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   25 サークルはチートを肯定する


 基本的な身体能力も、体捌きも小技も何もかも、一般的な戦闘技能では、劣っている。

 自覚して、一輝は自ら仕掛けることに決める。

 一輝の周囲に現われたのは、三人の男たちだった。特段替わったところのない服装の男たちだが、皆濃厚な剣呑さを気配として発している。

 男の一人が踵を軽く地面に打ちつけた。軽い音が鳴り響く。既にその段階で一輝は動き出していた。が、突然身体の中心まで響く痛みに、動きを止めた。


「振動――」


 呻いて、痛みが巨大化する前に相手のチートを打ち消す。瞬時に集中しチートへアクセスし無理やり消し去る。

 その隙に残り三人が動き始める。一人は肌の下から金属のようなものを滲ませ、全身をすっぽりと覆う。鉄色のボディ・スーツに包まれた男に続き、もう一人が腕を振り上げて唱えた。


「斬陣撹乱せよ!」


 声と共に、男の周囲に無数の刃が現われた。どれも剣の形をとっており、地球の中世の騎士が持つようなものから大き目の台所用具のようなもの、全くどんな世界で使われているか想像つかないものまで、多種多様な刃が宙に浮き、ゆったりと旋回し始める。


「アニメだな、ほんと」


 吐き捨てて、一輝は男たちのチートに意識を向ける。四人のチート・四種のチートを同時に把握することは難しい。判断を下して、彼は最初に仕掛けてきた男のチートを奪った。

 接触振動。身体を打ち付けて物質を振動させ、その規模と威力、指向性までを操る。

 爪先で地面を小さく蹴り、同時に手の平を打ち鳴らす。


「無駄だ――」


 一輝の行為に、力をハックされた男が告げて、自らも一輝とそっくり同じような動きをして振動を生み出す。

 同時に、金属の輝きに覆われた男が一輝に迫る。内臓まで響く振動を前後から受けながら、しかし大した痛痒を覚えてもいないようで、素早く接近する。

 一輝はスピカの腰に腕を回して引き寄せ、そのまま立ち尽くした。金属男がコンパクトな動作で拳を打ち出し、殴りかかる。


「一輝さん――!」


 うろたえて、スピカが悲鳴を漏らす。が、一輝はそのまま彼女を抱えて、相手の拳がぶつかる瞬間を待った。

 接触するその刹那、抱えていたチートを放り出して、入れ替える。金属男のチートを消し去り簒奪し、自分たち二人を金属の殻で覆う。

 振動が殻にぶつかる。それに続いてチートを奪われた金属男が生の拳をぶつけ、手首が異様な方向へと曲がる。

 舌打ちして下がる金属男の背後から、大量の刀剣類が空を泳ぐ魚の群のようにして飛来し、一輝とスピカに襲い掛かる。

 が、届くより先に二人は足元に落ちた。

 空間連結能力のハックによって開いたゲートによって、二人は近くの一階建ての建物の屋根へと移動していた。四人の敵を見下ろす位置に立って、一輝は金属の鎧を解除し、すぐさま立て続けに指を鳴らした。

 振動のチートを奪い操り、多重に振動波を生成し、敵たちへと鋭く打ち出す。


「私の力だ、私以上に操れるものか!」


 チート元の男がまたも一輝と同じように、指を鳴らした。一輝と同じ振動を生み出しているのを、一輝は確認して目を細めた。


(相殺している)


 理解して、更にまた指を鳴らした。一度、二度、三度――タイミングを変え音の高さを変えリズムを刻み調子を変化させ――相手もそれに合わせて波を生成し防御するが、数秒ほどそんな攻防を続けるうちに、その顔に戸惑いと怖れの色が浮かび上がってくる。


「これは――どういうことだ」


 敵の男は少しずつ、振動を殺しきれずに力負けし始めていた。

 容赦せず、一輝は攻撃を続ける。素早く、立て続けに。

 相手の状態、脈拍呼吸全身の肉の動き視線瞬き――諸々の情報をスピカのチートで見て取り、先読みし、相手のペースを乱し隙を生み、付け入って破壊する。

 更に数秒で、完全に一輝が打ち勝つ。特大の振動波が四人に炸裂する。

 石畳がばらばらに吹き飛び、散乱する。

 細かな石片や砂埃が舞い上がり――その中から刃が飛び出してくる。


「裁断即行する!」


 声と共に切っ先がスピカを狙って降り注ぐ。

 腕を金属で覆い、一輝はスピカの前に立ち塞がった。高速で飛び回る刃を金属の腕で受け、逸らし、弾く。通常の認知能力では対応できないほどに刃は多く、素早かったが、スピカの力があれば何とかついていくことは可能だった。


「俺もいるぞ?」


 低い声が刃の群の中から一輝の耳に届く。金属を身に纏った男が、周囲の刃の嵐を気にせず、むしろそれと一体化して襲い掛かってくる。


(切り替えが間に合わない)


 内心で呟く。敵のチートをフルに活用できればどんな局面にも対応は出来るかもしれない――が、一度に出来るハックは、二つほどの能力がいいところで、同時にチートを複数操っている状態では敵のチートの無効化も難しい。意識を集中し、目に見えない力のシステムを掴んで操るのは、目を閉じて折り紙をするようなものだった。慣れれば出来なくもないが、多くを同時にこなすのは困難でしかない。


「スピカ! 俺の身体を使って攻撃を凌げ!」


 言って、一輝は身体の各所に金属をまとって、スピカの能力を意識から手放した。

 同時に、身体を動かす意志も捨てて、棒立ちになる。

 スピカは何かを言いかけ、しかしすぐに一輝の意図を理解して、その身を一輝に寄せた。チートを強く発揮し、一輝の意識に自身の意識の一部を滑り込ませ――憑依した。

 身体を操り、自らを一輝に抱えさせ、動き回って刃から身を守る。

 その間に、一輝は空いた分の意識の余裕を使って、最初に金属男のチートを消し飛ばした。たちまち周囲の刃に切り刻まれる男を見やりつつ、彼が事切れるより先に、刃の群へと意識を突き刺す。

 刃を操っていた男が顔をしかめるが、既に遅い。一輝は制御を奪い、無数の刃をそのままそっくり敵に向けた。

 男は新たな刃を生み出し、それでもって自分を守ろうとした。が、そのときには既に金属男が死に、金属鎧のチートはその源から消え去っていた。一輝は生身に戻り、チート操作のための余裕をまた新たに得ている。

 チートが無効化され、生み出された刃たちが地面に転がり金属音を連続で響かせる。


「王命必至の理を――」


 口走りかけて、一輝の操る刃に全身を貫かれて、獣じみた悲鳴を短く上げる。

 その時点で、一輝とスピカの足元に空間連結窓が開きかけていた。モート・ダリットが一輝たちとは別の建物からチートによって、攻撃を仕掛けていた。開きかけた窓の向こうは空高くから見た街の光景が広がっている。落ちれば、無事ではすまない。

 だがそれも、一輝は一睨みして無効化した。


(自分の身体の動作すら意識から捨てて――それでようやく同時に三つ、か)


 意識し、チートを手放す。浮遊剣のチートと、二人の敵のチートの消去、同時にそれらを行ったせいか、意識がぐったりと重い。

 スピカが一輝の意識から身を引くと、少しばかりふらついて、一輝は商店の屋根の上に踏ん張った。


「……なるほど、恐ろしいものだな」


 モートの言葉が、そんな一輝にまたも届けられる。あちこちで悲鳴が上がり喧騒が大きくなる中で、不思議とよく通る声が、二人の耳朶を打っていた。


「そのような奇妙な力は、見たことがない。あまりにか弱いようであれば部下を抑えなければならなかったところだが――逆に、援護しつつも四人も一時にやられてしまうとはな」


 そこまで言って、モートは笑った。整えられた髪の下から一輝を試すように注視する瞳には、余裕と淡白さ、それから微かな皮肉の気配が窺えた。


「二人とも、並のアルドではないというわけか。……まあ、そうでなければ困る」


 モートは軽く足を踏み出し、数階建ての建物の屋上から、そのまま宙へと身を躍らせた。自分の落下する先に空間連結窓を生み出して、落下する。

 咄嗟に一輝はその窓を消し去った。

 が、モートはそれを予想しきっていたようで、建物の壁に腕を伸ばし、突き出した窓の鎧戸などを掴んで減速し、あっという間に地面に降り立ち――そのまま足元に窓を生み出して消える。

 嫌な気配を感じて、一輝はスピカを引っ張りながらその場を飛びのいた。二人が立っていた位置に、ぎりぎりのタイミングで空間連結窓が開いていた。

 飛びのいた勢いそのままに屋根から飛び降りる。一階分の高さを落下して、転がりながら着地する。

 立ち上がると、数歩離れて目の前に、モートが背筋を伸ばして、最初からそこで待ち続けていたように二人と目を合わせた。


「藤沢一輝。スピカ・パールヴァティー」


 名を呼んで、彼は軽く両拳を握った。力強く表情を引き締め、身体を緊張させる。


「試させてもらうぞ。サークルはチートを肯定する。お前たちのようなチートならば特に、な」


 一方的に告げて、彼はチートを操り、空間をねじり繋げながら、先ほどまで戦っていた仲間の骸を踏み越えた。


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