家族 3−6
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「おい、馬鹿一ノ瀬。前に出すぎだぞ」
「そうか?」
水野と別れた俺達四人は、作戦通りに目的地まで向かって歩いていた。
「これくらいなら大丈夫だよな? 影井先輩」
俺が先頭になり、左右を楪と相馬、後方が影井という陣形。
最初は相馬も先頭を歩くと言い出し口論になったのだが、じゃんけんの末俺が先頭を歩くことになった。
「う、うん、これくらいなら……」
「ほらみろ」
「チッ」
本人はまだ納得していないのか、先ほどから細かいところでいちいち突っかかってくる。
相馬と口論しつつ、周囲に意識を配り歩いているのだが、奴らが一向に現れる気配がない。
水野の話では、前回よりも街の規模が大きいため、奴らの数も多いだろうとの話をしていた。だが、未だに足音一つ感じない。このままだと奴らに遭遇することなく合流地点に着いてしまう可能性もあった。
「影井先輩さすがにおかしくないですか?」
奴らが全く現れないことに、楪や相馬も疑問を抱いていたようだ。
「確かにそうだね、ここまで奴らの姿を見ないのは初めてだよ」
でも油断は禁物だと、今まで以上に目を光らせ歩き進む。
多分、このなかで影井が一番緊張しているのだろう。突然臨時ではあるが隊長を任され、自分に全ての決定権が委ねられていると、普段から消極的な影井にとってはかなりのプレッシャーに違いない。
その証拠に、水野と別れてからやけに顔色が悪い。
「大丈夫ですか? 顔色が悪いみたいですけど……」
影井の様子がおかしいことに気づいていた楪も、優しく声をかける。
「ぼ、僕は大丈夫。心配してくれてありがとう」
本人はこれでも気丈に振舞っているつもりだろうが、かえって緊張していることがこちらにまで伝わってきてしまう。
正直、これなら奴らの一体や二体現れてくれた方がましなのではと、思っていたその時——、
「みんな静かに!」
突然、楪が黙るよう指示を出す。
「……」
楪の言葉通り黙り込んだ俺達は、周囲を確認する。
前方、右側、後方と確認するがとくに変化はない。しかし、左側。楪が指をさした先から複数の足音がこちらに近づいていた。
「みんな注意して」
影井の言葉と共に、足音の正体は姿を現わす。
「奴らを目視にて確認、数は十体です」
左側を注意深く観察していた楪から、落ち着いた声が上がる。
俺にも確認出来たが、左前方から奴らが現れたのだ。
ついにきた……。
これが不安か武者震いかは分からないが、思わず生唾をゴクリと飲み込み、拳に力が入る。
奴らの数は楪が先ほど言った通り十体。そのどれもが堕人と奴らのなかでは低ランクのものばかり。
まず負けることはないだろう。その証拠に、楪や相馬の顔から不安の色が伺えない。しかし、そのなかでも一人。影井だけは別だった。
「き、きた……」
この通り、こちらへとやってくる奴らにかなり緊張していた。
「影井先輩、ここは俺達に任せてくれませんか?」
クロスを解放しながら口を開く相馬。手には黒い日本刀が握られていた。
「でも……」
「いいぜ、どっちが多く倒せるか競争だ」
相馬の言葉が俺への挑戦状だと勝手に解釈し、続くようにクロスを解放する。
俺のクロスは刀のような鍔はなく、大きさ、形状と、歪なもので、どちらかというと剣に近いのかもしれない。そのクロスを両手で握り、奴らを見据える。
続けて楪もクロスを解放。手には黒い槍が握られていた。
「影井隊長」
先ほど言った通り、三人で奴らと戦っていいかの指示を仰ぐ相馬。
「分かった。でも、くれぐれも無理な戦闘は控えるように」
「了解。おい一ノ瀬、怖かったら下がってもいいぞ」
「うるせえ。テメエの方こそ下がっててもいいんだぜ、ここは俺と楪で——」
「では、作戦通り敵を殲滅します」
俺が話し終をえるよりも早く、楪が一人で敵陣へ突っ込んでいく。
「あ、おい楪! 抜け駆けは汚ないぞ!」
次いて相馬、最後に俺という順番で、奴らの下へと向かう。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」
突っ込むや否や、早速堕人を倒す楪。
さすが実技、技能とトップの成績なだけはある。
楪は一体倒すとすぐに標的を変え、綺麗な槍さばきで足、腕、という順番で確実に奴らの行動を奪い、止めをさしていく。
「フッ!」
一方相馬は、刀を素早く横に一線し、奴を真二つにする。
二回目の戦闘ということもあり、二人は臆することなく奴らと戦っていた。
「馬鹿一ノ瀬! 一体そっちに行ったぞ!」
相馬の言葉通り、片腕をなくした堕人がこちらへと近づいてきた。俺を殺すために。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」
俺は、奴が近づいているのにも関わらず、冷静にその場で目を閉じる。
「おい! 馬鹿一ノ瀬!」
分かっている。分かってるさ。
あの時、覚悟を決めた。
たとえ、相手が元人間だったとしても、この手でみんなを、目の前の仲間を守ると。
————俺は、もう迷わない。
素早く目を見開き、今にも襲いかかろうとしていた堕人の首をはねる。
奴らを殺しつくすまで俺は戦い抜いてやるさ。
クロスを握る手に力を込め、次の敵へと向かっていった。
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「フッ!」
掴みかかろうとしていた奴の腕を断ち、返すようにそのまま左斜め上へと剣を振り上げ胴体を真二つにする。
一体目を片付けたあと、二体目、そして今三体目を片付け終わる。
あいつらは大丈夫か?
戦闘にも余裕が出来たので辺りを見渡すと、二人はとくに押されることもなく目の前の堕人を片付けたところだった。
そして、残る堕人は一体。
俺は最後の一体を仕留めるために体制を落とし、勢いよく地面を蹴った反動で奴に突っ込む。
これで最後だ!
しかし、最後の一体を楪や相馬の二人も仕留めようとしていたらしく、堕人を囲むように一斉に飛びかかっていた。
まずい……。
このまま奴に突っ込めば、確実に倒せることは分かっている。だが、それと同時に二人にも危害を加えてしまう可能性もあった。かといって、既に飛び出しているので勢いを殺す手段がない。
くそ、間に合わない……。
三人が激突してしまう寸前、一発の銃声と共に飛びかかろうとしていた奴の体が後方へと吹き飛ぶ。
俺は音がする方に首を向けると、そこにはハンドガンを持った影井の姿が。どうやら寸前のところで影井がクロスを解放し、奴を撃ち殺したようだ。
「どけええええ!」
「じゃまだああ!」
奴を倒したのはいいが、やはり飛び出した勢いはどうるすことも出来ず、勢いよく相馬と衝突。
因みに楪は槍を地面に突き立て器用に衝突を避けた。
「馬鹿一ノ瀬! なんでテメエは避けずに突っ込んでくるんだよ!」
「それはこっちのセリフだ!」
奴らを片付けいがみ合う俺と相馬。
「だから最初から俺に任せておけば——」
「ほ、ほら、二人とも落ち着いて。よかったよ、大怪我に繋がらなくて」
影井が慌てて駆けつけ、二人の怒りをなだめようとする。
「……ッチ。次は気をつけろよな。馬鹿一ノ瀬が」
「お前もな!」
「ふ、二人とも……」
ほとんど呆れている影井。
「影井先輩。ありがとうございました」
二人の喧嘩に全く興味のない楪は、華麗に着地したあと影井の下まで歩み、お礼を済ませる。
そのあとは、戦いで制服についた汚れやホコリを叩き始めた。
「さ、さあ。奴らも片付けたことだし僕達は先へ進もう」
手のつけられない状況下に頭を押さえる影井。その影井の提案で、俺達四人は再び歩き出した。




