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夜トの宴  作者: 大隈寝子
4/22

 1 → 2 Night2 side Sword

「もういいぞ」

 およそ十秒ほどだろうか。

 目を開けると、空には星が浮かび、黒に染まっていた。

「夜……?」

「”太陽殺し”」

 その手に謎アイテムを載せながら、空が喋る。

「ようは対象者の昼をすっとばして強制的に夜にするって話だ。にしてもまずいな、いきなり夜とは」

 そうだ、夜。

 まわりにはさっきまでが嘘みたいに人が行き交っていた。

「ましろ、一番人がいなくなりそうな方角はここから見てどっちだ」

「えと……西、かな」

「なら行くぞ。走らなくていい、ゆっくり、ただし迅速にだ」

 言った通り空は歩き出す。

 静かになにも無かったかのように。

「今のうちに時間を確認しといてくれねぇか」

「今……?」

 ポケットから携帯を取り出し、時間を視る。

 20時45分。

「ようするに7時間近くとばされたわけか……」

 そこから五分ほど歩いて周囲は完全に住宅街となった。

 人の気配はまるでない。

「あまりやりたかねぇけど、この時間帯だったら無理か」

 空はぶつぶつ言っている。

「今からこの街の北にある俺の拠点にいく。そこならしばらく安全だ。で、移動方法なんだが」

「どうやって移動するの?」

「高所恐怖症とか、ジェットコースター苦手だったりとかってあるか」

「いや、特にないけど」

「ならいけるな」

 言って。

 札を取り出し。

「 一ノ句告げる 五 タン 」

 呪を告げた瞬間に空の足元に複雑な魔法陣がうかび、そこから青白い光が空の全身を覆っていく。

「よし、じゃ行くぞ」

 どことなく青白い光をまとわせた空は言うや否や、私をかかえて走り出した。

 お姫様だっこで。

「ちょ」

「文句はあとで聞く。今はじっとしててくれ。

 そして

「……!!」

 地を蹴り、跳躍する。

「まぁ多分20分ばかし走るだけだ。その間我慢してくれりゃいい」

 肩ごしに視る月は、とても綺麗だった。

 それからおよそ15分後。 

 


「あーらら、囲まれちまったな」

「ちょ、そんな平気な感じでいいの?!」

 流日の中心からさほど遠くない雑居ビルの屋上で空とましろは敵に出会っていた。

 黒い衣装に身を包んだ

「忍者……?」

「あながち間違ってねーと思うぜ」

 四方の敵を見渡して思考する。

 普通に道を行けば敵に遭遇するだろうとは予想できていた。

 ならば立体的に、と。

 ビルの屋上を飛ぶようにして移動していたわけだが。

 敵が単体でくるという思い込みが間違いだったわけだ。

 札を手に出現させ、見据える。

「おい、イノさん、助走なしで飛べるか」

 呼応するように、イノシシが虚空から現れる。

「誰じゃと思うとる主」

「なら任せる」

 目はみない。

 頼むは信頼。

 示すは行動。

「ぬんっ!!」

 ましろを乗せたイノシシが文字通り飛翔したと同時

「 ニノ句告げる 十 カス 」


 空中からみたそれは空の周りに舞う小さな花束のようであった。

「……ッ!おいてって大丈夫なの!?」

「大丈夫じゃよあいつは。それよりお主は大丈夫かお嬢さん」

 風をさきながらまだ上昇を続けるイノシシ。

 声はしかしましろの耳に届いた。

「大丈夫です―――!」

 大した肝っ玉じゃて……。

 心中で思いつつイノシシはなおも飛ぶ。

 その速度は日本一と謳われるジェットコースターと同等。

 心臓が弱ければ気を失ってもおかしくはないような速度である。

「お嬢さん、こっからは走るぞ、しっかり掴まれ!ぃ」

「はいうわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ」

 言い出す前から駆け出したその上のましろはどこか楽しそうにきこえなくもない叫びを残してイノシシと共にその場をあとにした。

「でもってあんくらいじゃひいてくれんわな」

 ましろがこの場を離脱できたという以外は状況に変化はない。

 敵は10いるかいないか。

 隠れていたらわからないが、敵がもし今頭の中に浮かんでいる連中なら倍来ても問題はないだろう。

 囲まれたということは向こうが速度において勝る。現状のトップスピードはましろに預けた。

 ならば。

「倒すしかねぇよな」

 幸い1対多の戦闘はプラハで嫌というほどに味わい、慣れた。

「 三ノ句告げる 十 カス 」

 様々な光の銃弾がはじけとぶ。

 一人は手で一人は足で一人は刀で。

 はじき、残りは体をそらすことでかわした。

 わかってはいたがこうも当たらないと癪だ。

 一番近くに迫った黒衣に向かって掌打。

 腹をうちぬく算段で放ったそれは敵の両手で締められるようにして止められた。

「つ……ッ」

 肉弾戦はそれなりには自信があった。

 がそれだけではこの黒衣には勝てない。

 捉えられた左手をひくようにして相手をひきよせ

「 一ノ句告げる 唐衣 」

 顔面に叩き込んだ。

 敵の腕から力が抜ける。

 そのあとは確認しない。

 自分の中で最弱の技ではあるが零距離だ。

 意識を次へ向ける。

 この間一秒足らず。

 左腕の状態と敵の位置を確認。

 権能は無しでいけるか。

 なるべく一対一の状況を作り出し敵を倒すのにかかった時間はそれからおよそ一分だった。

「……ふー」

 一応確認はする。

 これから向かう先はつけられていては意味がない。

「 三ノ句告げる ほととぎす」

 呪を最後に、空は夜の闇に消えた。


「終わったみたいだな」

「わかるの!?」

 イノシシは空を駆けながらつぶやく。

「あまりしゃべるなお嬢ちゃん。舌を噛む」

 たとえるならやたらとガタガタするジェットコースター。

 あれはコースが整備されているからこそ安心して安全に恐怖を楽しめるのだ。

 それに対してこちらはあまりに生物的。

「あと五分とかからん!」

 その速度は初速からくらべおよそ倍になり周囲には稲妻が走っていた。

 霊体である彼は直接は一般の人間には見えないだろう。

 だが見える人、いわゆる霊感のある人間は空を見上げ、思った。

 流星だと。

 思いの外、イノシシというのは乗り心地はよかった。

 乗っているというより担がれているという感じ。

 体はピッタリとイノシシの背にくっつけて腕と足にしがみつく。

 アニメ映画に出てくる少女みたいだと思った。

 ……ものすごくモフモフだった。

 布団よりもなお体温の分あったかい。

 背中は夜空に晒しているから全体として暖かくはないが、とても心地よかった。

 怖かったけど。

 それにしても、何がどうしたらイノシシが空を飛ぶのか。

 今更な気がするけれど。

 空もビルから隣にうつるときありえないくらいジャンプしてたし。

 とりとめのないことを思ってるうちにも風景は後ろへ流れていく。

 日常が、流れていくように思えた。

 なんて。

 イノシシは街から少し離れた山よりの所でようやく地におりた。

「ついたぞいお嬢さん」

 そう言うイノシシと、イノシシからおりて地に足をつけたましろの視線の先には

「空……ここに住んでるの……?」

 ぼろっぼろに朽ち果てた屋敷があった。

 いや、屋敷というのは語弊がある。

 ものすごい古いアパート。

 多分三階建て。

 壁は元の色が何色だったのかわからないくらい黒ずんでいる。

 それに、どこか傾いているように見える。

 建築基準法とか大丈夫なのだろうか。

「よし行くぞ」

「いや、ごめんちょっと待ってここ入るの?」

 思わず躊躇した。

「家じゃぞ、これ。見てくれはまぁ、アレじゃが」

 アレですましていいのだろうか。

 壁につたがはっているのはまだいい。

 そこに走るヒビは見逃せない。

 十秒後には崩れそうな、そこそこ派手なひび割れ。

 雨漏りとか……うん。

 一応道路に面している部分には門らしきものがあるけど、もはや原型をとどめていないくらいに崩れ落ちている。

 空に浮かぶ月すらココの背景にあると怖く見えてくる。

 夜という時間帯に恐怖を抱いたことはないけれど、昨日からいろいろとわけのわからないものを見ているけれど、それでも、ここに入るのには足が動かなかった。

「怖いとか以前にはいった瞬間に崩れるんじゃないかという不安がですね」

「口調が変じゃぞ。お嬢さん。まぁなんだ空がここを根城としてからというもの崩れたことはないぞ」

「崩れたらそんなとこにいないでしょうよ……」

 げんなりしていると、かたわらのイノシシはこちらを気にすることなくその敷地に踏み入れていった。

 仕方なくついていく。

 門から玄関までは10mくらいか。少し距離がある。

 ぱっと見た感じ建物を囲うように庭があるようだ。

 どの植物も枯れに枯れていた。

 冬だからかな……。

「なんだお客さんつれて帰ってきたのか、ノシシさん」

「その呼び方やめてくれんかね、コロ」

 玄関先には犬がいた。

「アンタもやめてくれよ。俺そんなかわいい柄じゃねーべ」

「かわいいもんじゃよわかぞうめ。すまんが茶を用意してくれんか」

 当然のように喋っている。

 もはや驚きはない。

 イノシシがしゃべるのだから犬も喋るのだろう。

 何もおかしなことはない。

「部屋?広間?どっち使うん」

「とりあえず主が帰ってくるまで広間じゃな」

「了解っす」

 会話を終えると犬は中へ入っていく。

「吾輩らも行くか」

 トコトコと。

 家の中へ入っていく。

 イノシシが。

 もう一度言おう。

 イノシシが、家に、入ってく。

「……お邪魔します」

 中は外に比べれば、というか比較にならないほど綺麗だった。

 ぱっと見どこかの旅館のようにも思える。

 靴は下手なひと部屋くらいの広さのある玄関で脱ぎスリッパに履き替える。

 少し進むと小さなテーブルと何個か椅子が置いてある広間があった。

「丸っきり旅館だな……」

 外からはそうは見えなかったが木造らしい。

 歩くたび心地いい感触とやわらかな音が響く。

 イノシシは広間の椅子にせこせこと座った。

 ぶらんとしている前足がかわいい。

「ん、ここで座って待っとれば主もじきに来るじゃろ」

 やたらと古めかしい調度品をながめてると先ほどの犬が盆をのせてやってきた。

 その背中に。

「器用なんですね……」

「こんな見た目でも何でもできることが売りでしてね」

 言いながら机に盆をすべらせ自身もトコトコと椅子に座る。

 向かい側にイノシシが座っているその位置だと大きさの関係から机をはさんでイノシシが犬を恐喝しているように見える。

 というかなんでこの人?ケモノ?たちは椅子に人間みたく座れるんだろう。

 とりあえず出されたからにはお茶を頂く。

 あ、おいしい。

「ところでノシシさん、この方はどちらで?」

「その言い方はするなと言ったろう、コロ」

「すんません。で、こちらの方は?」

 驚く程にすんませんが適当だった。

「主の客人だ」

「なるほど……」

 ……なにがなるほどなんだろう。

「えっと、私は、ですね」

「いいぞ、お嬢さん。どうせ後で皆にせねばならんからな」

「あ……はい……」

 そう言われたらやはりお茶を飲むしかない。

 ほんとにおいしい。

 そして無言。

 無音の空間ができて十分ほどした後。

 イノシシの主であるところの空が来た。

「いやすまん。思いの外速度がでなかった」

 目立った傷はない。

 少し息はあがっているが多分走ってきたからだろう。

「あぁ、すまんシバ。茶、入れてくれ。あとできたら皆を呼んできてくれ

。説明したいことがある」

「うっす了解っす」

 どこかその態度に既視感があると思ったらあれだ、体育会系の一年生だ。

 とりあえず目上の人には服従。

 というか本名はシバなのか。

「怪我はないみたいだな、ましろ」

「うん、そっちも」

「ま、今日襲ってきたのは雑兵だしな。数もそこまででもない。が収穫はあった」

 コートを脱ぎながら話す。

「収穫?」

「敵が誰か、で誰を狙ってるか」

「……十人の夜トじゃないの?」

「夜トは夜トだろうよ。でもよく考えろ。ましろが離脱したあと誰か追ってきたか?」

「いや、全く。……あ、だからか」

「そ、君の場合なぜだか夜には神格がなくなっている。神器は発動できるのかよくわからんが、神格がないってことは何もしらなけりゃましろを夜トと認識できないってこった」

「うーん……ステルスってこと?」

「ちと違うが、まぁそう思っとけばいい。要はほかからましろが夜トだとわからないってのが大事なんだよ。それと敵さんがだいたいどういうやつかわかったから今日は上出来だ」

「……ともかく私は夜出かけなければ巻き込まれることはない……?」

「……それはどうだろうな。昼には神格があるしな」

 いまいち自分ではよくわからないけれど。

「そこらへんのカモフラージュのためにここに連れてきたってのもあるんだが」

「あ、そうだ、なんでここに」

 そのわけを聞こうとして。

「よーす兄ちゃん元気かえー?」

 扉のすぐそば。

 小さな子供がいた。

 八歳くらいだろうか。

 ただその見た目が、どう見ても坊主だ。

「元気も何も最近はずっといたろ」

「バカを言うなガキんちょ」

 その見た目で言うのか。

「一日顔をあわさんかったらお前ぐらいの年頃はすぐ変わっちまう。人から鬼になるとかざらじゃぞ」

「それはあんたの昔話だろ……」

「ガハハハハハハ」

 と。

 袈裟を着たその子供(?)が笑ったのと同時。

「お客さんかぁい!?酒は出るかぁ!?」

「酒ぇ!酒をよこせぇ!」

 見た目普通の女性と、その身体が透けている女性が、肩を組んで入ってきた。

「酒ぇ!」

「酒ぇ!」

「こいつらずっとこんな調子か……?」

「大晦日の陽がおちてからずっとじゃよ。毎年のことじゃが」

 あきれた目つきで子供が女性たちを視る。

「アルコール!アルコール!」

 気づけば二人は手拍子をしながらそう叫んでいた。

「……やかましいわぁ!」

 景気よく叫んでいた女性たちは新たに登場した男性に蹴飛ばされた。

 だいたい四十代だろうか。

 紫色のシャツとジーンズをきた……なんというかクラブにいそうな怪しさ。

「ったく、こちとら筆がすすまねぇってぇのにバカ騒ぎしやがって」

「カリカリするな文豪。正月じゃぞ。空も客を連れて来よったし」

「空が客ぅ?」

 文豪と呼ばれた男性が、そのするどい目つきを向ける。

「なんだ、処女か」

「しょっ……!」

 それだけ言うと文豪は座って眠りだした。

 坊主はというと

「ゲハハハハハハハハ!」

 下衆のように笑っていた。

「気にすんなましろ」

 空がそういう。

 似たような発言をしていたのはどこのどいつだったか。

「空さぁん」

 扉からシバが入ってくる。

「全員来ましたか?」

 トテトテと、小さな足を動かして空の近くに寄ってくる。

「いや、夫婦達磨と花魁が来てねぇ」

「達磨さんたちは料理を作ってました。花魁さんは一人で盛ってました!」

 と、尻尾をふりながら言う。

 下ネタがありふれすぎている。

「あー……じゃあ仕方ねぇ」

 何がどう仕方ないのか。

「不思議な、というよりはドン引きな顔しとるの」

「仕方ありませんぞ坊主殿。彼女はいわゆるパンピーですので」

 それまで沈黙を破っていたイノシシが口を開いた。

「ここに来てる時点でパンピーというのは嘘じゃろ」

 ゲハハハハハ、と。

 坊主とイノシシが揃って笑いだした。

「空……」

「言いたいことはわからんでもないが大体いつもこんな感じだ。慣れろ」

 慣れでこの喧騒はどうにかなるのか。

 酒と叫んでいた女性二人は倒れ、文豪と呼ばれた男は席について眠っている。

 イノシシと坊主はゲハハハと笑っている。

 なんなの、このカオス。

 どうしたらいいかわからず、ただひたすら固まっていると。

「お、夫婦だるま」

 ポヨン、ポヨン、と。

 黒と赤の達磨が入ってきた。

「おかえり、空」

「いらっしゃいませお嬢さん」

 無表情で、口も動かさずにそう言って上座についた。

「さて、それでは」

「ご飯にしましょうか、皆様」

 そこから先は記憶がない。

 自己紹介をしてさんざん空といじられ倒したあげく干支だからとイノシシをやたらとありがたがりドンチャン騒ぎに巻き込まれたということだけをなんとなく覚えている。

 見てはいけないものをたくさん見た気がしたが、きっと夢だ。




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