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茉莉の部屋に着くと即座に暖房とこたつの電源を入れた。寒い寒いと騒ぎながらもコートを脱ぎ、お酒とおつまみとお菓子をこたつの上に広げる。茉莉は猫の絵がプリントされたガラス製のコップを3人分用意して置いた。
「それではー今年もよろしく!乾杯!!」
「「乾杯~」」
かつんとコップを合わせ私達は今年最初の乾杯をした。スパークリングワイン(茉莉だけはジンジャエール)を一口、口の中でしゅわしゅわと弾け飛ぶ。午前2時。
スパークリングワインから始まり、カクテル、チューハイ、間にオレンジジュースを挟んでまたワインと少しずつではあるが何杯もお酒を飲む。茉莉用のソフトドリンクも数種類はあるのでこたつの上はぐっちゃぐちゃである。更にチョコレートとあたりめ、ポテトチップスまで広げられている。あたりめのチョココーティングやら、アイスクリームにポテトチップス、カルーアのリキュールをかけたものを食べてみたり、神社で引いてきたおみくじを読みあげてみたりした。ちなみに明治神宮のおみくじでは大吉等は定められていないため、それへの不満も話しの種になった。勝手に茉莉は吉で、梨花は中吉、望は末吉ということに3人で勝手に決めてみたりも。
「ありのーままのー。」
酔った勢いで昨年のヒットソングを歌いだし、声真似にもチャレンジする。曲中のチョコレートを頬張って歌っている部分の雰囲気を出すためにチョコレートを食べながら歌ってみたり、誤ってリキュールをそのまま飲みそうになったりしていた。学生の頃、大学のサークルでしていたような無茶で無鉄砲な飲み会を再現したような様子だった。
大家さんに怒られない範囲で歌い騒ぐ酒宴は午前4時を過ぎた頃にしんみりとした空気が流れ始めた。
「今年はどうなってくのかな。」
テーブルに顎を乗せたまま茉莉が呟く。
「佳い年になるよ。」
ぽすっと望が茉莉の頭に手を乗せる。愛おしいものへの慈しみに溢れる大きな手だった。優しい顔だった。抱きとめて欲しい腕だった。
「うん。」
私は静かに頷きながらカルーアミルクを飲みほした。苦い色をした凶暴な甘さで包み込むアルコールに私は飲まれ、記憶が飛んで行った。
暗闇に光が差す。
ほんのり冷えた空気と足元に残るこたつの温み。遮光カーテンの隙間から日が入って茉莉の部屋をうっすら照らしている。時刻はもう10時近くになっていて、私達はどうやら元旦を逃したらしい。
「んんー・・・。」
横たえていた身体を起こすと少しけだるいが二日酔いなどは幸いなさそうだ。腕をぐーっと伸ばして伸びをする。昨日もとい今日飲んでいたコップに手近にあったオレンジジュースを注いで飲んだ。生ぬるいそれは私のからからに乾いた身体に沁みわたった。傍には茉莉と望が寄り添うような姿勢で転がり、寝息を立てている。私が寝落ちしてしまった後、2人は何を話しただろう。この様子ではいつもと同じ仲の良さなのか、恋の発展が見込まれるのか分からない。それでも幸せそうに眠る姿を愛おしく思う。茉莉の頬を突っつく。
「ううーん。」
茉莉は目を覚まさない。それどころかきゅっと服の裾を掴まれてしまった。そのまま私の服の裾を掴んで離さない茉莉を起こさないように私も横になって瞼を閉じた。
視界がぐるぐる回るようだ。宇宙の中に漂っているような不思議な感覚。きらきらとスパークする星、ほし、☆。
私は両目を閉じたまま、どこかをたゆたうようなふわふわとした感覚のまま先日の不思議な出会いを思い出していた。




