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いつも行くカフェ(夜はお酒、特にカクテルをたくさん出してくれる)に7時ちょうどを目標に2分ほどおくれて着くとすでに望はワインをボトル半分ほど飲みきっていた。
「おまたせ。」
「梨花ちゃん。」
私は望の隣りにするっと座り、カウンターの店員に最初の一杯としてモスコミュールを注文した。
「それで、一昨日の茉莉はどうだった?」
乾杯もなく飲み始めた私は横目で望を見ながら質問する。
「うん・・・まいってた、茉莉。」
赤ワインを一口、それから望は溜め息をついた。
「ふうん、変化なしか。」
私はグラスの氷をからころと転がす。オレンジ色の照明の店内にはしっとりとした音楽がかかっている。レコードが回っていても綺麗かもしれない。
「それで梨花ちゃん、今回は?」
「ん?今回は同じ研修に出てた人だって。」
「あ・・・会社のちょっと上の他部署の人??」
「それは知らないけど。」
「そか・・・。」
「で、いつものパターンよ。」
望は複雑な顔をしている。
茉莉のいつものパターンは実に単純なのだ。好きな人が出来る、じっと声をかけたりせずに見つめる、相手の彼女またはいい感じになっている女性を見つける、そのままブロークンハート・・・。たまにデートに誘われてもかちんこちんで2回程でアプローチが無駄ととられて退かれてしまい、自分からは動けずに結局そのまま会えなくなり、失恋に至る。
「また言ってくれなかった。」
そんなの言えるわけがない、と私は思うのだが、望は事情を知らないのだから仕方がない。今となっては、過去は過去と思ってはいても彼女の胸中もまた複雑だろう。どんなにあっけらかんと笑っているにしても。
はーーーっと大きく息を吐き、カウンターにこてんと額をつけてうなだれる望が情けなくて、可愛い。柔らかくて優しい橙の光がグラスの氷を通り抜けてカウンターに薄い影を作る。




