家族 3−9
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「こっちは異常なかったよ」
「こちらも大丈夫でした」
影井と会話をしている楪。
最上階に着く頃には既に影井と相馬が待機していおり、俺達の到着を待っていた。
「随分と遅かったな」
「悪いな」
俺の顔を見るなり嫌味を言う相馬。それでも今は相馬の嫌味がありがたいと思ってしまう。
一度だけ、楪に視線を向けるが、先ほどのような暗い表情は見えない。いつも通りの淡白な楪だった。
「じゃあ、交代で外を見張りながら休憩をとろう」
「分かりました」
返事をしたまま、最初は俺が見張りを務めると言いい、相馬は一人全体を見渡せるベランダへと向かってしまう。
そのため、現在この場所には俺、楪、影井の三人だけ。
二人共、携帯食料や水分を補給をするなどして体を休めていた。
「そういえば影井先輩のクロスって、一回目の任務の時とは違ったよな?」
とくにやることのなかった俺は、ふと疑問に思ったことを口にする。
前回、一度目の任務では、スコープがついたライフル銃のようなクロスだった。だが、先ほど俺達を助けてくれた際に使用していたのは、ハンドガン。異なる形状のクロスに俺は疑問を抱いていた。
「僕のクロスは少し特殊でね」
影井は俺に説明しながら袖のボタンを外し、クロスからハンドガンを解放した。これは俺達を助けてくれた際に使用したハンドガンだろう。
「この他にも」
そう言うと、手にしていたハンドガンが瞬く間にスナイパーライフルへと形を変える。
「僕は一つのクロスから三種類の武器を解放することが出来るんだ」
「おお! すげえ!」
「クロスを複数使用するということは、体にかなりの負荷がかかるのでは?」
クロスが変化した様子に興味を示したのか、近くで休んでいた楪もこちらに近づいてきた。
確かに楪の言う通り、クロスの解放にはかなりの体力を消費する。そのため、普通の人間が所持出来る個数は一個か二個が限界と、訓練兵時代の講義で習った。だが、目の前の影井はこのほかにもあと一つクロスを持っていると言う。
本人には申し訳ないのだが、とても複数所持出来るような体力を、影井が持ち合わせているとは思わなかった。
「違うよ。このライフルもハンドガンも、全部が一つのクロスなんだ。だから体力消費もみんなと大して変わらない」
「なるほど」
「そんなクロスもあるんですね」
いつの間にか楪も、俺の隣で頷くように話を聞いていた。
「僕の他にも変わったクロスを持ってる人はいるよ。たとえば———」
「影井先輩!」
話を続けようとしたところに、相馬が血相を変えて戻ってきた。
「あ、相馬君ごめん。そろそろ交代の時間だね」
謝りながら見張りを交代するために立ち上がる影井。しかし、そんなことでは相馬の焦った表情が変わることはない。
「おい、どうしたんだよ」
見かねた俺が相馬の下まで近寄り、何度か肩を叩くが全く反応がない。普段の相馬なら、この時点で俺に対して暴言を吐いていたであろう。だが今はそれがない。
「おい、相馬……」
これは只事ではないと直感的に感じた。
「もしかして奴らが?」
影井の質問に、はっきりと首を縦に振る相馬。どうやらまた新たな堕人の群れがこちらに向かっているようだった。
話を聞いた瞬間、周りに緊張感が走る。
「はい。だけど少し様子がおかしいんです」
「様子?」
相馬の言葉に疑問を浮かべているなか、他の三人は駆け足でベランダへと向かっていく。
俺も急いで後を追いかけベランダへとやってきたのだが、周りに奴らの姿はない。
なんだ、どこにいるんだよ。
あまりに血相を変えて戻ってくるものだから、既に囲まれてしまった後だと勝手に思い込んでいたが、全くそのようなことはなかった。
周りには、奴らどころか人の気配すら感じない。
「おい、奴らはどこにいるんだよ」
隣に立っている相馬に伺うと、ゆっくりと前方を指す。
「前……?」
指示通りに前方を見るが、なにも目に入ってこない。
「おい、相馬」
はっきりとものを言わない相馬に対し、俺は徐々に腹を立て始める。
「これで見てみろ。馬鹿一ノ瀬」
焦りが先行しているのか、相馬はとくに怒ることもなく、こちらに単眼鏡を差し出してきた。
これで前方を見ろということらしい。
一体なにが見えるんだよ……。
俺は言われた通りに単眼鏡を覗くと、写り込んできた光景に驚き言葉を失う。
なんだよ、あれ……。
単眼鏡を覗いた楪と影井も同じ反応らしく、言葉を失っていた。
「——影井先輩、あの巨大な化物どうします?」
そう、単眼鏡で覗き込んだ先には、全長三メートルはある大きな体で、左腕には鋭く尖った三本の爪を生やし、今までに見たことのない化物がこちらに向かって歩いていたのだ。
今後の動き方について指示を仰ぐ相馬。
「幸い、奴はまだこちらに気がついていない。その間に仕留める」
言うが早いか、影井は自身のクロスを解放して、先ほどのスナイパーライフルを構える。言葉通り、ここから狙撃するらしい。
「……」
体を地面に着け狙撃の体制に入る。その間、俺達には出来ることがないので、影井が一発で仕留めることを祈るしかない。
影井先輩、頼みます……。
風は全く吹いてはおらず、俺達と巨大な化物との間には目立った障害物ものない。
絶好の狙撃ポイントのなか、影井はゆっくりと引き金に手をかける。これでいつでも打てる体制に入った。
あとは影井のタイミング次第。
「……」
不気味な緊張感が周りを支配する。
「ふぅ……」
一呼吸したあと影井の体が動かなくなり、そして乾いた銃声と共に巨大な化物目掛けて一発の銃弾が撃ち込まれた。
「……やったか!?」
今も単眼鏡を覗き込んでいる相馬に声をかけるが、こちらに振り向こうとはしない。
影井もスコープから奴を見ているようだが、同じような反応。
一体どうなったんだよ。
「おい、相馬! 人の話を———」
確認するように相馬の肩を掴む俺だったが、結果は聞かずと前方から答えが返ってきた。
「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛」
ここまで届く巨大な化物の唸り声。
どうやら、狙撃は失敗したようだった。
「外したのか!?」
「ちげえよ! 影井先輩の銃弾は確実に命中した」
相馬の言う通り、影井の狙撃は寸分の狂いなく巨大な化物の頭を打ち抜いた。そのはずだったのだが、奴は倒れるどころか凄まじい勢いでこちらに向かってきていた。
「だったらどうして!」
どうして奴の唸り声が聞こえるのかを相馬に詰め寄る。
「みんな落ち着くんだ! 分かることは今の狙撃で僕達の居場所があいつにばれた。急いで下に降りよう。そこで迎え撃つんだ!」
「「「了解」」」
こちらに迫る巨大な化物。
俺達四人は急いで建物下へと降りて戦闘体制に入った。




