決意 4−2
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「あの巨大な化物が、一ノ瀬君のお兄さん……」
「その話は本当なのか?」
「……」
黙って一度だけ頷く。
「それに、撤退の際に俺の名前を呼んでいたし。これも……」
拾った地下室の鍵を相馬と影井に見せるため、ポケットから取り出す。
俺は楪や相馬、影井の三人に巨大な化物が兄であることを、そのためとどめをさせなかったことを、全てを隠さず説明した。それを聞いた相馬も、俺から逸らすように目を伏せている。
「俺には……、殺せない……」
「おいテメエ! いきなりなにを!」
相馬の言葉が耳に響くがそれを無視して、俺は頭を下げながら影井に答える。
あんな変わり果てた姿になってしまったが間違いなく俺の兄。海斗。それは例え、変わり果てた姿になろうとも、人の言葉を話さなくなろうとも、かわりはしなかった。
だから、俺には殺すことが出来ない……。
自分でもこの判断が間違っていることくらいは分かっている。分かっているが、俺には家族の命を奪うことなんて出来る訳がなかったのだ。
「一ノ瀬君、分かった……」
「影井先輩!」
俺の話を聞いて、口を開いた影井の言葉に相馬が噛み付く。
「影井先輩……」
これで海斗を殺さずに済むと思っていたが、影井の話はそれで終わらなかった。
「——一ノ瀬君はここで待機だ。奴は僕と相馬君で殺る」
迷いなき瞳で俺を見ながら影井は答えた。
「そ、そんな……」
なんで。なんで俺の家族を……。
普段の俺なら思わず当たってしまっただろうが、それ以上に影井の提案が衝撃的で言葉を失ってしまう。
「なんとか……」
それでも海斗を助けることが出来ないかと影井に問うも、首をゆっくり横に振る。
「一ノ瀬君。僕が前に話したことを覚えている?」
「前に……」
多分、初任務終わりに車庫で話していた内容だろう。
「前も話したけど、僕の友達も堕人になった。最初は一ノ瀬君のように殺さないで欲しいと頼み込んだけど、それを聞き入れてくれることはなかった。何故なら、奴等は僕達の敵だから。友達だからという理由で生かしておいたら奴が多くの人を喰らい、そして殺す。なかにはそれで大切な人を失ってしまう人もいるはずだ。一ノ瀬君はみんなを守りたいと言っていたよね? だったら——君のとるべき行動は言わなくても分かるはず」
「……」
「それでも元お兄さんを庇うようなら、君をここに置いていく」
影井は、それが「僕達の使命」だと最後に言い残した。
海斗を……。そんな……。
重い決断を強いられ選択に詰まっている様子を見て、影井はなにも言わずに俺の下から遠ざかっていく。
「相馬君、まだ動ける?」
「勿論です」
二人で海斗を仕留めるつもりでいた。
駄目だ。そんなことしないでくれ……。
懸命に伝えようとするも、俺の思いは言葉として二人には届いていない。
何故なら、心のどこかでは海斗、あの巨大な化物を殺さなくてはいけないと自分でも分かっているからだ。
「影井先輩。私も行きます……」
怪我で寝込んでいた楪も起き上がり、海斗を仕留める作戦に参加しようとする。
「楪さんは休んでいた方が……」
「私なら大丈夫です……」
「……分かった。でも無茶だけはしないように」
一瞬こちらに首を傾け、俺の意思を再確認するような素振りを見せるが、すぐに影井の下へと行ってしまう。
「一ノ瀬、お前はここにいろ」
一緒にいたら作戦に支障をきたすと言い残し、相馬も影井の下へ。
今、この負傷者を抱えた状態で果たして巨大な化物を仕留めることが出来るのだろうか。
分からない。それでも誰かがやらなくてはまた多くの人が犠牲になってしまうと言い、影井達は戦うことを決意する。それが自分達に与えられた使命だと、三人は背中で俺に語りかけていた。
みんな……。
「一ノ瀬君。僕達は行くよ……」
最終確認として影井が俺に訪ねてきた。
「俺は……」
俺はどうすれば……。
「……」
このまま待っていても俺の答えは変わらないと判断した影井は、他の二人を引き連れ廃病院から出て行く。海斗を殺すために。
待ってくれ……。
伸ばした手は届かない。
俺は、その三人の背中を眺めていることしか出来なかった。




