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夜トの宴  作者: 大隈寝子
14/22

 4 → 5 Night5 side Sword & White 2

 数時間後。

 細かい要因や力の流れはわからずじまいではあったが、夜刀は勝利と白銀の刃を、夜徒だった少年は家族を手に入れてそれぞれの帰路についていた。

「うーん……肉の記憶っちゅーやつかな」

「肉の記憶?なんだそりゃ」

 経緯を聞いた道風は不可解だった仮谷たちの身体の現象について言及した。

「通常、人間の身体で記憶を蓄えるゆーたら海馬がその機能を有する器官なんやけど、それ以外に記憶を保存しているケースがある」

「それが身体、肉だと?」

「ま、仮谷らならそういったことが起きても不思議やないわな」

「仮谷が……」

「彼らは肉体を軸にした術式を使う。その術式がゆえに身体に記憶がいきわたっとったんやろなぁ」

「なぁ……その肉の記憶って誰にでもあるもんなのか」

「あるで。肉の記憶自体は誰もが持っとる。しかしわざわざそんなことを聞くんは……なるほどその鬼か」

「気づいてたのか」

「そらまぁ……僕これでも古の術師なんやで?でもってあの頃の敵ゆーたら」

「おい道師。そんな浅い時代の鬼とわしを一緒にするでない」

 突如、会話にわって入るように現れたのは銀城だった。

 その姿は、夜徒との戦いの最中に見た、銀髪の童。

「おまっ」

 現れながら、すとん、と空のあぐらの上に座る。

「これは失敬。そちらは神代の鬼ですかな」

「わかればよい。なんじゃ花火を直に食らったような顔をして」

「いやお前、実体化できたのか……?」

「具現も何も、刀として使っとったじゃろうに。あとは変化するだけじゃ」

「……それも……そうか」

 その赤い瞳をぎらつかせながら言う。

「ハッキリ言うが、お前のそれはある種、肉の記憶じゃが別の見方をすればちがう」

「……どういうこった?」

「受け継がれたものか蓄積されたものかの違いじゃ。それはそうとわしは腹が減ったぞ」

「ほな山舎にいきましょか。ましろちゃんも沙羅ちゃんもそっちにおるし」


「んまいのぉーっ」

 神社の裏手。

 山のすぐ側にある家、通称“山舎”。

 ここは神社の現当主であるばぁさん、オババの住処であると同時に彼女の拾ってきた子供たちの家でもある。

 時間が時間なので子供たちは寝ていたが。

「あら、いい食べっぷりねぇ!もっとおたべ!」

「おぉーッ!」

 オババが次から次へと料理を繰り出し銀城がそれをむかえうつ。

 どうも銀城がまだ親父の中にいた頃、時折彼女は具現化しては食事をとっていたという。

「ちなみにお主が生まれて三番目に抱いたのはわしじゃぞ」

「な……」

 あの世界での邂逅のイメージからか、もっと幻想的な存在だと思っていた。

「ま、わしも神代の鬼とはいえそこらにおった野良の鬼じゃからの」

「……そうかい」

 その落差にふりまわされる。

「しかし本当にかわいらしいですね。鬼とはとても思えません」

「……お主、六道の娘っ子か、大きくなったの」

 オババが新たに作った料理を運んできた沙羅に銀城は言う。

「あら、私のこと知っているんですね」

「当然、家同士の付き合いがあったからの。それよりお主、身体は大丈夫か」

「身体ですか?特に問題はありませんが」

「ならよいが」

 さきほどまであっけらかんとした顔つきだった銀城が神妙な面持ちで問い続ける。

「……あの動乱、今回のは紛い物じゃったが、それでも身体に障るには違いない。お主に六道の術がまだ生きておるならそれでよい。してそこの娘、ましろといったか。お主も特に障りはないかの?」

「え、えぇ、はい」

 突如、自分が会話に巻き込まれたことに驚いたのか。

 その返答はあまり言葉の体をなしていなかった。

「ふむ、お主、苗字はなんと言う」

「えと……」

 ましろは思い出していた。そういった世界にいる連中にやすやすと名前を言ってはいけない、と。

「言っていいぞ、ましろ。銀城は大丈夫だ」

「……月夜です。月夜ましろ」

 ふぅむ、と。

 聞いた銀城はうなり声をあげる。

「どうかしたのか」

「いやどこかで見たような顔をしとったからの……先祖にでも会ったかと思ったんじゃが……前からここらで月夜なんて家あったかの」

「あの、私の実家、大阪です」

「大阪ぁ?……あぁ台所か」

「いつの時代の話だ」

「いやまて大阪で月夜じゃと……あー……」

 上を向きながら腕を組みながら、考える。

「思い当たる事でもあったか」

「いやぁ、喉まででかかっとるんじゃがの……」

 なんじゃったかのう……と。

 小さな鬼は呻く。

「だー、わからん。空、あやつを出せ、あの道師」

 しびれを切らしたのか銀城は道風の召喚を要求してきた。

 山舎に行く前、その時点で召喚自体は終了している。

「いや、無理」

「無理じゃと?お主の術じゃろうが。何が無理なんじゃ」

「アイツはオレの持つ札の中で最高位の“光”の一枚だ。消費が激しい。普段はちょっとずつためてるけど、さっきで使い果たした」

「ちぇっ」

「ちぇって……」

 本当に神代の鬼なのか。

「さて、空よ」

「なんだよ」

「これからどうする?」

 その二つの赤い目が、品定めするようにこちらを視る。

 そして返す。

「どうもこうもシルヴァさん次第だな」


 ◇ ◇ ◇


 時間は少し遡る。


 明らかに動きが悪い。

 今眼前にいる敵は術師であることはおろかそもそもが“目録外”の存在であるため、闘い方が我々とは大きく異なっている。

 術者のソレが激しい動きを伴わない静かな闘いだとすれば、大半の目録外は激しい闘いを好む。

 シルヴァ・U・デストロの知る殺人鬼の闘いというのは身の丈ほどの大剣をふるうそれこそ嵐のおような激しいものであった。

 しかし、今はちがう。

 肉体を起点とした魔法による静かな闘い。

 夜徒の権能による影響はあまりに如実だった。

「つまらない」

 シルヴァがジャックに固執するのには理由がある。

「つまらない」

 デストロ家がその隆盛を極めたのはおよそ200年前、

 その頃からデストロといえば炎、といった観念が術者の中に浸透するほどに彼らは確固たるものを持っていた。

 しかしソレは一夜。

 たった数時間で消え去ることになる。

 一人の男、殺人鬼によって。

 全てを把握した記録というものはこの事件に関しては存在しないが、その後残された惨状や“門”の出現が確認されたことからも犯行はかの殺人鬼によるものとされた。

「つまらない」

 彼に関わった家は全て根絶するため、子孫は絶えてしまうのが常であったが、デストロの惨劇に関しては例外があった。

 事件当時の当主、ファルス・ソル・デストロの弟、カルロ・ソル・デストロの存在である。

 彼はその夜、婚約者の家にいた。

 ただそれだけで難を逃れたのである。

 カルロの子孫は200年の時をかけてデストロを復興した。

 失われかけた秘伝も継承した現当主シルヴァ・U・デストロはその性格も災いして“術使い”と揶揄されることも多々ある。

 が、術の評価は高い。

 炎を扱う術者は一度は教えを乞いにデストロの門を叩くとさえ言われるほどだ。

 それほどまでにデストロを高めた男は思うのだ。

「つまらない」

 以前の衝突においては“炎王”さえおしまずに披露した。

 だが目の前の敵にソレを出すほどの価値はない。

 愚鈍に剣をふるいふるわれる。

 とても殺人鬼のソレとは思えない。

「まともな指示を出せていないということは空君たちがよくやってくれているのだろうが」

 無様に肉体を動かす怨敵を見つめながら思う。

 せめてもっと、上手く踊って欲しかった、と。

 

 ◇ ◇ ◇


「シルヴァ……あぁあの奇術師か」

「知ってるのか」

「知ってるもなにも、わしはお前の中におったんじゃぞ。お主の見聞きしたものはなんとなく頭に入っておる」

 少し得意げに鬼は胸をはった。

「なら話ははやい。あの人が“殺人鬼”を夜徒の一団から分離してくれた。そっから戦闘に入ってて終わり次第連絡をくれるはず」

「終わり次第ぃ?」

 鬼は食を中断して声をあげる。

「お主、あのオッサンが殺人鬼をどうにかできると思っておるのか?」

「痛い所をつくな……」

 一連の計画の流れ、戦闘終了後の連絡という部分には暗にシルヴァの生命の無事が前提条件となっている。

 殺人鬼が夜徒に操られていたとはいえ、その実力が生半可なものではないということは十二分に知っている。

 そして空は、夜徒の権能下での殺人鬼の力を知らない。

「まぁ朝になって連絡が来なければ……シルヴァさんは敗けたとみなして動く」

「敗けた……のう」

 何かを含めるような間。

「何が言いたい」

「いや、気にするほどのことではあるまい。しかしそうか。今のところお主はましろとシルヴァ、今日倒したやつと殺人鬼以外は知らんわけじゃな?」

「明確にはしらねぇけど、初日に会ったメガネの女がいたってのはわかってる。降りたかどうかはわかんねぇけど」

「……じゃとしたら動きようがないのう……」


 連絡が来たのは夜が明けてすぐだった。

『やぁ空君。残念ながらというべきかはわからないがこちらは進捗はなかったよ。彼は夜徒の権能から解放された後、やっとまともな戦闘をしてくれたが太陽の登場と共にどこかへ行ってしまった。今後は協力体制は予定通り解消ということでいいね?』


「で、どうするんじゃ?」

 連絡を待っていたましろと銀城が空の言葉を待つ。

「そうだな、とりあえず」

「とりあえず?」

「帰って寝る」


 三十分後。

 空は自室であるところの202号室で眠りについていた。

 困ったのはましろと銀城である。

「えぇっと……どうしよう」

「どうしようかの……」

 夜トの戦闘が夜にのみ行われることから今寝ておくのは理にかなっている。

 いるのだが。

「布団とかあるのかな……」

「わしはともかくお主はのう……」

 昨日までは布団はダルマ夫妻が用意してそしてどこかへ持って行っていた。

 空はというと窓際に設置されたベッドで光をさえぎるように布団の中にひきこもっていた。

 元々空はこういう人間である。

 そもそも人の家に入り込んで即座に飯を要求するような輩である。

「はぁ……」

 仕方ない。

 来客用の布団を探そう。

 押入れをあさればひと組くらいでてくるかもしれない。

「あー、お主、押入れは開けれそうにないぞ」

 見れば銀城ちゃんが押入れの前に立ちすくんでいる。

「なんで?」

「これじゃ、これ」

 示されたところには一枚の札がはってあった。

 基本の色は赤で真ん中あたりには「封」という字。

「なにこのあからさまな御札」

 見るなと言われば見たくなる。

 言うなと言われれば言いたくなる。

 開けるなとはすなわち。

「封を破れということじゃな」

 心なしか音をたてないように抜き足差し足で銀城ちゃんは御札に近づいていく。

「破って大丈夫なの?」

「なに、何かあれば主に尻拭いさせりゃよい」

 妙に怪しい笑みを浮かべながら警戒色で彩られた札に手をかける。

「念のためにお主は少し離れておれ」

 かけられた指が封を解く……。

「特になにも起きんな」

 実際封を破ると光が迸っただとか、得体の知れないものが出現しただとかそういうことはなかった。

 ただ札が一枚、べりっと。

 はがれただけ。

「さて、中を覗くとするか、布団あるかもわからんし」

 言いながら戸をあけていく。

 その瞳は布団が無いことを期待しているようだった―――

「ぬ」

「何かあっ……た?」

 銀城ちゃんの後ろから覗き込む。

 微妙に広く大人一人くらいなら軽く入れそうなその中には少し不思議な形をした瓶が置かれていた。

「飲み物……なのかな」

「いやいやこれはそんな甘っちょろいもんじゃないぞ……」

「なんなの、これ」

 心なしか銀城ちゃんは後ずさりしている。

「鬼ころし……払い水とも聖水とも言われるやつじゃな……」

「鬼ごろし……」

 それは一般販売されているアルコール飲料じゃないのか。

「まぁわしくらいじゃと、飲んだら一週間寝込むくらいで済むじゃろうがそこいらの“悪いの”となると一瞬で消し飛ぶぞ……」

「あぁ……」

 要するに。

「なんでこんなもん持っとるんじゃ……」

 ただの貴重品だった。

 その瓶を呆然と眺めているといつの間にか大家であるダルマ夫婦が布団をどこからか持ってきてくれて私たちは床についた。

 どうやって持ってきたんだろう……。

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