4 → 5 Night5 side White
ちょうどイノシシが屋上についた時。
空は地に倒れた。
せめて頭を打たないようにと。
かけよって抱えた。
重い。
冷たい。
わからない。
グチャグチャだ。
言葉が、感情が。
あまりに多くて形にならない。
空を視る。
多分私は何か喋ってる。
多分私は泣いている。
多分私は悲しんでいる。
多分私は泣いている。
多分私は怒っている。
多分私は悲しんでいる。
多分私は抱きしめている。
空はもう、動かない。
その体を。
ねぇ。
何でだろうね。
私はなんでこんなにわからないんだろう。
たった何日か前に会ったばかりなのに。
家族でも友達でもないのに。
変な人だと思っていた。
わけわかんないと思っていた。
でも多分。
これまでの中で一番君といた時間が。
どうしようもなく。
◇ ◇ ◇
「お前、月夜か」
敵を倒した、それだけだ。
その時、声がした。
敵の名を呼ぶ声。
めんどくさい。
それなりにこの敵は骨が折れた。
なにより癪にさわった。
とっとと、どうせなら打ち捨てて、今日は切り上げたい。
終わった戦場に来たのは夜刀を連れてきたイノシシと、少女。
その声を聞いたことがある。
その姿を見たことがある。
が、そんな感情は見たことがない。
どういった関係が目の前の二人にあったのかは知らない。
ただひたすらにうっとおしく思えた。
◇ ◇ ◇
「……だったら何よ、仮谷君」
「驚かないんだな」
「正直どうでもいい。アンタが誰かなんて」
「そうか。なら一つ聞こう。お前は俺の敵か」
「……。わかんない」
「わかんない、わかんない!」
「別に私は戦いたくない!」
「巻き込まれただけで!」
「それでも、今なにかしないとつぶれちゃいそうで!」
息が苦しい。
心音も変だ。
血がかけめぐっている。
相変わらず感情はグチャグチャで、相変わらず何言ってるかわかんない。
どうしなきゃいけないんだろう。
どうしたいんだろう。
空は……こんなときどうするんだろう。
怒るんだろうな、冷静に。
普段あんなんなのに、こういう時は落ち着いてるんだもん。
おかしいよ。
で、刀ふりまわして、イノさんとか呼び出して、どうにかしちゃうんだ。
きっと。
「ごめんね、空。少し力借りるね」
思ったより、重いや。
◇ ◇ ◇
少女は倒れた青年の刀を手にして立ち上がった。
ポケットの札を少し、握り締めて。
「敵とみなすが、いいんだな月夜」
「いいよ、仮谷くん。私はもう覚悟できてる」
その視線、態度、感情その全てに、少年は憎しみを感じなかった。
それゆえにか、あるいは知り合いゆえにか。
あるいは先の戦いの疲労か。
その銀白の刃が身に迫るまでに少年は動けなかった。
かろうじて腕でうける。
傷はつかなかった。
当然だ。
刃を全力で殴って傷がつかないのだ。
たかだか少女がその刃をふりまわしたところで、血はおろかわずかな痛みさえも産まない。
それでも少女はふるい続ける。
右がダメなら左。
左がダメなら上。
上がダメならまた右。
延々と。
少年はただひたすらに受け続けた。
◇ ◇ ◇
倒そうと思えば。
排除しようと思えば一瞬で片はつくだろう。
それでも、何故か受け続けた。
術式による意識の強制か。
「いや、そうじゃないな」
自分がこの少女を殺したくないだけだ。
大した感情があるわけではない。
が、この世界とは何も関係ないあの日常にいた一人を自らの手で消すのは抵抗がある。
ならせめて。
「……ッ!!」
彼女の腕があがらなくなるまで受け続けよう。
すでに何度、その刃がふるわれたか。
すでに何度、その刃を受けたか。
刀を弾く音が、静寂に消えていく。
少女が膝をつく。
「なんで……」
「……」
「なんで倒れないの!なんで傷つかないの!なんで……」
「……」
「なんで……空は……」
その目には涙がうかんでいる。
相変わらず憎しみはない。
「お前は優しすぎる」
せめて、痛みなきよう一撃で。
◇ ◇ ◇
死ぬんだろうな。
仮谷君が構えをとっている。
空を貫いたであろう構え。
お父さん、お母さん、ごめんなさい。
長生きできそうにないや。
神社のおじいさん、おばあさん、来年は行けそうにないかな。
空……いいか。
もうすぐ会うだろうし。
はーあ。
不思議だな。
こないだまで、死はめちゃくちゃ怖かったのに。
今は全然怖くない。
ただ少し寂しい。
「バイバイ世界」
刃が迫る。
聞こえたのは音と声。
金属と金属がぶつかる甲高い音と。




