「相馬」
「ああ、なんだ?」
「ありがとな」
前を走る相馬の背中に一言だけ伝えた。
「……。いくぜ一ノ瀬!」
「おう!」
俺達は、それぞれ握っているクロスに再度力を入れて握り直す。
「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛」
緊張の一瞬。
放たれた海斗の一撃は、確実に俺達へと迫ってくる。その距離わずか数メートル。少し前の俺なら怯えて横に飛んでいただろうが今は違う。
大丈夫だ! 仲間を信じろ!
俺は、仲間達を信じて前へと進む足を止めなかった。そして、ぎりぎりまで拳を引きつけた瞬間、後方から一発の銃声が響き渡り、海斗は膝から崩れかけた。
「今だ、二人共!」
聞こえてくる掛け声。勿論、掛け声も銃弾を放ったのも影井だ。
影井は、海斗が相馬に拳を放つ瞬間、最も体重が乗った状態の左膝めがけて一発の銃弾を打ち込んだ。
バランスを崩した海斗は、唯一ある右手で体を支え転倒を防ぐが、結果、正面が無防備になる。
「いくぞ一ノ瀬!」
「ああ……」
気合を入れるように声を出す相馬とは対照的に、やけに落ち着いた口調で答える俺だったが、握っているクロスには力が入っている。二人は隣に並び立ち、相馬は左下から、俺は真上からクロスを振り払い、海斗に一太刀浴びせた。
「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!」
今の一太刀により一二歩後退する海斗だが、俺と相馬は休む暇を与えずの二人で追撃しかける。
時には海斗が反撃として右腕を振り払ってきたが、それを俺がクロスで受け流し、その隙をついて相馬が一太刀加える。俺達は考えるよりも先に、隣にいる仲間の行動を瞬時に予測し、それに合わせてお互いクロスを振るった。
「チッ!」
既に体力の限界が近い相馬。
時折体全体に今までの痛みが走り、クロスを振るう手が止まりかけてしまう。だが、その隙は仲間がフォローする。
「——まだ動いちゃ駄目よ」
いつの間にか背後に回りこんでいた楪が、海斗の足に狙いを定め素早い一振りを加える。
海斗はまたもバランスを崩し、今度は右手で体を支える前に倒れ込む。
————そして、ついにとどめを刺す時がきた。
「今がチャンスだ! 二人共!」
「「おう」」
あと一押しと判断した影井から激が飛ぶ。
「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!」
海斗も最後の力を振り絞るかのように、掠れた声を上げ攻撃を繰り出そうとする。
海斗……。
だが、その攻撃を相馬が見事に受け流す。
「一ノ瀬! 決めろ!」
「……おう!」
視界が歪む。気がつくと目には大粒の涙が。それでもこのクロスを振るう手を止めてはいけない。
『海斗ってんだ、よろしく』
海斗……。
『——お前がいればなんだって出来る気がするよ』
海斗……。
「一ノ瀬君!」
「行くんだ一ノ瀬君!」
『——生きろ。そして俺達の夢を頼む……』
海斗。あとは俺に任せろ……。——そして、今までありがとう。
「…………うおおおおおおお!」
覚悟を決めた最後の一撃が、巨大な化物、海斗の胸を捉えた。
「————裕太、助けてくれてありがとう」
いつかに交わした約束のお礼を最後に、海斗は眠りについた。




