5話
確かにそうだよな。礼儀正しい自分で居たいとは言っても、俺の目の前で敬語以外の言葉で話しているところを見られることには何も思わないんだ?
「いいですか、勘ちゃん。私は年上と勘ちゃん以外には敬語を使いたくないんです。勘ちゃんにはよく見られたいですが、他の人にまでよく見られようと今まで思ったこともありません。年上に敬語を使うのは一般常識だからです。それ以外に理由はありません。私が敬い、大切にしたいのはあなただけです」
今日だけで二回も告白を受けてしまった。しかも、自分が好きな人から。嬉しくないわけではない、むしろかなり嬉しい。天にも舞い上がる気持ちだ。今なら何でも出来てしまいそうだ。
「それって両親とか先生にもすか?」
「ああ、そうだ。両親は基本放任主義で仕事人間だから、家にあまり居ないし、会話は必要最低限くらいしかしていない。だから、よく見られるかどうか以前の問題だ。教師には一応私は優等生で通っているから、元々よくは見られているな」
へー。先輩のご両親は構ってこようとしてこないんだ。俺なんか家に帰った瞬間、母さんからの熱い抱擁が待っている。さらに、父さんは帰ってきたら毎回母さんの頬にキスしてる。昔は俺にもしていたけどさすがに嫌になって拒否していたらキスされることはなくなったけど、頬ずりをされるようになった。
なんだかんだ先輩や圭介と色々話していたけど、考えたら此処教室だった。
つまりは、会話は全部クラスメイトに筒抜けだった。会話は教室全体に聞こえるほどの大きな声だったかもしれない。先輩と話せることが嬉しくてつい声が大きくなっていた。今思うとかなり恥ずかしい。でも、大人数の前で俺に告白した先輩の方が恥ずかしいんだろうな。
休み時間が終わりそうになると、名残惜しそうに先輩は自分の教室へと帰って行った。そして俺が先輩に告白されたことでクラスメイトから何も聞かれることも恨み言をうけることもなく普通に授業が行われた。まるで俺が先輩に告白されたことが夢だったと錯覚するくらいにいつもと変わらなかった。