喜んで欲しいな
あれから早いもので一週間たちました。
旦那様は王宮に仕事をしに行っていて、遊んでくれません。
代わりにマァムが絵本を読んでくれたり、庭へ散歩に連れて行ってくれます。
文字は覚えましたが意味が良く分からなかったので辞書で見つけますが、それでも分からない時はマァムか旦那様に聞いています。
二人は物識りです。
今日もお部屋(アレスの書類部屋)で絵本を読みます。
旦那様に今日も寝物語を聞かせてあげましょう。
…………………………飽きました。
散歩に行きたいのです。
でも、マァムがいません。
「一人で森に入るの禁止だから」
と、旦那様が言ってました。
「約束しました。でも、マァムがいません」
マァムは町に買い物に行っています。
「私も行きたかったのです」
ソファーに置かれたウサギのぬいぐるみに話しかけますが返事はしません。
ふてぶてしい野郎です。
「散歩、外、一人駄目………」
マァムが帰って来るまで待つ………でも今、行きたいのです!
ウサギを持ち上げて考えます。
「………一人で行かなければいいのです!」
私、冴えてます。
閃きました。
ウサギと私、これで二人です!
「ウサギもたまには散歩に行きましょう!日光浴というものです。ウサギをモコモコにします」
ウサギを抱きしめたまま、窓から飛び降ります。
お部屋は二階だったのでスカートが捲れ、視界を覆いましたが、着地地点さえ降りる前に確認出来ていれば問題なしです。
「行ってきま~す」
家を出る時は、きちんと挨拶します。
父、母、旦那様、マァムも言ってました。
ウサギは話せないので代わりに、ウサギの手を持ってバイバイさせます。
これで大丈夫です。
お家の庭のすぐそばに森はあります。
マァムとは塀が在るところまでしか、行ったことがないので今日は塀の外まで行きます。
塀は旦那様より大きいです。
塀の上には沢山のトゲトゲがあります。
ウサギを片手で抱えて跳び上がり、トゲトゲと塀の間に手を着けた反動で、両足を水平に揃えて跳び越えます。
ビリっ!ビリビリ
スカートがトゲトゲに引っ掛かり破けましたがウサギは無事です。
着地も成功しました。
さぁ、お散歩です。
「ふん♪ふん♪ふ~ん♪」
久しぶりに木登りしました。
やっぱり高い所はいいのです。
木からお家が見えました。
お土産にケーキではないですが、花を摘みます。
王子様がお姫様に花を渡して結婚を申し込んだりもします。
絵本で読みました。
お姫様は喜んでいたので旦那様も喜びます。
花束みたいに綺麗には出来ませんでしたが、上出来です。
赤、黄色、ピンク、白、緑、青、紫、黒など。
普通の花や花にしては変な色や形のもありますが初めての花束です。
ただ花を纏めるリボンがありません。
これではすぐにバラバラになってしまいます。
代わるものを探していると、何やら気配が感じられました。
「ウサギは花を見ていて下さい」
ウサギと花を木陰に移して、気配を探ります。
腐った匂い、ピチャピチャと水滴が落ちる音。
四つん這いになり、気配がする方へ目をやり、すぐに木の枝へと跳び上がります。
ザッッッ
警戒したのに気付いたソレは、いきよいよく突進してリンが居た場所の土を抉り牙をたてた。
「鼠?」
灰色、前歯、丸い耳、長い尻尾に髭。
ただ、大きさは猪ほどあり、口からは長い紫色の舌が出て唾液が地面に落ちるたびに草が枯れ土が変色した。
「ここの鼠は大きいのです。食べても大味なのでしょうか?」
美味しいのでしょうか?
人間なら美味しく食べれる料理に出来るかもしれません。
リンは木から鼠に足を向け跳び降りると、呆気なく鼠は横転した。
鼠は直ぐ様、起き上がると口を開けて襲いかかるが、そこには獲物の姿がない。
「こっちですよ」
パンパンとっ手を叩くリン。
再び襲いかかるも踊るように避けらるだけで、肉までにありつけない鼠。
何度かそれが繰り返された。
「つまらないのです」
鼠は速いから遊ぶのが楽しいのに、この鼠は遅いのです。
もう、日が暮れます。
旦那様とマァムが帰って来ます。
「お帰りなさい」の挨拶をしなければいけません。
リンの爪が鈎ヅメのように、硬く鋭く伸びる。
まずは目を。
次に足を。
狩りの獲物が狩られる獲物へ。
鼠は己の危機を悟り逃げようとするが、すでに遅く、目の前には笑みを浮かべる少女。
少女に似つかわしくない爪が、目を襲うのを最後に、光は失われた。
「ギィッッッッッッ!!!!!」
目玉が抉り取られ、続いて四肢の腱を切り裂き、最後に喉に手を刺す。
動かなくなった鼠の尻尾を引きづりながらウサギと花の元へと戻る。
片手にウサギを抱えるが花と鼠が持てない。
花か鼠どちらかしか持てません。
王子様みたいに旦那様に花をあげてお姫様のように喜んで欲しいです。
でも、狩った鼠も見せたいです。
「どっちも見せたいのです…………」
花、鼠、花、鼠、交互に見るも決まら………。
「そうです!!……………これなら両方………」
その日、血だらけの破れたドレスを着た美少女が片手に可愛らしいウサギ、もう片手にはなぜか髭に花(毒草含)をぶら下げた魔物の尻尾を持ち、元気良く
「ただいまです!」
と、帰宅した。