1話
人気者かどうかは置いといて学校の生徒全員が知っている人って学校によって偶にいるよね。
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俺は明理勘太郎 (あかりかんたろう)、大抵名前を聞いた人は基本笑いを堪えるような表情をする。それは、俺が名前に似合わず男にしては低めの165cmで愛らしい容姿をしているからだ。
この名前は両親が、勇ましく男らしく成長してほしいという願いを込めて付けたそうだ。母や父の親戚あたりは皆、高身長で美人な人しかいない(何故かその遺伝子は俺に受け継がれなかった)。しかも、『天は二物を与えず』という言葉が通用しないような人たちだった。ある人は何処かの国で石油王になり、またある人は有名会社の社長、一流デザイナー、ベストセラー作家、トップモデル、中にはノーベル賞を受賞した人だっている。輝かしい功績を残す人が多々いる家系である。しかしその分、アクが強かった。俺の父親は38歳で会社の代表取締役だ。母親は35歳の専業主婦だ。このどちらが驚異的な遺伝子を継いでいるかは職業ですぐわかるだろう。
母は普通にのほほんとした人だ。父の方は仕事モードになると恐ろしいくらいに合理的になるらしい。日常的には母とラブラブで子供の俺が恥ずかしくなるほどに仲がよく、溺愛している。そして、親バカだ。高校生にもなって、夕方の5時までに家に帰らないといけないという約束事をさせられると思わなかった。
中学生の時にあった門限が高校生になったら無くなって、夜遅くまで遊びまくれると思っていた。そんな入学式の1週間前の春休みのある日、父から話があるとリビングに呼び出された。椅子に座ってから何分か経った頃に父が
「外はお前が思っている以上に危ないんだ。何が起こるかわからないのがこの世の中だ。もしかしたら誘拐されて殺されてしまうかもしれない。特殊な性癖の者に辱めを受けるかもしれないんだ。そうならないようにきちんと門限を守ってくれ。これもお前を思ってのことだが、分かってほしいとは思っていない。ただこれを破らないでくれたらそれでいい」と言っていた。後は父はうんともすんとも言わなかったからここで話が終わったと思った俺は立ち上がり、自分の部屋に戻ろうとした。そこで父が俺を呼び止めて
「き、嫌わないでくれよな!!息子に嫌われたらショックで死んでしまう!!」と父にしては珍しく、酷く焦った様子であった。
俺の叔母(父の姉に当たる)が家に一回遊びに来たことがあった。叔母は有名なある女優の専属コーディネーターをしているそうだ。この人が当り障りのない性格をしていればよかったが、残念ながら違った。
叔母は久しぶりに知り合いに会ったら、ついその人に、自分が選んだ服を着せたくなってしまうという病気みたいなものがあるそうだ。母は以前これをされて嫌気がさしたのだろうか、俺を生贄にして自分が助かっていた。まだ小さい俺はそんなことなんてつゆ知らず呑気にめったに会えない叔母と出かけられることに舞い上がっていた。だから、母がいい笑顔で俺を見送った理由を知る由もなかったのだ。
店で叔母は店員とこちらを時たま見やりながら何か熱心に話していた。それから10分話し続けていた。話を終えて、店員が服を持ってきた。俺も小さいながら叔母が服に関する仕事をしていると知っていたから、どんなかっこいい服を着せてくれるのかワクワクしていた。そこで俺が見たのは女物の服だった。叔母が「かんチャンは女の子みたいに可愛いからねぇ。この服着てみてない?」とフリフリしたピンク色の服を持ちながら言った。ここはきっぱり断らないと大変なことになると悟った俺は断ったがそれで叔母は諦めなかった。無理やり俺を試着室に引きずって行った。もちろん力の限り抵抗したが意味を成していなかった。叔母は俺が頑なに着たくないと言い続けるといきなり俺の服をつかみ、脱がせにかかった。そんなことをされて怖くなり、泣きながら抵抗したが敵わず服を脱がされ、フリフリの服を着せられてしまった。もうこれ以上ないというほどに泣いた記憶がある。それでも叔母はぶれなかった。かわいいよぉ、似合ってるねぇ、女の子より可愛いかもねぇ……などと言いながらどこから出したのか写真を撮りまくっていた。何故かこの後の記憶はない。思わず気を失うくらいに嫌だったのかと俺は考えている。そんなことがあった時から、俺は叔母を見ると体が震えるようになった。
他には、俺には海外で仕事していた親戚の兄ちゃんが居たけど、この人は俺が今までに出会ってきた親戚の中で一番普通だった。何か変なことがあるというわけでも無かったとは言いにくいが俺が被害を受けなかっただけ平和だった。この人は彼女がいるらしいけど、小さい頃からの幼馴染で中々その枠から抜けれなかったと目は笑っていない爽やかな笑みで語っていた。俺と話している時にちらちら携帯を見ていたから、何を見ているのか聞いてみたら、「彼女が今何してるか見てるんだ。いつも彼女の周りに群がる虫どもをいつも私が追い払ってるけど、今日は一緒にいないからね。大丈夫かどうしても確認したくなるんだ」……どうしてその彼女さんが何してるのか見れるのかすごく気になるけど聞いたらダメなものだと思い、その話は軽く流した。
彼女さんは大変かもしれないけど、誰彼かまわず被害が来ない分まともだった。
じゃあ、他の人でそんな人が居るのか?と聞かれてしまうと話が長くなるから、省かせてもらおう
俺が長々と親戚のことを話したのかというと、気持ちを落ち着かせるためだ。これまで誘拐やテロ、殺人事件などに巻き込まれてきてもほぼ動じなかったのに、なぜか今は胸がドキドキして苦しかった。病気かと思い、友達の提圭介 (つつみけいすけ)に話してみると「それ、恋じゃないのか?」と言われてしまった。確かにその時ある女の人が本を読んでいる姿を見て胸がドキドキしたが……。初恋を体験していないから恋がどういうものかわからない上に、それが恋だったら、一目惚れじゃないか……!そう思うとすごく恥ずかしくなってきた。
「もし恋だとしても、相手がだれかわからないんだけど……」
その人のことで分かっていることと言えば、黒髪で整った顔立ちをしていたということと、この学校の生徒だということだけか?
「ああ、それ入野先輩」
え、誰だよその人。何でお前があの人のこと知ってるんだよ
「何で知ってるのか疑問に思ってるな?お前が他人に興味がないと前から分かっていたけどこれほどまでに興味なかったのか」
「…もしかして有名人だったりする?」
「ある意味そんなもんかな。………基本この学校に通ってる人だったら知ってるぜ?」
そんなに有名な人だったのか。全然知らなかった。
「もしお前が本当に恋をしてる人が入野先輩だったら、望みないだろうな」
「恋じゃないと思うけどな!!………で、なんで望みがないって言えるんだよ」
「恋心は否定するけど、そこはちゃっかり聞くのか。まあそこは置いといてやるよ。……それで入野先輩は、見た目が良いだろ?『黒曜石のような髪と瞳、出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでるモデル体型』そう言われてるぜ。で、惚れた奴があの人に告白した時に、取り付く島が無いほどこっ酷くフラれたそうだ。きつい性格の美人ってだけで普通だろ?これで終わったらあの人はこの学校のほぼ大体が知っている有名人になってなかっただろうな。……何があったかというと、リベンジをした奴がいたんだ」
「リベンジ?それって入野先輩にフラれてもまた告白した人が居たってこと?」
「おっ、よくわかったな!お前にしては上出来だな」
今何気に馬鹿にされたような気がする
「話を戻すぞ。それでそいつはもう一回告白したんだ」
なんかこの先が想像できるな
「告白して、またひどくフラれて、逆上したらしい。それで入野先輩に掴みかかったんだけど、その後見事に撃退されたらしい」
「誰に?」
圭介は勿体ぶるようにこちらを見やって、意味ありげに笑った
「誰にって、もちろん入野先輩に決まってるだろ?」
………は?
最後まで読んでいただき有難うございました
キーワードで書かれているものたちは後々出していきます