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   10 何でそうアグレッシブに


 声がかかったのは、緩やかなカーブを描いて学園内の敷地の外れへと向かう道の途中だった。狙ったものなのかどうなのか、近くに建物が少なく、周囲は公園のような整備された広い自然のスペースとなっている。道の周りに広がる芝生の広場の周囲にはベンチや小さな噴水が見えたが、人影はほとんどなかった。


「もう一度訊く。スピカ・パールヴァティと、フジサワカズキだな?」


 相手は、一輝とスピカに立ちふさがるようにして立っていた。声をかけてきたのは一人だが、その一人に従うように更に三人が行く手を防いでいる。全員が、スピカより少し年上くらいの少女だった。フェーリスと同じくらい――十七、八といったところか。洋風な顔立ちのが一人、アジア系に見える顔立ちが二人、地球で言う人種に当てはめづらいような中庸な容貌の少女が一人。

 その全員が、スピカと同じものらしい制服を身に纏っていた。清楚であるようにも、逆にどこか挑発的にも見える奇妙な制服を、それぞれがそれぞれに着崩している。誰もが腕を組んだり肩幅に足を開いて立ったままこちらを睨んだりと、あまりいい雰囲気ではなかった。皆若い、学生らしい年齢の少女なりの美しさはあるが、花の美しさというよりは優れた刃物のような剣呑な美麗さが目立つ。誰が発したものが、舌打ちのようなものまで耳に入ってくる。

 声をかけてきた先頭の一人――もろに欧米の白人少女らしい容貌を持っている――に対して、とりあえず一輝は一歩前に出て答えた。


「いえ、人違いです。俺はドンゴプフで、こっちはエイミーです。アフリカのザンビアからダムの技術を学びにきました」

「一輝さん……?」


 どこか心配するような目つきで、スピカが戸惑っていた。咄嗟に小声で告げる。


「いや、どう考えたって剣呑な雰囲気だから、咄嗟に嘘で切り抜けようと」

「この世界のこと知らないのに何でそうアグレッシブに攻めるんですか」

「まあそれはそうか」

「アフリカって何ですか。ダムは分かりますけど……」


 ひそひそ話を素早く繰り広げて。一輝は四人のほうに向き直ると、軽く頭を下げて前進しながら愛想よく断りを入れた。


「じゃあ、デンガラドンパン王国探訪のテレビ企画があるんで、これで。サワディーカップ」


 出鱈目言って、それから合掌して一礼し、そのまま通り過ぎようとする。が。


「待たんか」


 あっさり通せんぼされて、止まる。


「嘘をついて場を切り抜ける方法としては今までに見たことのないひどいレベルのものを見た気がします……」


 考え込むようにスピカが軽く頭に手を当ててうめいていた。


「何をふざけているのか知らないが、そちらのことは知っている。ミトラ中枢管理区域から出てきたのも知っているし、そこからここまでトレースもしている」

「なんなんですか? そっちは――モリガン・クラスの方ですよね」


 スピカが警戒を滲ませながら、確認する。


「あれ、知り合いだった?」


 一輝が問うと、スピカはやや曖昧に否定した。


「直接の知り合いっていうわけではないです。学園は人多いですから知り合いってどうしても一部になっちゃいますし。ただ――」

「私はジニア・ウーズ。先日拘束されたトラン・カッパーベルトのクラスメイトだ」


 言いかけたスピカの声にかぶせて、立ちふさがる少女が鋭く言い放つ。

 事情が見えずにスピカと四人の間に視線を彷徨わせた一輝に、彼女は続けた。


「お前も見ていたんだろう。いや、話によれば、お前もまたその拘束に直接関わったらしいじゃないか?」

「何の話だ?」

「召喚機の中で緑色の髪をした人間を抑えただろう?」


 それが、トラン、という人物らしい。理解して、一輝は改めて相手を見やった。あの電撃少年の、クラスメイトだという。


「何のつもりですか?」


 スピカが、少し前までの一輝との会話で見せていた柔らかさを隠して、硬く尋ねる。

 それを受けて、相手はせせら笑った。馬鹿にするように。


「召喚機に無断侵入して、ミトラの管理外の能力者としてチートを扱い学園の生徒にまで牙をむいた男を確認しておこうと思ってな」


 あからさまに棘のある言い方に、スピカがむっとするのが一輝にも気配だけで分かった。


「牙をむくだなんてそんなこと、一輝さんはしてません!」

「なら実際に牙をむいたのはお前か? それともフェーリスのやつか? なんにしろ、人のクラスの人間を拘束しておいて、不審者は保護しているお前らだ、誰がどうであろうとあまり変りはない」

「不審者って……」


 ぎゅっと、いつの間にかスピカは小さな手を丸めて拳を作っていた。真っ直ぐに怒りかけているのが、やや紅潮した頬の色からも見て取れる。


「一輝さんは、ミトラが取調べを行なったうえで、学園に仮編入されている生徒です。そんなのじゃありません」

「取調べ? たった二日だか三日だかでか? 大した話だな。チート転生者のやつらが組織だってミトラを攻撃するご時勢に、何とも馬鹿らしい話じゃないか。だれもそいつが転生者たちの送り込んだ間者だと本気では疑わないのか?」

「一輝さんは精神探査を受けています。転生者とは関係ありません」

「その精神探査とやらも、お前が行なったんだろう。それに取調べを引き受けていたのは、お前たちのクラス教官のマリーチャ・カーリーだ。そのくらいの話は、学内にしっかり目を向けていれば知っているさ。教員連中にも口の軽いやつはいる」

「何が言いたいんですか」

「さあ? だけどアルドの中にも転生者の仲間に鞍替えするやつはいるしな。よく出来た話だと思っただけだよ」

「言いがかりでしょう――どいてください、一輝さんを寮に案内する途中です」

「寮? ああ、お前らゲテモノクラスの愛の巣か? なんだ、お前ら単に足りない男っ気を連れ込みたいだけか?」

「つまらない罵倒がしたいだけなら壁に向かって話していて下さい」


 スピカはきっ、と相手を睨み返して言った。相手に対して少しばかり背丈が足りない分を、態度で補おうとしていた。


「大体、最初に規則を犯して召喚機に――それこそ侵入したのは、あなたたちのクラスの新人でしょう。警備任務を与えられていた私たちがそれを拘束したのは当然です。クラス内からそんな人間を出しておいて、私や一輝さん、それにマリーチャ先生まで不審者扱いするんですか?」

「……マリーチャさんはまあ、すこぶる不審だったけどなぁ。主に格好に関しては」

「一輝さん、冗談言ってる場合じゃないです」

「いや心の底から本気なんだけど……」


 呟くが、その場の誰も聞いてはいないようだった。


「――トランは、まだこの世界に来て日が浅かった。深い傷も抱えていた。ただ、自分が救われるためにもう一度神々と接触したがっていただけだ」

「それはそのまま、召喚機の、チート能力の乱用じゃないですか。自分がただ救われようと、幸せになろうと、チートを乱用して世界を乱す転生者と同じ――対抗者であるアルドが言うことじゃないでしょう。個人の願いのために召喚機を使おうとするだなんて、より強い力を得ようと召喚機を狙っている転生者たちとそれこそ内通を疑われかねませんよ。誰もが避ける、重い違反行為です」

「ふざけるな! そこのカズキとやらは既に解放され、手厚い保護を受けることになっている。精神探査で無実とされたから? だがよく分からない能力者という意味では本人の意思など関係なく大いに危険性を孕んでいるだろうに、どうしてそいつが解放され、トランは拘束され続けている」

「それはミトラの中枢管理官の判断です! 総合的にその危険性を判断した上で下された決定で――」

「不当に偏った決定、だろう。特別扱いのマリーチャ・クラス。また何か特権でも引き出したか? ミトラもひどい組織に成り下がったものだ」

「あの」


 それまでずっと大人しく両者の話を聞いていた一輝は、気がつけば声を上げていた。


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