4話
先輩が心配で顔を覗き込もうとするが、圭介に止められた。その上何故か、顔がかなりにやけていた。
「お前は先輩が心配じゃないのかあ?行き成り俯いて肩を震わせ出すなんて」
俺がそう言っても尚にやけたままだ。何がそんなに面白いんだ。
ふ
「まあまあ、落ち着けよ。先輩のことは心配しないでも大丈夫だぜ。悶えてるだけだから」
「もだっ…! なおさら何が大丈夫なんだ!」
「あれ? 思った通りに通じなかったな」
圭介は困ったという風に頭をかき、ため息を付いてから先輩に近づいた。
何をするつもりだ?
「先輩ー? 愛しの勘太郎君があなたのそれを心配してますよー」
「それは悪いな。 勘太郎君、私は大丈夫ですよ。ちょっと思い出し笑いをしていただけで」
本当にそうなのか? 先輩は過呼吸になっていたんじゃないのか。苦しそうな息づかいが聞こえてきたし。
「そんなに不安そうな顔をしないでください。私は笑いすぎると過呼吸みたいになってしまうんです。それで苦しそうに見えただけです」
それって、大変なことなんじゃ?
「一つ相談なのですが…」
ん、なんだろう? 先輩が改まって言うほど何か重要なことが有るのか
「私も…勘ちゃんって呼んでもいいですか?」
……。
正直両親と親戚以外にこのあだ名で呼ばれるなんて、考えただけでぶっ飛ばしたくなるが何故だろうか。先輩なら嫌じゃない。でも、かなり恥ずかしいが呼んでもらえるなら是非呼んでもらいたい!
「いいですよ。是非そう呼んでください」
「へえ、じゃあ俺もそう呼んでいい?」
「お前はダメ。先輩だけが特別なの」
勢い余っていらないことまで言ってしまった。でも、本心だからなぁ。
「まだつき合ってないのにお熱いね。もうつき合っちゃえばいいのに」
「それはダメ。それだけはダメなんだ」
圭介が言うと間髪入れずに先輩は苦しそうな顔をしながら言った。
何がダメなんだ? 俺とつき合うことか?
「勘ちゃんの所為じゃないです。私の問題です。私が悪いんです」
目は虚ろで何処か遠くを見つめている。意識も此処にはなく、昔のことに思いを馳せているように見えた。
先輩が何処かに行って、今にも消えてしまいそうに感じてつい手を握ってしまった。
ついとはいっても、何してんの俺?!
先輩が俺の手が届かないところに行ってしまうと思ってつい行動してしまった。先輩はさっき俺に告白してきたけど、本当に俺のことが好きとは限らないし。友人間での罰ゲームかもしれないし。…でも、それだったらあんなに顔を赤くして俺を見ないだろうし。
「またこいつダークサイドに入っちゃってるよ。入野先輩気にしないでくださいね。考え込んでよく固まるんで」
「ああ、固まることは知っていたから。大丈夫だ。しかしそれよりも手を握られたことに驚いた」
「こいつ突拍子もないことよくするんで覚悟しといた方がいいですよ」
「具体的にはどんなことをしたんだ?」
「あっ、やっぱり聞いちゃいます? 気になりますよね?
そうですね。あれは小学6年生の時、さん
「何言おうとしてんだ!」
気がついたら、怪しい方向に話が進んでいってる。まったく油断も隙もない。気を抜いてたら俺の恥ずかしいエピソードが全て話されていた、なんてことに成りかねない。
「気になることがあるんですが、聞いてもいいですか?」
「構いませんよ」
知華先輩と話してて気になることが一つだけ有った。
「知華先輩は圭介と話しているときは敬語ではないのに、何故俺と話すときは敬語なんですか?」
「ああ、それですか。あなたに対しては礼儀正しい私で居たいんです」
どういうことだ。俺の前では礼儀正しく居たい?
「勘太郎、お前意味わからんって顔してるけど簡単に言ったら、好きな人の前では格好付けたいって感じだろうな」
…好きな人。
先輩は本当に俺のことが好き?
「でもまあ、俺と話すときは普通に砕けた話し方だな。例えお前がいてもな。そこら辺は俺には理解できない。俺は好きなこがいたらお前に話しかけるときとも『勘太郎くんどうしたんだい?何か悩みごとかな?』って口調になっちまうよ」