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   5 大召喚機と、アルドワヒシュト


「チート転生者は、常人では手の届かない超常の力の持ち主です。彼らはその力や知識で時に人を助け導きましたが――どんな国であれ世界であれ、本当に真摯に生きる善人は、少ないものですぅ……」

「つまり……人に害を与えた転生者もいた、と?」

「はいぃ。それも、『そういう転生者もいた』で済むようなものではありませんでした」


 マリーチャは声の色をやや暗くして、転生者の歴史について語り始めた。

 超常の異能をもった人々。生まれつき多くの知識を持った人々。前世の記憶を赤子の頃から活かせる人々。

 最初から、圧倒的な有利さを手にした人々――チート転生者。

 生まれもったアドバンテージは、膨大な力は、彼らから内省や反省の機会を度々奪った

。他者を、社会を思い通りに変え、操り、自身への干渉を撥ね退けて好き勝手に生きていく……普通の人間であれば不可能でしかないそれも、チート転生者にとっては充分に可能となる。

 短絡的な快楽に溺れ、独善的な行為に走り、わがままを突き通す。本来ならばそれは他者によって阻まれ、それが反省と改心と自己修練へと繋がる。

 が、チート転生者は時に一国を相手にしても退くことなく戦い、気に入った人間を力で従属させ、あるいはチート能力で洗脳し、味方につける。文化を破壊し、歴史を書き換え、自身を英雄として称えさせる。

 増長は止まらず、泣き叫ぶ民衆を焼き殺しながら彼らは自身を神や王になぞらえ、暴虐の限りを尽くす。

 一人の転生者の好き勝手な振る舞いは、更に別の転生者をも同じ道に駆り立てる。たちまち世界は混乱と恐怖に踏みつけられ、人々はごく少数のチート転生者の元に傅き、恥辱を舐めることとなった――。


「それが、三百年ほど前ですぅ。そんな時代に、一輝さんも見た、あの大きな塔――『大召喚機』は造られた、とされています」

「造られた、というと」

「チート転生者によって、と言われています。やりたい放題世界を荒らすチート転生者に悪感情を持っていた一部の転生者が、その力の限りを尽くして建造したと」

「一体どうして?」

「彼らは、幼稚で非道なチート転生者に対抗するための力と人員を求めたんです。チートの力を持つものに対抗できる人々を」


 そこでマリーチャは、自身の胸に手を当て、それから一輝の瞳を見つめた。


「大召喚機を創造した人々は、考えましたぁ。チート転生者は、別の世界から転生してくる――それが本当ならば、世界は数多く存在し、転生者もまた様々な世界に存在するはずだと。そうであれば、転生者によって荒らされてしまった世界も、また無数に存在するのではないか、と」


 物理法則を無視し、存在しないはずの知識を操る者たちによって乱された世界。それがあるのなら――もし、そうし人々によって、ほとんど滅んでしまった、荒廃した世界があるのなら。


「チート転生者に対して敵対し、彼らを憎み、または戦おうと願う、異世界の人々も存在することになります。召喚機は、そこに目をつけて作成されました。異世界の住人から、チート転生に反感を持ち、彼らと戦う意志を持った人間を探し出し、呼び出す――『召喚』する装置、それが大召喚機ですぅ」


 大召喚機は、他世界を垣間見る。世に現われたチート転生者の誰もが、超常の力を持つにもかかわらず、「世界間移動」だけは為しえていなかった。それを、召喚機は半端にではあるが、可能とした。

 召喚機は他世界への門を開き、チート転生を否定し彼らに対抗する意志のある「被害者」を探し出し、呼ぶ。


「呼ばれた者は、召喚機によって片道通行の世界間移動を行い、ラストリエールへと召喚される……そしてその途上で、出会うんですぅ」

「出会うって、何に」

「だから、『神々』ですよぅ。世界間移動の際、誰もが『神々』の存在する場所を通過するとされています。だからこそ、チート転生者は、そこで神々に声をかけられ、願いを叶えられてチートを得ることが出来る、とぉ」

「……観測されてしまっている、っていうのは、召喚機とやらによってその神々が既に確認されているってことですか……?」

「はいー。召喚機を作り、稼動させていた最初期の人々にとってはまだ仮定の存在でしかなかったらしいんですがぁ、実際に召喚の儀を行って別世界への門を造ると、他世界との間にそうした存在が観測されたらしいですぅ」

「なるほど。それで、その神々に出会った、他世界からの……ええと」

「転移者ですか?」

「そうそれです。その、チート転生者に対抗したがっているっていう転移者たちは、神々に邂逅して、どうなるんですか?」

「チートを、得るんです」

「超常の、力ってやつを、ですか?」


 マリーチャは迷うことなく、頷いて見せた。


「そうですぅ。召喚機は転移者を召喚すると共に、神々から、チートの力を掠め取り、転移者に紐付けするんですよぉ。それによって――」

「ああ、そうか……この世界は、チート転生者への対抗力を得る、と?」

「その通りですぅ! 理解が早くって助かっちゃいます、一輝さん、にじゅう丸ですよぅ」


 にっこり満面の笑みを見せるマリーチャ(笑うと幼さが増すようだ)に、一輝は何ともいえない心地で嘆息した。

 チート転生者。神々。異世界。信じ難いことばかりわざと並べたような気さえしてくる。


(だけど、あの召喚機でみた、奇妙な雷のようなもの、あれは、一応チート能力だって考えれば、説明がつく、かもしれない)


 考える。指先から電気だか何だかを放射する力。いかにもそれらしい。


「……それで、時は流れ、『転移者』の数は増え――現在に至ります。数の増えたチート転移者を管理し、教育し、組織的にチート転生者と戦う組織が、そうした歴史の中で作られました。それが、『ミトラ』です」

「ミトラって……スピカたちが言ってた」

「ええ、そうですそうです。チート転移者は、『アルドワヒシュト』、通称『アルド』という名前で今は呼ばれていますぅ。私も、スピカさんも、アルドなんですよぅ?」

「え、じゃあ」


 チート転移者。アルドワヒシュト。チート転生者に対抗する者たち。と、いうことは。


「そうなんですぅ。私もスピカさんも、フェーリスさんも――それだけでなく、ミトラに属する数百名のアルドはみぃんな、異世界人なのです!」


 ばばーん、と自前で効果音まで口にして、マリーチャが宣言するようにそう明かした。


「……なんか、頭痛くなってくるなあ……」


 途方にくれて呟く。が、マリーチャはそれを気にした様子もなく、悪戯っぽく笑いながら身を乗り出した。一輝の顔に自分の顔を寄せて、甘く囁く。


「どうですかぁ? ……一輝さんも、ミトラに、入りませんかぁ?」


 しばし間を置いて。


「……はぁ?」


 出てきたのはそんな、素っ頓狂な疑問の声だった。


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