一期一会
タマゴは手に入れました。
家に帰るのです。
待っているのです!私のオヤツ!
「えっーと、嬢ちゃんそんなに持てるのかい?」
「持てるのですよ」
福引きの景品をおじいさんが、テーブルの上に出してくれました。
まずはタマゴを割らないように篭に入れますが、入りきりません。なので景品の鍋にもタマゴを入れます。これで全部タマゴは持てます。
肩に篭をかけて、次に米と小麦の袋は頭にのせます。片手に鍋(INタマゴ)片手に野菜、果物が入った袋を持ちます。ちなみに飴は口の中。
おじさんも周りにいた人間達も驚いてます。
人間、特に女、子供は弱い生き物なので持てないと思ったのかもしれませんが、私は違うのです。
これくらい持てなくては旦那様を抱えられないのです。何より馬ごときが荷物を運べるのに、私が馬に力で負けるわけにはいかないのです。
馬より私のが優秀なのです。
「………重くないかい?」
「軽いのです」
でも邪魔なのです。
これでは走りにくいのです。
タマゴ以外は邪魔です。野菜だけでも捨てますかね。
野菜は嫌いなのですよ。
野菜を捨てるか悩んでいると、何やら騒々しい声が聴こえました。
周りの人間達は気付いてません。
こんなに煩いのに聴こえないなんて、人間は耳が悪いのです。
「------ひったくりだーっ!!そっちに行ったぞっ!誰か捕まえろっ!!!」
広場が騒がしくなりました。
やっとこ煩い音に人間達が気付いたのです。
遅いのですよ。
「邪魔だっ!どきやがれっ!!」
男が広場を掻き分けて乱入して来ました。
手には包丁と女性用のバッグを持っています。
男は包丁を振り回しながら、私の方に向かって来ます。
私の周りの人間達は男を捕まえるどころか、叫び声をあげて道を開けます。
男の障害物は私だけなのです。
「どけっ!どけーっ!!」
「きゃーっ!!誰かっ!?女の子がっ!」
「逃げろっ!」
むっ、何故私が道を譲らなくてならないのです。
私は悪女なのですよ。
愚民は這いつくばればいいのです。
それに包丁は料理人が持つ物です。料理長が『包丁は料理人の命だ』と、言ってました。玩具ではないのですよ。包丁はご飯を作る物であって、振り回して遊ぶ物ではないのです。
それに何ですか。あのバックは。ゴテゴテのジャラジャラのバックです。成金親父を思い出して気分が悪いのです。私のウサギリュックを見習うのです。
「邪魔だっ!どけっ!!」
「男が話し掛けるなですよ!」
「なっ!?グハッ!!!」
向かって来た男の腹に回し蹴りと、ついでに野菜、果物袋(2セット)で顔面を叩き付けてやります。
果物(林檎、蜜柑)野菜(ジャガイモ、人参)ダブル攻撃で男は鼻血を出しながら倒れました。
旦那様に男に声を掛けられたら殺していいよと、言ってました。
お店の人間や下僕は別です。それはそれ、これはこれなのです。
痛みに呻いている男に容赦なく再度、袋で殴ります。
撲殺するのです。
ついでに、これで野菜が潰れて食べられなくなればいいのです。果物はジュースになりますから良いことばかりなのです。
これぞまさしく『計画犯罪』。
男は死んで、私は野菜を処分でき、果物ジュースを飲める。
一石二鳥なのです。
そのまま何度も何度も繰り返し、男を袋で殴っていたら、男はピクリとも動かなくなりました。でもまだ袋の中身は潰れてないのです。
人間より野菜や果物のが強いとは、やはり人間は弱いのです。
もっと強くなければ自然界では生きられないのですよ。人間社会はこれだから駄目なのです。
「えーと、じょ嬢ちゃん。そいつ、もう気絶しているし、その辺でやめないか?」
「まだ(野菜、果物が)潰れてないのです」
「(窃盗犯)潰れてるからっ!見ろほらっ、顔面崩壊もいいところだからっ。お願いだからやめてっ、見てるこっちが痛いわっ!」
「見なければいいのです。それに声を掛けてきたのはこの男の方なのです。殺される覚悟は出来ていたはずです。私に声を掛けるとは万死にあたいする所業なのです」
「なにそれっ!?理不尽だから!」
福引きのおじさんが煩いのです。
私と男を囲うように人間達が集まっています。
「公開処刑なのです?」
「そんななりの嬢ちゃんに、そんな物で処刑される男が可哀想だわっ!おいっ!誰か警備兵呼んでこいっ!」
私の何処が可笑しいのですか?
リンの今の状態。
頭に米、小麦袋装備。
左肩に篭(INタマゴ)。
右手に鍋(INタマゴ)。
左手に武器(野菜、果物袋2つ)。ちなみに袋は血だらけ。
しかも黙って立っていれば、誰もが振り返る程の美少女。
撲殺は確かに嫌だが、その凶器が野菜、果物なのが遥かに嫌であろう。まだ包丁で刺殺のが窃盗犯もうかばれる。
これで殺される男のが哀れだ。
そんな一般的思考など子猫が理解するわけがない。
リンの脳内を占めるのは『潰す』ことのみ。
周囲の人間達がリンの所業を言葉で制止するも、目的を達成しない限り、リンは止まらない。
窃盗犯の鼻の骨が折れ鼻血を出そうが、血に染まった袋で殴り頬が腫れ上がろうが、歯が折れ口から唾液、血液、嘔吐物が出ようが、窃盗犯の目から涙が流れたまま意識がなくなろうが、リンの野菜、果物が潰れない限り、暴力は続けられた。
…………………そう、思われた。
「そこまでにせんか」
リンの凶器がナイスミドルな顎髭美中年によって妨害された。
凶器を掴まれこれ以上攻撃出来ぬようにされたが、リンは空かさず凶器を手離し蹴りを入れるも、それを中年はリンが離した凶器で受け止めた。
リンの蹴りは手加減していても骨折する程の威力があり、野菜、果物には耐えらるはずもなく、グチャッと潰れる音が袋内で鳴り響く。
本来であれば凶器ごと受け止めた相手さえ、窃盗犯のように地べたに転がるはずが、潰れたのは凶器のみ。
「(野菜、果物が)潰れたのです。最初っから、こうすれば良かったのです。いらぬ労力を使ってしまいました……………帰るのです」
オヤツの時間なのです。
もう、ここ(町)に用はないのです。
「いや、待ってくれぬか」
知らない男です。
私の蹴りを受け止めるとは、人間にしては中々やります。
遊んだら楽しそうな人間なのです。
でも知らない男とは遊んでいる暇はないのですよ。私はお家に帰って、オヤツを食べる使命があるのです。
「知らない人間とは遊ばないのです。喉を潰しますよ」
「おお、それもそうか。私はサイ。サッちゃんと呼んでくれ」
自己紹介されたら、返すのが礼儀ですね。
私は悪女な良い子なので挨拶くらい、しっかりと出来るのです。
「控えるのです。頭が高いのですよ。私に挨拶する時は靴を舐めて服従してから伺うのが礼儀なのです。名を呼ばれたいのであれば膝まずくのです…………サッちゃん、よろしくなのです。私はリンです。女王様とお呼びなさい。おーほっほっほっ、なのです」
「何その挨拶!?呼んでるよっ!服従してなくても呼んでるからっ!しかも初対面から愛称呼びっ!?」
またしても福引きのおじさんが騒ぎます。
煩いのです。
私の高尚な挨拶にケチをつけるとは、なってません。
これだから低俗な人間は。
「ああ、こちらこそ。リン女王様とは………ふむ、私と同じくちゃん付けでは駄目かな?」
「それでもいいのですよ」
「かるっ!!軽すぎるよっ!拘りないないのかよっ!自己紹介が軽すぎる!!!」
「ではリッちゃんで。これで知らぬ仲ではないな?リッちゃんよ」
「むっ、でも旦那様から男は殺す約束をしたのです。サッちゃんは知らない人間ではないですが、男は殺すのですよ」
「無差別!?えっ俺は大丈夫だよなっ!?基準は何なの!?……………っていうか、さっきからスルー!?俺は空気なのか……ねぇ、お二人さん?あの…………」
「なら大丈夫だ。私は愛妻家な子煩悩な親父様であるからな。其処らの男とは区別される偉大なる父である」
「おお、サッちゃんは凄いのですか。よくわかりませんが格好いいのです。何やら壮大なのです」
「そうであろう。そうであろう。妻に財布を握られ、子には疎まれ、肩身の狭い哀愁漂う、偉大なる親父様なのだよ」
「それは偉大じゃないからっ!普通の一般的な何処にでも居る親父だからなっ!!……………もう疲れたよ。窃盗犯より俺のが可哀想だよ」
周囲の人間達が福引きのおじさんの肩を優しく労るように叩いていきます。
何やらお疲れな様子なのです。
そんなことより、私はお家に帰らなければ!
「サッちゃん、名残惜しいですが私には果たさなければならない重大な使命があるのです。先を急がなくてなりません」
「何っ、それは真かっ!?邪魔をして悪かった。おお、そうだ!詫びに私がリッちゃんの荷物持ちを手伝おうぞ!」
「良いのですか!?」
「うむ、これも何かの縁。リッちゃんは私の友達だからな。友達が困っていたら助けるのが道理である」
「友達?私とサッちゃんは友達なのですか?」
「親友でも良いぞ。いや使命を共に果たすのだ、盟友か?」
「格好いいのです!盟友が良いのです!!」
「それでは盟友よ。先を急ごうではないか」
「はいです!」
サイはリンから米、小麦を預かると二人は嵐の様に町を去って行った。
二人が去るのとは入れ違いで警備兵が現場に駆けつけたが、何やら呆然と立ち尽くす人々と、顔面崩壊の窃盗犯、そして疲労困憊な福引き屋の親父。事情聴取するにも窃盗犯を捕まえた者は現場に居らず、周囲もこの有り様では警備兵もどうしていいか分からず仕舞いであった。




