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   3 もっとなんかあんだろ

二人の少女に連れて行かれたのは、奇妙な塔からさほど離れてもいない建物の一つだった。塔の周囲、高台の上には多く建物があったが、離れた位置に見える街の住宅などよりはスペースに余裕があるのか、密集しているというほどではなかった。ところどころには芝生の空き地も見られ、綺麗に整備されている。どこか牧歌的だといってもいい。

 ただ、建物自体はしっかりした造りのものが多く、四階建て以上のものも多い。中には明らかに強度やその他諸々を普通の住宅とは比較にならないほどに意識した頑丈そうなものもあった。

 そんな、頑丈そうな建物の一つ、どこか欧州の町にありそうな、役所のような建物に一輝は連れて行かれた。

 小さな部屋の一つに一輝を案内すると、すぐにスピカとフェーリスはその場を去った。


「それじゃあ、ここでちょっと待っててください。すぐ先生が来ますから」


 とスピカは言って、それから何かに気づき、一輝に向き直ってから改まった口調で言った。


「そういえば、まだ私のほうだけちゃんと名乗ってなかったですね。ごめんなさい、ばたばたして忘れてました」


 はにかむように笑って、彼女はその場でちょこんとお辞儀してから名乗った。


「マリーチャ・クラスの、スピカ・パールヴァティです」

「あ、私も私も。フェーリス・ラランド。スピカと同じクラスだから。よろしくねー」


 とこちらはしなやかに腰を曲げ身体を乗り出し一輝の顔を覗きこみながら、フェーリス。

 なにがどうよろしくなのかはよく分からないままに一輝が「あー、うん、よろしく」と返すと、二人は程なく部屋を出て行った。

 残されて、一つ息をついてから一輝は部屋を見回した。どうと言うことのない、小さな会議室のような場所ではある。木造りの無骨なテーブルと、同じくシンプルな椅子が二脚あるだけだ。

 壁は壁紙のせいで材質が分からないが、軽く触れてみれば硬く冷たい感触が返ってくる。石か、あるいはもっと表面の整った、コンクリートのようなものか。


(町並みも建物の外見もそうだけど、そんなに無茶苦茶文明程度が低いってわけでもないのか?)


 考える。むしろ室内の様子は、近代的といってもいいものだった。ゴミも見当たらず、衛生的にも悪くはなさそうだった。知らなければここが異世界だとは思わないだろうと感じられる。

 しばらく椅子に座って待っていると、さほど時間をおかずに部屋の入り口の扉が開いた。一応、鍵はかかっていたらしい。解錠の音と共に、一人の女性が入室してくる。

 その女性を振り返り、瞬時に、一輝は硬直した。


「あなたがぁ、一輝さん、でぇすねー? 大丈夫ですよぉ、あなたが悪をなしてなければ私たちは不当な罰を与えたりしませんからぁ」


 ところどころ間延びしまくった口調で、微笑みながらそう声をかけ、一輝を回りこんでその女性は小さなテーブルを挟んだ一輝の向かい側へと移動した。


「……あの、マリーチャさん、ですか?」

「えぇはいぃ。そーですよう。あ、スピカたちに聞いたんですねー? マリーチャ・カーリー、二十二歳、趣味はあ、川遊びと握力測定です!」


 そう名乗る彼女を、一輝はただもう絶句して眺めるしかなかった。

 確かにスピカの言う通り、美人ではあった。というか、ではあった、どころではない。はっきりと美人だ。優しげに細められた瞳は、どこか霞がかっているような不思議な印象があるが、同時にとろりと濡れた奇妙な色香がある。顔の骨格は理想的に細く小さく、やや控えめな高さの鼻や小さな唇とよくマッチしている。

 髪はその肌と同じくまるきり日本人的な色合いだった。長く伸ばしており、前髪は揃えてカットしている部分があるため少しだけ幼くも見える。

 そして、どこか儚い雰囲気すらあるそうした頭部とは裏腹に、首から下は何とも分かりやすい「美人」だった。メリハリがつきまくった腰・下腹・胸のラインは非現実的といってもいい。冗談かと思うほどに均整の取れた四肢の美しさと合わさって、彼女の外見を隙なく美女としている。顔の儚さと、身体のストレートなメリハリは方向性が違うはずだが、何故か見事にバランスが取れていた。

 先に出会ったフェーリスも背が高く美人ではあったが、あちらが読者モデルか何かだとすればこちらはハリウッド女優である。

 ただ、そんな美しさに関しては、問題ではなかった。


「どうかしましたかぁ?」


 じっと椅子に座ったまま表現しがたい表情を浮かべて彼女を見つめる一輝に、マリーチャは首をかしげている。


「…………」


 ただただ黙して、一輝は相手の格好を目に映していた。

 まずもって、肌の大部分が露わになりすぎていた。黒く薄い皮のようなビニールのような、そんな素材の布地で申し訳程度に胸と腰が覆われているが、水着だとしても公共の場で目にはしたくないようなデザインだった。凶悪な大きさの胸だが、胸元は勿論大胆に開かれており、これ見よがしな谷間の上には首にかけたネックレス――小さな骸骨を数珠繋ぎにしたものだ――が乗っている。

 身体のあちこちには鋲打ちのベルトが巻きつけられているが、何の意味があるかは一つも理解できそうにない。

 手はこれまたボンテージファッションな黒く薄い手袋をしているが、手の甲の側には串刺しにされて網の上で焼かれる人間が描かれており、指の根元に当たる部分には鈍く光る金属塊が取り付けられて補強されている。あと、色とりどりの宝石が埋め込まれた指輪もあちこちの指にはまっている。

 ビキニというのも馬鹿馬鹿しい小さな布(?)地だけがある腰には、細いベルトが巻かれ、何かが下げられていた。よく見てみれば、先端に棘つき鉄球のついたメイスだった。


「なんか違うだろ……異世界だからってそういうんじゃないだろ……もっとなんかあんだろ……ローブとか魔法の鎧とかそういう……」


 自身の境遇だか運命だか、それを司る神がいるならそいつに対して、なんだかよく分からない文句をつけながら、一輝はとりあえず目の焦点を遠くに合わせることにした。


「どうかしましたかぁ?」


 不思議そうにもう一度繰り返される。


「なんて言うか……そういう服装って、ここでは普通なんですか」


 意志の力と勇気を総動員して尋ねると、マリーチャは「ああ」と納得したように声を上げてから、答えた。


「私のほかにはあんまり見ませんけどぉ、でも、素敵だと思いませんかぁ? あ、私が、じゃなくって、こういうのが、ですよー? 自信過剰とかじゃないですからねー?」

「いやそこはもうなんだってどうだっていいんですけどね」


 半眼で呟く一輝をまるきり無視して、マリーチャはぐっと拳をにぎって続きを語った。


「やっぱり重要なのは第一印象だと思うんですー。他者や社会に自身を示し伝えるべきを伝えるためには、それに相応しい格好をすべきだと思うんですよぅ」

「伝えるべきことって?」


 その言葉に、待ってましたとばかりに、彼女はびっと人差し指を立ててみせる。


「それはつまり、正当さ、いいえ、正義です。なにより大事なのはぁ、正義だと思うんですぅ。優先すべき輝きの正当さの正道の真人間街道一直線の太陽がさんさんな心意気です。正義は、とっても大事で、重要ですよぉ、なにせ倫理と権力と実行力の一体化ですからぁ。ただ相手を殴るだけでも気分いいですけど、正義の名の下に殴るのはもっと気持ちいいって、そう思いません?」

「なんかただただひたすら怖いなーとは思います」

「そうですか一輝さんもそう思ってくださって良かったです。そういうわけで、これから色々訊きますけど、安心して、変に偽ることなく答えてくだされば大丈夫ですよぉ。安心してください」


 色々と言いたい事はあったが。それら全てを飲み込むことに決めて、一輝はただ相手の言葉を待つことにした。

 

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