家族 3−4
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「よう、例によってまた暗いな。もしかして怖気付いたか?」
任務場所へと向かう車内。
俺達は前回と同じ場所に座り目的地へと向かっていた。
「人の話を聞いてるのかよ」
車内で口を開いているのは相馬のみ。
俺は前回のように突っかかるわけでもなく、適当に聞き流しながら外の様子を遠い目で眺めていた。
「おい、人の話を——」
「……懐かしいだけだよ。ここがな……」
この道も、あのお店も、どこも知っている場所ばかり。しかし、そのどれもが奴らの手によって壊され、崩壊仕掛けていた。
「それって……」
さすがに相馬も気がついたのか、バツが悪そうな顔でこちらから目を背ける。
そう、ここは昔、俺が母さん、海斗と住んでいた街、『相模原』だ。
出発前まで目的地を黙っていたのは俺への配慮だろうか、フロントミラー越しに水野を眺めるが、運転に集中しているためこちらの視線には気がついていない。
久しぶりだな……。
再び車の外へと視線を向け、当時の日々を思い出すかのように見つめる。
それと同時に、なにも出来ずに逃げ出した自分が悔しくて仕方がなかった。
「……悪かった」
そんな思いで移り変わる風景を眺めていると、相馬が申し訳なさそうに口を開いた。
「今回は俺が全面的に悪かった。すまん……」
体もこちらに向けて謝る相馬。
こんな時代に生きる俺達は、心のなかにそれぞれのトラウマを抱えている。
家族を殺されたトラウマ。恋人、友人を殺されたトラウマなどと。そのため俺達は必要以上に過去を話そうとはしない。
「……いいよ。だいぶ前のことだし……」
口では言うものの、故郷に戻るとどうしても当時の忌まわしいき記憶が蘇ってしまう。
まだ、家もあるのかな……。
先ほどまで騒がしかった相馬も大人しくなり、聞こえてくるのは今にも壊れそうな車のエンジン音のみ。
車内から人の声が消えた。
「……」
「お前ら、好きな食べ物はなんだ?」
俺や楪、相馬や影井が一言も喋らない様子を見かねて、水野が明るい調子で口を開く。
「影井お前はなんだ?」
「ぼ、僕ですか!?」
「ああ。で、好きな食べ物はなんだ?」
フロントミラー越しに影井の顔を見つめる水野。
「お肉ですかね……」
「なるほど肉か。一ノ瀬、相馬、お前達はなんだ?」
「肉です」
「俺も」
相馬に続くように俺も質問に答える。
「楪、お前は肉嫌いか?」
最後に助手席に座っている楪に声をかけた。
「お肉ですか……」
「そう、肉だ」
楪は一度目を閉じ、じっくり考える。
「嫌いじゃないですね」
「なるほど、話は以上だ」
「「はあ?」」
思わず相馬と声が合ってしまった。
楪も、水野の方に首を向けて驚いている。
「なんだ、どうした?」
水野はわざとらしくフロントミラー越しに俺と相馬の表情をうかがう。
「いや、ここは上官である私が特別に奢ってやろう。とか言う場面だろ!」
三人を代表して俺が口を開くと、一斉に頷き始める。あの楪でさえ。
「冗談だよ。私がそんなケチくさい人間に見えるか?」
「……」
再び車内が静まり帰る。
「お前達、今ここで降りるか?」
「み、水野隊長は太っ腹です!」
「そうです!」
「水野は美人!」
相馬、影井、俺の順番で必死に水野を褒めちぎり、なんとか降りることだけは間逃れた。
「この任務が成功したらな」
そしたら焼肉を奢ってやると水野は言った。
「水野隊長、ありがとうございます!」
「隊長ありがとうございます!」
もしかして、水野はわざとこの空気を壊すために、あえて場違いなことを言ったのではないだろうかと考えてしまう。
「どうした、一ノ瀬」
意味ありげに俺を呼ぶ水野。
フロント越しではあるが、全てを見透かしたような視線に俺は思わず目を逸らす。
そして、「ふん」と鼻で笑ったあと再び運転に集中し、目的地である『相模原』に到着した。




