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「梨花。」
「んっ・・・んー・・・・・・。」
閉じていた瞼を開くとそこは茉莉の部屋だった。もうすっかり綺麗に片付いたこたつの上と先ほどとは違う日の入り方にあれからすっかり寝入ってしまった事実を感じ取る。
「おはよ。」
「おはよ・・・ごめん、寝入っちゃったみたい私。」
「ううん。さっきまで望もいたんだけど、実家でおせち食べてくるって帰っちゃった。」
「ふふ、望らしいわ。」
「ねー。あ、はいお茶。」
「ありがと。」
茉莉がこぽこぽと入れてくれた熱いお茶をふーふー息を吹きかけて冷ましてから一口飲んだ。茉莉は小ぶりみかんをむきながらお正月の特番を眺めている。
「あのね、梨花。」
真面目な横顔は凛としていて、朝の空気のように静かだった。
「うん?どうしたの。」
「望に怒られちゃった。もう少しまともな男好きになれって。」
「そう・・・。」
「望にそんなこと言われたくないなー、って思っちゃった。」
「・・・そう。」
「うん。」
自分に言い聞かせるようにもう一度茉莉は「うん。」と言い、深く頷いた。みかんのオレンジが艶々と光る。その香りに彼の顔を一瞬、思い出す。
「ねー梨花。」
少し甘えの含まれた声音で茉莉は私に尋ねる。
「どうしたら好きな人に私のこと見てもらえるのかなぁ。」
私は返答に詰まる。
「・・・・・。」
「梨花???」
「あー・・・ううん。特に意識したことないから適切なアドバイスが見つからなくて。」
私は苦笑いを浮かべる。茉莉は笑って私のことを小突く。
「さーすが!梨花モテるもんねぇ!このこの!!」
「いやぁーやめてー。」
茉莉がふざけてそのままくすぐってくるので私は身をよじって茉莉の魔の手から逃れようとする。茉莉はくすぐり続ける。私は逃げ、その後は逆転し、私がくすぐり茉莉が逃げた。そんな風にきゃあきゃあひとしきり私達はくすぐりあって戯れた。
私はオレンジの香りと共に思い出した名前も知らない彼のことを思った。そして私は何度もあの場所でチョコレートドリンクを飲んだ。たった一人で。




