決意 4−3
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影井達がいなくなってから三十分以上が経過した。
先ほどから外が騒がしい。何処かで影井達が戦闘を開始しているのだろうか。
海斗……。
そんな中、俺は場所を変えることなく未だに廃病院に一人でいた。その間、考えるのは勿論海斗のことばかり。
何故あんな姿に……。
やはり、あの時どんな手を使ってでも一緒に逃げるべきだったと後悔しては、やるせない気持ちを地面にぶつける。そして、海斗との再会が引き金となり、次々と当時の苦い思い出が頭の中を流れていく。
もし、あの時俺が転んでいなければ、母さんを犠牲にせずに済んだのではないだろうかと。
もし、地下室の扉を開けていなければ、海斗を犠牲にせずに済んだのではないだろうかと。
「…………あ……、あああああああ! 俺だ! 全部俺のせいだ!」
あの時、目をつぶって見捨てた人達の悲鳴や叫びが雪崩のように襲いかかる。
そうだ。全部だ。母さんの死も、海斗の死も、他の人達の死も、全部俺のせいだ……。
そして、俺のせいで新たに出来た仲間まで死なせてしまうところだった。
「…………結局俺は……」
涙は出ない。ただ、あの頃と全く変わっていない自分に憤りを感じながら、みんなを助けに行くことも、海斗を殺しに行くことも出来ず、結局俺は一人逃げていた。
なにがみんなを守る……だ。奴らを倒すだ……。
目の前の敵一人倒せないような奴に語る資格はなどない。
このクロスも……。
袖のボタンを外し、垂れきた十字架のブレスレット、クロスに目を向ける。
『お前が今手にしているものは奴らを殺す力であり、人間を守る力でもあるんだ』
初任務の際、水野から言われたことを思い出す。
俺には誰かを守る力も、奴らを倒す力もなかったよ……。
ゆっくりとした動作で右腕に付けていたクロスとを外し、地面に置く。
あれ、軽い……。
不思議なことに、クロスを外した途端右腕が軽くなったような気がした。実際は、クロスを外したところで重さなど変わる訳がない。これは自分に課せられた使命という名の重みだったのだ。今は使命から解き放たれ自由になった。だからここまで右腕が軽くなったような錯覚を覚えたのだろう。
これで俺は……。
俺は立ち上がり、そのまま廃病院の出口へと向かって歩き進む。しかし、影井達の元へと向かう訳ではない。外は紫分分厚い雲に覆われ始め、辺りは倒壊した建物などの瓦礫。人がいる気配もない。果たしてこんな世界で生きていけるのだろうか。
一先ずここから離れよう……。
奴らから、仲間達からも出来るだけ離れようと歩き始める。
「……」
少し先の方から聞こえてくる建物が倒壊する音。俺は一瞬だけ足を止めて音のした後ろを振り向くが、すぐに反対方向へと歩き出す。
「……」
足場が悪いせいか、それとも逃げ出すことへの未練か、足取りがいつも以上に遅い。
もういいんだ……。俺には関係ない……。
これからは、奴らから逃れながら一人で生きていこうと選択した。そうすれば自分のせいで誰かが死ぬこともない。
これでいいんだ……。
またあの時のように全ての記憶を忘れて生きていこう。そう決めたその時——、
「影井先輩! 大丈夫ですか!?」
インカムから相馬の声が聞こえてくる。
あ、そういえば……。
朝からインカムを付けていたので、外すのを忘れていた。
「ごめん。足をやられた……」
「私が援護に向かいます」
「今は僕のことよりも奴を仕留めることに集中するんだ」
「……分かりました」
インカム越しから聞こえてくる楪のなにかを押し殺したような声。
「お前ら大丈夫か!? すぐに私も向かう!」
通話機能は全てのインカムに送信されるので、当然水野にも影井達の状況が伝わっている。
水野……。
「お前達。私が行くまで絶対に死ぬなよ……」
口調から、かなりの焦りが伺えた。
「——私が絶対に守ってやるからな」
そこで通信は切れ辺りは再び静まり返る。
俺は、気がつくと足を止めて瓦礫の上で立ち尽くしていた。そして、ゆっくりと目を閉じ自分の在り方を考える。
『少年は何故力を求める?』
いつしか水野と交わしたやり取りが蘇る。
俺は……。
『またねお兄ちゃん、助けてくれてありがとう』
俺は……。
『みんなを守りたい。お前達を、家族を守りたい』
俺は……。
『——生きろ。そして俺達の夢を頼む……』
「……」
みんなごめん……。
考えた結果。俺は先ほどのように瓦礫の上をかき分けるように歩き進めた。
ああ、どうしてだろう……。
今更自分の在り方など考えても意味などなく、俺は俺でしかない。たとえ誰になにを言われようとも変わることは出来ない。もう決めてしまったことだ。
相馬、お前は嫌いだけどその強さは認める。
楪、お前には負けたくない。
影井先輩、なんども迷惑をかけてごめんなさい。
水野、俺に力をくれてありがとう。
俺はみんなへの気持ちを思い浮かべながら歩き続けた。
みんな本当にごめん。やっぱり俺には無理だ……。
迷うことなく————それを拾い上げる。
————俺。みんなを、お前達を守ることを諦められないわ。
クロスを右腕にはめ直し、覚悟を決めた。みんなを助ける覚悟を。
やっぱり重たいな……。
右腕にはめたクロスからは、母さん、海斗、水野班全員の、みんなの思いがたくさん詰まっていた。
「待ってろ、今行く」
俺は、急いで廃病院を抜け出し仲間の下へと向かうのであった。
みんなを助けるために。全てを終わらせるために。




