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マァムside

何の前触れなくアレス様が突然、少女を抱き抱えたまま帰宅され時には驚きましたが、(ワタクシ)はそれ以上に嬉しく思いました。


私がアレストファ公爵家に務めて30年程たちますが、あのような穏やかなお顔は初めて拝見いたしました。


長年遣えている私共使用人さえ知らない、魔導師の真名をお教えする程です。

よほど大切なお嬢様なのでしょう。


なのに、それほど大切にしているなら、構っておあげなさい!


「旦那様が冷たいです。これが倦怠期というものでしょうか………」

なんて言ってました。もちろん、報告しましたともっ!


こちらの世界に来たばかりの、右も左も知らない(そのままの意味でも)少女を放置して朝から仕事ですか!

確かに仕事は大事ですよ!

ですが、倦怠期を否定する私の身にもなって下さい。


垂れた耳と尻尾が見えましたよ!私はっ!


あのように寂しがられて……


四六時中一緒にいた方が、夜には帰って来ると分かっていても、ずっと御側にいなければ寂しいものです。


今日もアレス様のお部屋で絵本を読まれていますが、寂しい御様子でした。


新しい絵本か流行りの菓子でも買ってきましょうか。


今、読まれている絵本はお気に入りですし読み終わる頃には、買ってきた菓子をおやつに新しい絵本を読んで頂くのも良いかもしれません。


善は急げと買い物に出掛けることにしました。


時間にして30分程の買い物です。

まさか、帰って来るとお嬢様の姿がないとは思いもしなかったです。


使用人総出で捜しました。


実は初めてではありません。

お嬢様は何処でも寝てしまうのです。


クローゼット、食器棚、使用人のベッド、果てには庭師が落葉を集めた袋の中まで……

庭師が焼却する前で良かったです。


落葉にしては重さがあったので発見された模様……


ですが、屋敷を隈無く探しても何処にも居られないのです。

まさか寂しさの余り家出、もしくはアレス様に仇なす者の誘拐が考えられます。


最悪のことも考慮し、アレス様に連絡すると、すぐに駆け付けて下さいました。

その表情には焦りさえ見られます。


「状況はっ?」

「屋敷内には居りません…また、侵入者を感知した者も……」


屋敷に侵入者がいた痕跡はありませんでしたが、絶対ではありません。

私共より力量が上の者はそういませんが、数が少ないだけで私共以上の強者は存在します。現にアレス様が存在いたします。


「申し訳ありません。私がお側を離れたばかりに……」


頭を深々と下げ謝罪します。


使用人として主人の大切な方から一時とはいえ離れた。


「ワリィ、俺達も侵入者どころか、お嬢が居なくなったのさえ気付けなかった……」

「俺も……面目無い……」

「申し訳ありません」

「留守を預かりましたのに役目も果たせず、申し訳ありません」


今、謝罪以外に出来ることはない。


アレス様は考える素振りを見せると言いきりました。


「………君達が気配に気付かなかった……あの子、また一人で外に出たね……絶対」


「ですが、侵入者の可能性もっ……」


私共が気付けないほどの者なら断言は出来ません。敵が魔導師と同等なら……


「誘拐なら暴れられれば気付くだろうし、部屋に暴れた痕跡はないだろ?」


確かに窓が開いていた、だけでしたわ。

………そういえば……


「ウサギのぬいぐるみが、ありませんでしたわ」


「…………」


アレス様の眉間に皺が寄り、頭を抱えていらっしゃいます。


えっ、ぬいぐるみに何か関係がありますの!?


「はぁ………あの子、確実に森に行ったね」


一人で森へ!?どうやってですの!?


アレストファ家は外敵から守る為、先端が槍状の鉄柵で屋敷は囲まれ、唯一の出入口には偽物の通常の(フェイク)とは別に、魔道具認証の鍵が設置されている。


リンはまだ認証設定されていないので門から出ることは出来ない。


「あの子は元猫だよ。しかも魔力付きの……気配を消されたら、いくら君達でも気付くのは無理だから」


野良猫の存在は見て知ることは出来ても、野良猫が何処に居るかは、姿を現すか声を出さない限り分からないものである。


寝ている場所が見つけられるのも、猫は暗くて狭い場所を好むのを知っているから。


屋根で寝る猫さえいるのだ、猫に柵など意味はない。


「森には魔物が!!」


急いで捜索しなければ!!


「お嬢様の魔力の欠片は元はアレス様のですわ!探知は出来ませんの!?」


「………やってるよ。但し、今はあの子の魔力で俺のではない。魔力を探知するには微弱だよ。生きていることしか分からない……」


「探してきます!」


生きていますが怪我をしているかもしれませんわ。寂しく泣いているかもしれません。


暗くなる前に見つけてさしあげなければ……


「マァム!闇雲に森に入るな!」

「入るなら武器くらい持て!」

「すでに、所持してますわ」


私が丸腰のままなはずなわけ、ありません。


「もう、お年ですし無ちゃ……」

「貴女、もうすぐ6じゅ………」


ドカンッッッ!


パラパラ………


壁に穴あり。


「な、ん、で、す、っ、て?」


「「なんでもありません!」」


女性の禁句を軽々と………!!!!


誰が年寄ですの!

それに私は50代ですわ!


まだ現役ですし見た目も30代で通じる容姿ですのよ!


年齢不詳のアレス様には劣りますが……


「そんなことより……」

「!帰って来た」


アレス様が私の言葉を遮ると門へと足を進め、私共も後に続きます。


門はアレス様の魔力で自動で開き、そこには………


「ただいまです!」


笑顔のお嬢様………


「旦那様、マァム、お帰りなさ~い」


挨拶されるお姿もお可愛らしい。


そう、いつも通りですわ。


例え、ボロボロの血だらけドレス姿だろうと…

例え、魔物の死体を引きずっていようと…

例え、手から魔物の血が滴り落ちていようと…


ウサギを抱き抱える姿は可愛らしいですわ。


「マァム帰って来い……」

「現実を見ろよ……」

「調理するようでしょうか……私が魔物を…… 」

「花は毒草入りのようですね。何故髭に……」


アレス様の予言が当たりましたわ。

さすがは、魔導師ですわ。

獲物を仕留めた猫を怒らず褒めるのでしたわね。


たしか…………


褒めて、褒めてとキラキラした瞳を向けて、獲物と花を見せるお嬢様………


アレス様は頭を抱えながらも頭を撫でていますが、後からお説教もあるでしょう。


私共もですが、アレス様はさらに心配なさってましたからね。


お嬢様の行動は予想外でしたがアレス様の生き生きされた表情も予想外ですわ。


「マァムにも!」


ピンクの花を一輪差し出すと笑って、他の使用人達にも配るお嬢様。


私、魔導師ではないですが予言いたしますわ。


アレス様にお叱り頂き、しょぼくれるお嬢様に甘い菓子と新しい絵本を。


ご機嫌になるお嬢様に溜め息をはくアレス様。


貰った花を枯れぬよう魔法をかけて、自室に飾る私共使用人。


お嬢様が居られるだけで花が咲いたような、春の温かさを感じます。


ここはアレストファ公爵家


お嬢様が帰られる家






お帰りなさいませ、お嬢様




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