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   27 真の願望否定の力

 

 考えてみれば、簡単な話ではあった。

 チート能力者はチートに頼る。願いを叶える異能に魅入られる。

 その力が強ければ強いほど――人間としての枠を超えさせ、巨大な充足を与えれば与えるほどに。

 そうであればこそ。チート能力者にとっての最初の弱点は、チートに依存することにあった。己がチートを信じ、それと共に在りそれによって身を立てることに終始するがあまりそれ以外の力を軽視する。


(俺も、その一人だったってわけだ)


 奇妙にも遅く、淀んで感じられるような時間間隔の中で一輝は自覚していた。

 そもそもが、馬鹿な行為ではあったのだ。ついこの間までただの高校生であった人間が、強力な力を持った暴徒かテロリストか、といったような人間と戦うなど。

 一輝のチートは、問答無用で敵のチートを消し飛ばし奪う、他にない力であり強力な力だった。ほとんど訓練もせずに一輝はそれを操り訓練教官のチートに対抗することが出来た。

 ようは、いい気になっていた。

 もし敵が、ライフルを構えたアメリカだかイギリスだかの特殊部隊や軍警察などだったなら、裸足で逃げ出していたはずだった。それに対抗しようとしたのは、ここが異世界で、チートなどと言う魔法の力が活躍するファンタジックな場所であり――一輝自身の頭の奥から、自分がいる場所が現実と言うよりはゲームのようなものであるという認識が完全に消えてはいなかったからだった。

 モート・ダリットは、それに対して容赦がなかった。

 彼が放った小さな立方体は、そのサイズに似合わぬ威力で破裂している。地球で言えば手榴弾かダイナマイトといったところだろうか。

 モートは最初からチートに依存してはいなかった。スピカと一輝を相手に、自身の戦闘技能を周到に扱い、チートもその一部として運用していた。

 目くらましに、誤魔化しにチートを使い、本命の攻撃としてただの小型爆弾を使ったのだ。

 そこまで理解して。理解したからどうなるというわけでもなく。

 振動と熱、石片の群は純然たる物理法則にしたがって、急速に広がり、迫っていた。一輝と、その背後のスピカに向かって。


(盾になれば、スピカは無事でいられる、か?)


 瞬時に考え、しかしそんな保証は何処にもないと歯噛みする。

 何もかもが馬鹿げた選択と行為の結果であり、その責を負うのは自らのみではないのだという認識が、一輝の腹を満たし胸を満たし喉元を駆け上がって頭の中で渦巻いた。

 咄嗟に、一輝は腕を振り上げていた。迫る爆発威力の猛威に、腕一本が何を出来るわけでもない。だが、彼はがむしゃらに、その意識を爆発へと向けた。


(何か――ないのか)


 念じる。異世界で、超常の力のはびこる世界なら、なにか都合のいいものはないのか。

 一輝自身のチートは、他者のチートに働きかけることでその性能を発揮する。他者の願いを捻じ曲げ、消し去るのがその力だ。起こってしまった物理現象をどうこうできるものではない――。

 が。

 何か、奇怪な引っ掛かりを覚えて、一輝はそのまま意識を集中した。チートを発現させて、目に見えない力の波を広げる。


(あの『声』は、俺に何と言っていた?)


 思い返す。危機的状況が目の前に広がり、差し迫っている状況で、僅かな時間を使って最大限に。


 尖兵。カウンター。願望成就のシステムに対する。

 力。

 願望を絡めとり――

 破壊する。


 力の意志が伸びる。真っ直ぐに、目の前の現象に向かって。


(チートだ)


 何の根拠もなく。理由も仮定もすっ飛ばして。

 一輝は感覚していた。自身の力を、それまでより尚深く。敵のチートを理解するときのように、あるいはそれより更に深く。

 意志は超常の力と直結していた。意識の中に、なにか途方もなく巨大なものが接続されて、膨大な熱が流れ込むような感覚が表れる。

 巨大な力につき動かれ去るように、一輝は突き出した腕を更に前に伸ばし、そして同時に押し寄せる爆風を押し返すように大音声で叫んでいた。


「失せろ!」


 瞬間、声と共に、彼の意識と身体を通って何かが放たれていた。

 それ自体は目に見えるものではない――が、それが及ぼす影響は、すぐに明らかな形を持って表れていた。

 ほんの僅かな間に大きく球状に広がろうとしていた爆発の威力が――爆風、飛散する石畳の欠片、炎と熱、それらが、一輝に近い場所から一気に、ごっそりと削られ始めていた。

 それは爆発の勢いに等しい、劇的な変化だった。目に見えない力が、まるで次々と喰らうかのように、爆発を、物理的な現象と存在を、問答無用で削り取り消し去っていた。

 それこそが、願望破壊の、願望否定の力の真髄なのだと、なぜだか一輝は理解していた。

 願い。願望。そうあれかしと思うということ。

 チートに限らず、あらゆる人間の意識的な行いは願いを持って行われる。願望否定が自身のチートなら、なぜその対象がチートに限られるいわれがあるのか……それが、一輝の考えたことだった。

 願いの元に起こされた現象ならばそれこそ砕き得る対象となるのではないか。

 あるいは、そもそも願いというものが人間固有のものといえるのだろうか。

 もし万物――無機物を含めあらゆる物質存在、精神的存在が、その非物理面において人くくりに出来るならば。突飛過ぎる想像ではあるが、そもそも万物を万物としてわけ隔てているのは言語でしかない。

 本質的に世界というもの自体が一くくりならば、その中で『願い』はどこまで影響しているのか。


 『存在し続けること』は願いではないのか?


 そして、もしそれらが全て願いによるならば。

 それを破壊するのが、一輝のチートだった。

 ごっそりと、一瞬にして爆発の影響のあらかたを、一輝の力は飲み込み消し去っていた。何の抵抗もなく、吹き荒れかけていた力が消し飛び、それだけに留まらず爆心地の地面を大きく抉りとり消滅させ、それでようやく変化が収まる。

 大気までもが一緒に消滅させられていたのか、爆発地点に向かってやや強い風が短く吹き、一輝の背中を押した。

 その力に逆らわず――逆らえず、一輝はその場に膝をつき、倒れこんでいた。爆発の効力はほとんど消滅させていたが、それでも強い振動や小さな石の欠片をいくつも身体に浴びていた。

 痛みと混乱、自分の起こした現象への惑いの中で、一輝は消耗した意識をどこか深い場所へと落としていった。

 

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