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大学1年生の夏、9月に行った合宿という名を冠した旅行は飲み会とテニスとBBQに川遊びといったお遊びを一応「真剣」に行うといった内容のものだった。すでに私と茉莉、望の関係は出来上がりつつあったのだが、一点、問題が生じていた。
「梨花、あのね。」
深夜まで続いた飲み会の翌朝、朝露の乾かぬ時間に私は茉莉と朝の散歩をしていた。サークルの他の人は誰も起きだしていない時間。空気は音を飲みこんでいて、ひやりと私達の肌を舐めるように撫でる。
シャーベットカラーで淡い水色のTシャツにロールアップしたボーイフレンドデニム、ぺたんこでも大きなリボンのついた白いサンダルを履いて、白のカーディガンを羽織った茉莉と胸元にリボンのついた白と水色のギンガムチェックのマキシ丈のワンピースにグレーのパーカを羽織り、しゃらしゃらと鳴る程のビーズをつけたサンダルを履いた私は2人でぷらぷらと散歩コースを歩いていく。
「なーに茉莉。」
「うん、望のことなんだけど。」
「ん?」
さやさやと蒼い葉がこすれあって音をたてた。立ち止まって茉莉は私を見つめていた。私はその真剣な瞳に捉えられている。
「私ね、・・・・・・・好きなの。」
瞬時に雷が閃くような速度で茉莉が言おうとしていることが私にはわかった。
「望が・・・?」
「梨花は、どう思ってるの?」
風が吹いた。私のまっすぐな黒髪が、茉莉のふわふわの茶髪が揺れる。左手で顔にかかる髪を押さえて、私はにこりと笑った。
「ただの、友達・・・。」
茉莉はまっすぐ私のことを見つめている。こげ茶色の瞳にまあるく私の姿が映り込んでいる。押さえていた髪を耳にかけ、ふっと息を吐き出した。
「私、茉莉のこと応援するわ!」
この時の茉莉の笑顔は忘れられない、柔らかく美しく心からの安堵と望への愛に包まれた表情。桜のつぼみがほころぶ喜びとぼたんの花が花びらを開いていく大胆な愛らしさをかけあわせたような艶やかさ。同性の私がどきっとするくらいに茉莉は美しかった。
「梨花!!」
「わっ。」
急に抱きつかれてバランスを崩しながら私は思った。この可愛い妹のような友達ともう1人の仲の良い友達である望が幸せになってくれたらどれだけ幸せだろうかと。
私達はこの時はまだ知らなかったのだ。期待がいきなり崩れ去るということを。




