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「それでどこに行ってきたの。」

私達は和食系のファミリーレストランで食事を摂っている。機内食も食べているし、現地時間との兼ね合いで一体これが何ごはんにあたるのかはよくわからない。が、日本時間としては夕食時なので夜ごはんであろう。お腹の加減としては微妙な気分ではある。

「え?・・・フランス。」

「いやいやいや、なんかあるじゃん。パリとか・・・パリとか。」

「もーぅ、パリしか出てこないの?望。あ、モンサンミッシェルは見た??」

そう聞いた茉莉がだしの香りがするお味噌汁を啜る。ふんわりおだしが香る。

「見たわ。それに登ったわよ。」

私はまぐろのお刺身を食べようとして醤油を探す。望が醤油さしを差し出しながら聞く。

「え、登んの??なんで?城でしょアレ。」

「ううん、修道院なんだけど、山のてっぺんに建てられていて監獄だった時期もあるって言っていたし、それにものすごく要塞って感じだったわ。」

「ほほー。」

親子丼をかきこみながら望が相槌を打つ。

「要塞・・・ってことは大砲とか、えっと鉄砲撃つ穴みたいのあるの?」火縄銃を構えるようなポーズをとって茉莉が聞いてくる。私は頷いた。

「あったわよ。日本人の男の子たちが大砲撃つまねしながら写真撮ってたもの。」

「なんか日本のお城と変わらないねぇ。」

「ちゃんと修道院らしく礼拝堂もたくさんあるのよ。」

「ふーん。面白いね、梨花ちゃん行ってきて正解じゃん。」

「そうね、良かったわ。」

「あとはどこ行ったの??」

大きな塩からあげを箸で持ち上げながら茉莉が聞く。唐揚げも美味しそうだ。頬張っていた五穀米を飲みこんでから質問に答える。

「ルーヴル美術館にも行ったの。ガイドさんいなかったら迷っちゃうところだったわ。」

「おおっ、有名どころ。梨花ちゃん意外にフツーだねぇ。」

「定番が鉄板で面白いんだからいいの!それで、どの絵が良かった??」

「茉莉、聞いてもわかんないっしょ。」

「望。」

「あんま怖い顔すんなって。俺が悪うございました。」

「ええ・・っと、私も絵は詳しくないからよくわからないけれど、この絵、好きだなって。」

私は撮ってきた写真を二人に見せながら言った。その絵は深い森の奥にあるような湖の湖面に浮かぶような、沈んでいきそうな・・・美しいというより神々しさすら感じさせる少女の絵だ。作者のこともよくわからないし、一瞬通り過ぎただけの絵なのに惹きつけられた。実は館内は旅行社のガイドさんが有名な作品を簡単な解説をいれながらさらっと歩いて連れて行ってくれただけなのでじっくりと見ることが出来なかったのだ。一人になって無事に回れるほどやわな美術館ではないようだし。そんな一瞬で見た絵、それでも有名な大きな絵より心惹かれた。

 有名な絵はたくさんあった。ナポレオンの戴冠式とか、モナリザとかダヴィンチを題材にした映画に登場したものもあったし、サモトラケのニケ、ミロのヴィーナスなど彫刻もたくさんあった。当たり前のように写真は撮れるし、なんだかテーマパークのようだったといっても過言ではない。絵の前でスケッチをする人、解説を聞いている団体、絵画の場面をまねて記念撮影をする日本人観光客・・・。そんな異色の美術館で通りすがった一枚の絵、いうなれば駅ですれ違いざまにぶつかっただけの誰か、のようなものだ。

 湖面に浮かんでいるというよりは、静かに、静かに沈んでいく。それは安らぎというにふさわしい光景だった。絵画を通して私は天使を見たのだ。しかし、天使は天に召されず、昇れず、ただゆっくりとじんわりと水底に沈む。



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