仲間 2−4
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初任務の朝、俺は水野からの指示通り外へと繋がる車庫までやってきた。
いよいよ初任務。
基本俺達『最果ての地』が行う任務は奪還。奴らに奪われ拠点となっている領土を取り戻すことである。つまり戦闘、激しい殺し合いが行われるのだ。
いよいよだ、いよいよこの時がきたんだ……。
手袋をはめた自身の手を見つめ、覚悟を決める。
「おう、てっきり怖気付いてこないと思ったぜ」
決意を新たに固めていると、後ろの方から嫌味のこもった言葉と共に相馬がやってきた。
勿論、組織が用意した制服に身をまとい。
「よお、みんなは?」
『最果ての地』が用意した制服は全体的に『黒』を基調とした長いコートのような形状で、ところどころに赤のラインや、腰にポーチなどがついている。
「まだ来てねえよ」
「失礼ね、私は最初から居たわよ」
「げ、楪……」
すると、車の陰から楪がこちらに近づいてきた。
「おはよう。あと少しで遅刻よ、もう少し時間に余裕をもった行動を」
相変わらずの冷たさである。
「お前ら揃ってるな」
集合時の直前で、俺達八班の隊長水野薫がやってきた。
「水野隊長遅いですよ」
「それを貴方が言えるのかしら」
相馬が水野に文句を言うと、それを迎撃するかのように楪から言葉の刃が飛んできた。
「チッ……」
それを言われてしまうとなにも言い返せないのか、相馬は苦虫を噛み潰したような表情をみせる。
「まあまあ、言い合いは止したまえ。これから協力して任務にあたるんだ、ここで喧嘩をしていたら連携が取りにくくなってしまう」
「そうですね、分かりました」
「……了解です」
素直に言うことを聞く楪と、渋々といった感じの相馬。俺はこれからこいつらと共に任務にあたる。個々の実力は同期のなかでも上位に入るのだが、果たして上手く連携が取れるのだろうか。
先が不安だな……。
そんな不安を他所に、再び楪が口を開く。
「集合時間になりますが、あとの一人は宜しいのですか?」
「そうですよ、遅刻ですか?」
確かに楪と相馬が言う通り、俺達は基本五人で一班と訓練兵時代に教わってきた。それが正しいのならあと一人いるはずだ。しかしどうも姿が見えない。本当に遅刻なのだろうか。
「ああ、影井には頼みことをしてあるからな、もう時期くるよ」
俺はただ黙って三人のやりとりを眺めていると、影井らしき人物が両手にたくさんの荷物を抱え、駆け足でこちらにやってきた。
「すみません隊長、荷物が多くて」
「なあに、時間丁度だよ」
水野は腕時計で時間を確認しながら影井らしき人物と話をしているが、俺はその光景に驚き、開いた口が塞がらなかった。
「も、もしかしてですけど最後の一人って……」
一番初めにで相馬が口を開いた。
どうやら相馬や楪も俺と同じ考えらしく、目の前の影井に戸惑いを隠しきれないでいた。
こんな弱そうな奴が……。
「自己紹介が遅れたな、影井、自己紹介を」
「はい」
言われて荷物を置いた影井が俺達の前に立つ。
「か、影井岬、十八歳です。組織には二年前に入りました。えっと、えっと……」
言葉につまり、焦り出す影井。
影井岬、十八歳。身長百七二センチ、目にかかるくらいのダークブルーヘアー。性格は見ての通りひ弱。
「この通り影井は人と話すのが苦手でね、まあ本任務から副隊長を務めることになった。私がいないときは影井を隊長として行動するように」
「よ、よろしく!」
「お、おう、よろしくです」
「よろしくお願いします」
頭を下げる影井。正直楪の方が強そうであった。
「えっと、一ノ瀬君?」
「よ、よろしく」
考えごとをしていたので反応が遅れてしまったが、俺は差し出された手を取り影井と挨拶を済ませる。
「よし、これで全員揃ったな」
一通りの挨拶が終わったことを確認し、影井が持ってきた荷物を車に積み終えた水野が、自分の周りに集まるようにと声をかける。これから初任務を行う上での最終確認だろうか、取り敢えず言われた通りに水野の前に集まった。
「お前達、五條団長が言っていたことは覚えているか?」
「『己が信念の下、命を落す覚悟で奴らと戦ってほしい』ですか?」
一語一句、あの時五條が言っていた言葉を思い出しながら話す楪。
「さすが楪だな。そう、今のが『最果ての地』、私達組織が掲げている方針、掟だ」
そんなのもの今更言われなくても分かっていた。死んでも奴らを倒す。当たり前の方針で、この組織に入ると決めた時からいつでも死ぬ覚悟は出来ていた。しかし、水野は五條、組織全体が掲げている方針を鼻で笑うように続きを喋りだす。
「——いいか、そんな掟は今すぐ忘れろ」
「え、?」
当然俺だけではなく楪や相馬も驚いたような表情を浮かべ、唯一影井だけがまたか、といった表情で笑っていた。
「ここでは私が隊長だ。だから私が決めたルールに従ってもらう。お前達、周りを見ろ」
「周り……?」
水野の言葉通り、周りを見ると左右には楪と相馬の顔が。二人も言われた通りに周りを見渡していたので目が合う。そのなかで、水野が班でのルールを説明し始める。
「私達は今日からお互いの命を預け合った仲間、家族と言っても良いのかもしれない」
「家族……」
『たとえお母さんが側にいなくても私達は繋がってる』
あの時母さんが最後に言っていた言葉を思い出す。
「ああ、家族は絶対に守り抜け、そして必ず——」
いつしか驚きの表情を浮かべていた俺や楪、相馬は水野の言葉を真剣に聞いていた。
「生きてここに戻ってくるぞ」
それがここでの掟。
ルールだと、俺達に伝えたあと今回の任務についての再確認を始めるのであった。
「…………」
忌まわしき惨劇を思い出すかのように静かに目を閉じる。
『誰かあああ!』
『助けてくれええええ!』
『くそ、俺達のせいだ……』
『絶対に生きて!』
『——生きろ』
この四年間血のにじむような日々を送った。それは奴らを倒すため、みんなを守るために努力してきたんだ。
あの時の悲鳴や叫び、母さん、海斗の思い、班でのルール、その全てを深く心に刻み付け、俺はゆっくりと目を見開き、戦場へと向かう準備を始めた。