家族 3−10
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「……きやがった」
下へ到着する頃には、巨大な化物がすぐ目の前まで迫っていた。
「もう一度確認するけど、敵の能力は未知数。むやみに突っ込むんじゃなくて、相手の行動、特徴をしっかりと観察しながら戦う。そして、もし危険だと判断したら即撤退する」
「分かってますよ」
クロスを解放した俺が、三人を代表して答える。
影井先輩の攻撃が効かなかったようだが、俺が確実に仕留めてやる。
「お前、邪魔するなよな」
「はっ、お前の方こそ」
こんな時でも俺と相馬は言い合いをしていた。
「二人共落ち着いて! 奴がくるよ!」
手にしていたスナイパーライフルで、巨大な化物の右足を狙い打ち、体制が崩れたところで戦闘が始まった。
「一撃で終わらせる!」
最初に動いたのは相馬だった。
影井の一発で右足から崩れかける巨大な化物は、器用に右手を地面につけ転倒を回避。だが、目線を俺達ではなく地面に向いた一瞬の隙をついて、相馬が奴の下へと踏み込む。そして、刀を勢いよく振り下ろす。
「……チッ!」
しかし、寸前のところで巨大な化物は、鋭く尖った三本の爪で相馬の一撃を受け止めてしまう。
巨大な化物は、そのまま膝立ちの状態から右拳を振り上げて相馬を襲おうとするが、こちらもその一撃を寸前のところで回避した。
「でかい図体している割には反応が早いな……」
後退しつつ、もう一度仕掛けるため刀を握りなおしていると、巨大な化物の背後に楪の姿が。
「フッ!」
奴の注意が相馬に向いている間、背後に素早く回りこんでいた楪が、槍を突き立てるような一撃を放つ。
「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛」
さすが楪といったところだろうか、放った一撃は見事に命中。だが、刺さった場所が左肩というだけあって、巨大な化物を仕留めるまでには至らない。それどころか、刺さっている槍を右腕で強引に引き抜き、その勢いのまま楪ごと地面に叩きつけようとしていた。
「楪さん!」
影井の声が飛ぶ。
それでも楪は、冷静な判断で槍をクロスの状態に戻し、巨大な化物の右腕から逃れる。
「大丈夫、楪さん?」
「はい、大丈夫です」
「影井先輩。奴が悪鬼ってやつですか?」
相馬は刀を構えながら、後ろに立つ影井に声をかける。
「いいや、あれは悪鬼じゃないよ」
すぐに相馬の考えを否定した影井は、話を続けた。
「悪鬼はみんな人間と同じような体格で、言葉を話す。でも、目の前の化物はそのどちらも当てはまらない。だから奴は堕人で間違いない」
「あいつが堕人……」
完全に同様している様子の相馬。
「突然変異……。という考えでいいのでしょうか?」
「多分そうだと思う。僕もあんな奴は初めてみた……」
みんなをまとめるよう言われている影井は、出来る限り平然を装い喋っているつもりだろうが、声が微かに震えている。
「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛」
唸り声をあげてこちらに近づいてくる巨大な化物に、三人は固まるように集まりクロスを構える。
「ねえ。そういえば一ノ瀬君の姿が見えないのだけど……」
楪の言葉で、初めて俺がいないことに他の二人も気がつく。
「あの馬鹿どこに……」
相馬が辺りを見渡しているがみつからない。
そんな俺はというと——、
「——これでも食らいやがれ!」
建物の上から、巨大な化物の頭上目掛けて斬りかかろうとしていた。
よし、もらった!
自分の中では、確実に決まったと思っていた一撃だったが、あっさりと巨大な化物に避けられ、俺の一線は空を切る。
「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛」
反撃とばかりに巨大な化物は、大きな唸り声をあげながら左腕を振り上げる。
「チッ! あの馬鹿!」
「相馬君は一ノ瀬君のフォロー。僕と楪さんで奴の注意を引くよ」
「「分かりました」」
三人が一斉に散り散りになっていく。
「こっちを向け!」
影井がこちらに注意を向けるため、後ろ姿の巨大な化物に銃弾を打ち込む。楪もわざと視界に入り込み、注意を引こうとする。
「よし、上手くいった」
思惑通り、巨大な化物の注意を引くことに成功する楪と影井。その隙に、相馬が俺を抱えて巨大な化物から距離をとった。
「馬鹿かテメエは! 不意打ちならもっと上手くやれ! どこに自分の居場所を叫びながら突っ込む奴がいる!」
「それは……」
全くもって相馬の言う通りなので、なにも言い返すことが出来ない。
くそ、あと少しだったのに……。
「二人共怪我は?」
俺達の下に影井と楪が駆け寄る。
「俺達は大丈夫です。それより……」
影井の言葉に答えつつ、相馬は前方にいる巨大な化物を見据える。
「分かってる。あいつはかなり強い……」
絞り出すかのように口を開く影井だったがその通りで、今まで戦ってきた堕人のなかでも圧倒的に強く、苦戦を強いられていた。
あのデカイ爪が厄介だ……。
「これからどうする?」
後ろ姿の影井に声をかける。
「まず奴の動きを止める」
「止めると言ってもどうやって?」
「見ての通り、周りは崩壊した建物が多く開けている。ここじゃあ相手の方が有利だ。だから場所を変えようと思う」
「場所を変えると言いましても、どこに?」
今まで黙っていた楪が口を開いた。
楪の言う通りで、辺りを見渡しても、巨大な化物の障害になりそうな建物は見当たらなかった。
「一ノ瀬君、この辺りで攻撃を妨害出来そうな場所は知らない?」
「妨害ですか……」
この地域を一番よく知っている俺に白羽の矢が立つ。
しかし、楪同様辺りを見渡しながら考えるも、巨大な化物の攻撃を妨害出来るような場所が思いつかない。
「影井先輩。こっちに向かって来ます!」
俺と影井が話している間、相馬が巨大な化物の動きに目を配らせ、こちらに近づいていることを知らせる。
「一ノ瀬!」
相馬が急かすも、絶好の場所が思いつかない。
ここら辺一帯はよく海斗と遊びに出かけていた。だから探せば絶対にあるはずだ。何処か、何処かないのか……。
「影井先輩。一ノ瀬君が思い出すまでの時間を私が稼ぎます」
「一人は危険だ」
「しかし……」
早くしないと巨大な化物が来てしまうと楪が目で訴える。
「おい、一ノ瀬!」
奴の行動きを奪える場所、障害物が多くある場所……。
「一ノ瀬君……」
「——ありました!」
ギリギリのところで巨大な化物と戦う最適な場所を思い出した。そして、それが分かると影井がすぐに指示を飛ばす。
「僕が牽制しながら走る。その間に一ノ瀬君はみんなを先導してその場所へと案内して欲しい」
「分かった」
影井の指示通り、俺は他のみんなを先導しながら走り始めた。




