仲間 2−5
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「随分と大人しいな」
「……」
嫌みまじりに言葉を投げてくる相馬。今は目的地へと向かう道中の車内。
水野の運転で、助手席に楪、後ろに相馬と影井、一番後ろの席に俺といった座り順になっている。しかし、そんな座り順はどうだっていい。俺は車内の窓から見える景色に絶望していた。
時間的にはまだ朝なのだが空は分厚い雲に覆われ、建物は倒壊。なかには残っているものもあったが、いつ崩れるかも分からない状態。四年前より自体は深刻化していたのだ。
「……」
二度の襲撃を受けた人間達は、奴等から逃げるように生活を送っていた。
今では、奴等が入ってこられないよう特殊なバリケードを作り、その中で生活を送っている人が多い。しかし、そのバリケードもいつ壊されるかも分からないので、地上の人間達は、二日怯えていた。
俺達は、みんなのためにも一日でも早く奴らを全滅しなければならない。
「おい、お前人の話を」
「うるせえよ、少し黙ってろ」
「なんだテメエ、やるのか?」
近くで騒ぐ相馬があまりにも目障りだったため、つい強く当たってしまう。
売り言葉に買い言葉。相馬も俺の言葉に腹を立て始め、今では体全体をこちらに向けて戦闘態勢。
「ま、まあ落ち着いて……」
隣に座っていた影井が宥めるも、全く意味をなさない。車内は喧嘩が始まる一歩手前だった。
「楪、影井、掴まってろ」
それだけ言うと、水野はいきなりブレーキを踏み、走っていた車を急停止させる。
楪と影井は事前に伝えていたためとくに問題はなかったのだが、当然話を聞かされていない俺と相馬は車の急停止と共に、体を前後に激しくぶつける。
「なにするんですかいきなり!」「痛ってえ……」
同じタイミングで口を開いく俺と相馬。
「お前達ここは既に戦場だぞ。これ以上くだらない言い合いをするようなら帰れ」
そこで初めて俺達が怒られていたことを理解する。
「すみませんでした」
「悪かったよ」
「分かればいい。よし、ここからは歩きだ、全員降りろ」
敵拠点のすぐ手前に車を止め、水野の指示通りここからは歩くことに。そして、アジトでも行ったようにこの場でもう一度作戦を確認しあう。
今回は比較的アジトからも近く、敵の数もそれほど多くはない拠点の奪還。俺達新人には適した任務だが油断は出来ない。
「いいか、陣形は私を先頭に左右を一ノ瀬、相馬、後を楪、更にその後ろを影井とする」
「なんで俺が先頭じゃないんだよ」
「お前は黙ってろ。隊長、この馬鹿に左側を任せるのは危険なのでは?」
闘争心をむき出しにしている俺を相馬が適当にあしらい、陣形に対する意義を唱える。
「陣形はこれで行く。いいな」
「……分かりました」
有無を言わさぬ水野の迫力にさすがの相馬も気圧されてしまう。
「では行こう」
「ヘマするなよ」
「うるせえ、お前もな」
「ふ、二人とも……」
「馬鹿みたい」
チームとして全く息が合っていないが、俺達は先ほどの陣形通りに敵拠点へと足を踏み込む。
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「奴らいませんね……」
あれから敵拠点に入り込み十五分ほど歩いているが、一向に敵が現れる気配がない。
奴らは一体どこに……。
相馬が前を歩いている水野に言葉をかける。
「まあ、敵の拠点に入り混んだと言ってもまだ入り口部分だからな。奴らがいるとしたらもう少し奥にいるだろうよ」
「なるほど」
「まあ、時期に嫌でも戦闘は始まるさ」
何度も任務を行っている水野と影井、それと初任務というのに楪達はやけに落ち着いていた。
対照的に俺と右を歩く相馬は先ほどから物音一つに過敏に反応するなどと、かなり神経質になっている。果たしてこんな状態で奴らとまともに戦えるのだろうか。
「よし、一先ずここで——」
休憩を提案仕掛けた水野の表情が一気に強張る。当然、俺達には今なにが起こっているのか全く理解出来なかった。
「なにかくる。注意しろ!」
水野の一言で、この場が一気に緊張感で包まれる。
「……」
息のつまる瞬間。
俺も全神経を周囲に集中させていたその時——、
「助けてええええええ!」
倒壊しかけた建物から五歳くらいの女の子が泣きながら飛び出してきた。
そして、その後ろには奴らが。
ついにあの化物達が姿を現したのだ。
「なぜあんなところに子供が」
突然の出来事に水野が戸惑っている間にも、事態は一気に悪い方向へと加速していく。
「隊長、前を!」
俺や水野達が女の子に気を取られていると、楪から声が上がる。その言葉通り前方を確認すると、堕人の群れが。
「水野隊長、こちらにも!」
続けて右側にいた相馬からも声が上がる。
勿論、奴らが反対側にも現れたことを知らせるためのもの。気がつくと、前、左右から奴らが迫ってきていた。
「各位、戦闘態勢! 囲まれては部が悪い。一旦引くぞ」
「「「了解!」」」
水野の指示で全員袖のボタンを外し、なかから垂れてきた十字架のブレスレッドから武器を解放する。武器は刀、槍と様々。
敵は堕人、このまま引かずに戦っても勝てる可能性は十分あったが、決して無理はせず、確実性の高い方を水野は選択した。しかし、俺だけは違う。
「おい水野、あの女の子はどうするんだよ!」
そう、このまま引いてしまうとあの女の子は奴らに殺されてしまうのだ。そのため、俺は素直に水野の指示を従うことが出来なかった。
「水野!」
「策はある! だから今は一先ず撤退するぞ!」
俺の意見を聞いても尚水野は撤退を選んだ。
「おい、馬鹿一ノ瀬! さっさと引くぞ! 隊長の命令だろ!」
周りが徐々に後退するなか、相馬の言葉を無視してその場に立ち止まる。
なんだよ策って……。撤退することが作戦なのか……? それじゃあ……。
今も奴らに追われている女の子は確実に殺されてしまう。
——そんなのッ!
「一ノ瀬!」
気がつくと、俺の体は勝手に動きあの女の子の下へと向かっていた。




