家族 3−5
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「では、改めて作戦内容を確認する」
車のボンネットに地図を広げ、五人は作戦内容の再確認を行う。
「いいか、今回の作戦は車庫でも話した通り、二手に分かれて任務に当たる。編成も話した通り、私とお前達だ。影井、こいつらのこと頼むぞ」
「はい。頑張ります」
車庫では不安そうな顔をしていた影井も、いざ戦場に立つと人が変わったように隊長の話を聞いている。
「お前達も影井に協力してやれよ」
「「「はい」」」
「まずお前達はこのまま真っ直ぐ進み、奴等の数を減らしながらここを目指せ」
水野は地図上で目的地をさしながら指示を出す。そこには普通の生活を送っていたら通うはずだった中学校。小学生の時、何度か見に行っていたので場所ははっきりと覚えている。
「私はお前達とは反対側のルートからここを目指す」
つまり、俺が通うはずだった中学校が合流地点ということらしい。
「前回とは違い、街の規模が大きい。それだけここには人が住んでいて、奴らに殺されたってことだ。つまり敵の数もかなりの量になるだろう」
殺された人のなかに、母さんや海斗が……。
「水野隊長。前回よりも奴等が多いと分かっているのなら、尚更隊長の方にも人員を」
一人では危険過ぎるのではないかと、相馬が再び提案する。
「まあこっちは任せろ。それより心配なのはお前達だ。いいか、前回のように奴等の群れに囲まれたら無理はするな。決して相手が有利な状況での戦闘は控えるように。そうなった場合は一旦引いてチャンスをうかがえ」
「分かりました」
代表して影井が頷く。
「逆に敵が単体、少数の時はすぐさま叩け」
堕人はクロスを使えば簡単に倒せるが、それが群れになると話は別だと水野は俺達に伝える。
「あとは冷静な状況判断を心がけろ。以上だ」
各自、自分の地図を開き、水野が言った目的地をマークする。
「よし、最後に私からお前達にいいものをやろう」
肩見放さず持っていたアタッシュケースをボンネットの上に置き、慣れた手つきで蓋を開けていく。
「水野、これって」
なかには片耳につけるインカムのようなものが綺麗に五つ並べられていた。
「通信機ですか?」
「その通り」
見事正解を言い当てた楪から順に、水野はインカムを配っていく。
「よし、全員装着したな」
全員が装着したことを確認し、水野もインカムを装着する。
「全く声が聞こえませんが」
インカムをいじる相馬。
渡されたインカムにはとくにボタンはなく、相手の声が全く聞こえてこない。
「相馬、インカムに触れながらなにか話して見ろ」
俺達に使い方を身振り手振りで説明していき、相馬も言われた通り人差し指でインカムに触れる。
「馬鹿一ノ瀬」
すると、相馬が喋った内容がインカムからも聞こえてきた。
「おい、誰が馬鹿だ!」
「聞こえてきた」
「こちらもです」
楪達にも聞こえたらしい。
「そう、このインカムは五つ全てと連動している」
俺達に説明しつつ、相馬がやったように人差指と中指を自身のインカムに当てる。
「私だ」
同じように水野の声が、俺達四人のインカムに流れてきた。
「今みたいに、会話が全員に聞こえるわけだ」
「通信機ということは分かりました。ですが、距離などの制限はないのですか?」
インカムを耳から外した楪は、細かい部分を確認しながら水野に尋ねる。
「さすが楪、いいところに目をつける。このインカムはな」
水野は自慢気に喋りながら、上空を指差す。
「そういうことですか」
楪だけが今の会話で全てを理解したようだ。
「おい、どういうことだよ」
「楪、教えてやれ」
「分かりました。いいですか、このインカムには小さな受信機かなにかが搭載されています。ここを押している間は電波を送信、離すと受信状態となり、皆さんのインカムに声が届くという仕組みだと思います。そしてその電波のやり取りは衛生が全て管理しています。そうですよね。水野隊長」
「完璧だ」
「なるほど、これがあれば逸れても安心だな」
「それともう一つ機能がある。一ノ瀬、相馬、お前達はどちらの方が足が速い?」
「「俺だ!」」
車内の時と同様、再び相馬と声が合ってしまう。
「テメエよりぜってえ俺の方が早え!」
「はあ!? 相馬なんかより俺の方が早いに決まってるだろ!」
「分かった、分かった。ならあそこまで競争してみろ」
水野は呆れながら一キロ程先の踏切を指差す。勿論これは水野の作戦だ。
「分かった!」
「一ノ瀬テメエ汚ねえぞ!」
言われた瞬間、全速力で踏切を目指して走り出す。あとに続いて相馬も。
「隊長一体なにを……?」
「どけ」「邪魔」と、今も騒ぎながら足っている俺と相馬の様子を眺めながら水野に質問する影井。楪は大きなため息を吐きながら呆れていた。
そして、結局踏切には同着だった。
「お、おい……。踏切に着いたぞ……」
水野達の下にインカム越しから連絡する。俺の方が早かったと付け加えて。
「ご苦労。次は会話をする際に触れていた場所を二回タッチしてくれ」
「タッチ……?」
訳が分からなかったが、とりあえず水野に言われた通りにインカムを二回タッチする。
だが、これといって変化はない。
「な、なんだよ……」
しかし、変化がなかったのは俺のインカムだけらしく、隣に立っていた相馬は驚くようにこちらを眺めていた。
「お前の場所が聞こえてきた」
「はあ?」
なにを言ってんだこいつは。
「正常のようだな」
どうやら動作確認を含めての行動だったらしく、「確認出来たから戻ってこい」と、インカム越しから水野の指示が飛ぶ。それでも俺だけはなにが起こったのか分からない状況だったので、水野に詳しく答えるよう問う。
「仕方ない」
言うと、すぐにインカムから機械的な女性の声が聞こえてきた。
「救難信号をキャッチしました。只今より最短距離をナビゲートします。このまま一キロ先まで直線して下さい」
「おお!」
「分かったか。こいつには通話機能だけではなく、今みたいに救難信号も送ることが出来る」
走った意味もそこで全てを理解した。
「これでお前達の位置はすぐに分かり、いざとなれば最短ルートで駆けつけることも可能だ。さあ、二人共さっさと戻ってこい」
帰りは手を抜いて走れば良いものの、相馬の口車に乗せられて全速力で水野達の場所まで戻った。
結果はまたも同着。
「それぞれ再度動作確認をしてくれ。なければ只今より任務を開始する」
「こっちはオッケーだ」
「俺もです」
「僕も同じく」
「私もです」
全員通話機能、救難信号を飛ばし合い、正常に動くことを確認。いよいよ任務が始まる。
「よし、お前達に最後の一言だ」
口調には今までのようなふざけた印象はなく、これから戦場へと向かう戦士の目をしていた。
「——必ず全員生き残れ、これより水野班、領土奪還作戦を開始する」
「「「了解!」」」
今度は大丈夫……。
静かに拳を握りしめ、二回目の任務が始まった。




