家族 3−12
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巨大な化物は、あの体格だけあってか細かい動きには反応出来ていない。
俺達は、一斉に攻撃を仕掛けるのではなく、一人ずつ間隔を開けずに相手を撹乱するように戦った。
「一ノ瀬君。そっちに向かっているわよ」
「了解」
最初に仕掛けるのは俺だ。
今は、水野から手渡されたインカムで巨大な化物の位置を確認しあっていた。
初撃で失敗するわけにはいかない……。
「もう一度作戦を確認するけど、まず僕達はあの厄介な左腕を削ぐ。そのため、比較的小回りの効く一ノ瀬君と相馬君がメインの陽動。僕と楪さんは左腕をメインに攻撃を仕掛ける」
インカムから聞こえてくる影井の言葉に俺は頷く。
「そして、決して無茶はしない。とくに一ノ瀬君と相馬君」
「「分かりました……」」
何故楪は怒られないのか疑問ではあったが、俺達はすぐに巨大な化物へと集中する。
「よし。みんな行くよ」
最後に影井の一言で通信は切れた。
楪の言う通り、俺と巨大な化物の距離は徐々に縮まっていく。
まだだ。まだ引きつけろ……。
緊迫した空気のなか、クロスを持つ手に力が入る。
今は周りに誰もいない状況。もしこの一撃が失敗に終われば、周りの援護が間に合うことなく、俺は攻撃を受けるだろう。
——それは死を意味する。
さっきは考えなしに飛び込むことが出来のだが、今冷静に考えると中々次の一歩が踏み出せない。
その間も、巨大な化物との距離はみるみる縮まっていく。
大丈夫。俺なら出来る……。
いつでも飛び出せる距離に巨大な化物がやってきた。
距離はあと数メートル。
……よし。
俺は心を落ち着かせるために一度大きく深呼吸。そのあとクロスを両手で握り、飛び出しやすいように前傾姿勢を取る。あとは自分のタイミングで飛び出すだけだったのだが、不意にインカムから音声が飛び込んできた。
「おい、馬鹿一ノ瀬。——ミスっても俺がいる」
たった一言だけ、相馬からの通信が入った。
——ミスるかよ。
返事はしなかったが、相馬らしい一言に思わず顔がほころび何かが吹っ切れた。
「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛」
——今だ!
大きく叫んだ瞬間、勢いよく正面から攻撃を仕掛ける。
巨大な化物もこちらに気がついたのか、更に大きな唸り声を上げながら近づいてきた。
このままでは真正面から衝突してしまう。
いくら奴らと戦う武器を持っていようが、この体格差では一撃でやられてしまうだろう。だが、俺には策があった。その策を実行するためにも、俺は巨大な化物へと向かう。
そして——。
「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛」
大きな唸り声を上げ、今まさに巨大な化物が攻撃を仕掛けようとした瞬間。俺は、視界から消えるように開いた足の間に滑り込む。
「もらった!」
すぐにクロスを構え直し、がら空きの背中に鋭い一線を加える。
「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!」
そう、策とは単純なもので、巨体をすり抜け後ろから攻撃を仕掛けるというものだった。
少しでもタイミングが合わなければ、鋭く尖った三本の爪に殺られていたが、なんとか成功した。当然、背中を切りつけられた巨大な化物は、バランスを崩し前へと倒れかける。
だが、寸前のところで器用に片膝をつき転倒を防ぐ。そのまま周りのコンテナごと破壊する勢いで、俺をなぎ払おうとする。
「残念でした」
しかし、既に俺はこの場から離れ、隠れるようにコンテナのなかへと消えていた。
「おい。余所見するなよ」
言いながら、巨大な化物の背後を完全に取った相馬。
俺を攻撃するため腕を大振りしたせいで、完全に反応が遅れる。
「遅えよ」
巨大な化物が振り向くよりも早く、両足の腱を素早い一太刀が襲う。今度こそ体を支えることが出来なくなった巨大な化物は膝から崩れるように倒れこむ。このまま押しても良かったのだが、相馬は深追いせず、すぐさまコンテナの影へと姿を消す。
「もらった!」
影井に言われた通り、俺達二人は奴を撹乱するように交互に攻撃を仕掛けた。
「楪、影井先輩、頼む!」
そして、巨大な化物の動きが鈍ってきたところで、俺はインカム越しから二人に指示を出す。
「「了解」」
俺の合図のあと共に、貸し倉庫に三発の銃声が鳴り響く。影井が巨大な化物を狙撃したのだろう。三発全てが
狙い通り左肩へと命中した。
「楪さん、あとは頼む!」
「分かりました」
小さく答えた楪は、軽やかにコンテナの上を走り、その勢いのままクロスを構えて左肩へと一直線に突っ込んだ。
「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!」
左肩に打ち込まれた三発の弾丸とクロスによる追撃で、鋭く尖った三本の爪が生えた左腕を削ぎ落とすことに成功した。
巨大な化物はその場で暴れ、今まで以上の唸り声を上げる。
「一ノ瀬君、奴が怯んでいるうちにとどめを!」
「分かった!」
とどめをさすために動いていた俺は、クロスを構えながら巨大な化物目が掛けて突っ込もうとしたが——、
「————ユウタ……」
「え、……?」
片膝をついて苦しんでいる巨大な化物にクロスを突きさそうとした瞬間、自分の名前を呼ばれたような気がして踏みとどまってしまう。
「————ユウタ……」
——まただ。また、誰かに呼ばれた気が。
そして、巨大な化物の体から、紐の付いた鍵が転がる。
…………これって。
俺はそれを無言で拾い上げ言葉を失う。
「……………………」
「……………………」
——な、なんで………。
「——ユウタ……」
「…………かいと?」
消え入りそうな声で海斗の名前を呼ぶ。
「かいと……。かいとなのか……?」
「一ノ瀬、避けろ!」
「え?」
気がつくと、左腕を失った巨大な化物が起き上がり、残った右腕で俺をなぎ払おうとしていた。
当然、気が動転していている今の俺は、攻撃を受け止めることも、避けることも出来ない。
「危ないッ!」
目の前の光景がスローモーションように過ぎていき、俺を庇うように楪が、巨大な化物の攻撃を受けて後ろのコンテナへと吹き飛んだ。
「……」
作戦は失敗したのだ。
「影井先輩は楪を頼む! 俺が注意をひく!」
全てを話し終える前に、コンテナの影で隠れていた相馬が巨大な化物に飛び込んでいく。
「楪さん! 楪さん!」
影井も急いで楪の下へと駆け寄るが、意識はない。
お前は海斗なのか……。
その場で膝から崩れ、巨大な化物が落とした鍵に目をやる。
「…………」
手に持っている鍵は確かに見覚えがある。
そう、この鍵はあの時開けた地下室の鍵だ。
「グハッ!」
「相馬君!」
左腕を奪ったとはいえ、真正面から戦って勝てる訳もなく、相馬も強烈な一撃を食らって吹き飛ぶ。幸い、攻撃を食らう瞬間後ろへ跳びダメージを軽減したようだが、一発が重すぎたためクロスを杖代わりにしないと起き上がれない状態。
「……くそが」
優勢だと思われていた状況が一気に劣勢へと変わる。
嘘だ……。嘘だ……。嘘だ!
俺は未だに現実を受け止められずにいた。
「くっ、あああっくっ……」
「相馬君!」
大きな右腕で、相馬の体を軽々と持ち上げる。
すかさず影井がスナイパーライフルで巨大な化物の右腕を狙撃し、なんとか相馬を解放する。
「た、助かりました……」
笑って答える相馬だったが、体は既に立っているだけでも限界だろう。
「全員一時撤退! 一ノ瀬君、相馬君の援護を! 一ノ瀬君!」
お前が海斗の訳がない……。お前が……。
「こい! 馬鹿一ノ瀬ッ!」
負傷した状態にも関わらず、相馬は俺を引っ張りこの場から撤退しようとする。
「————裕太」
その際、はっきりと俺の名前を呼ぶ海斗の姿がそこにはあった。
今回で第3章は終わります。
次回から、第4章の始まりです!!




